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051 アップデート修正直前


「初めまして、貴方がモモちゃんで、こっちがタマモちゃんね。私がこの事務所の責任者、カノンよ。よろしくね」

 

 20台後半に見えるんだけど、かなりの美人だ。こんな人なら周りが放っておかないだろうけど、王国の警邏の統括をするぐらいなんだから、かなりのやり手に違いない。

 私達を見て微笑んでいるけど、あまり安心できないよね。


「カノンさんとお呼びすれば良いでしょうか? 私達に用があると聞いたんですけど」

「私達が管理できないNPCに会ってみたいと思ってたことは確かよ。でも今日は私達に協力して欲しくて呼んだの」


 やはりカノンさんの心配事は、今夜行われるアップデートの修正らしい。

 1秒にも満たない時間だけど、ファイヤーウオールが機能しなくなると教えてくれた。これって、イザナギさんが言っていた歪と同じことかな?


「世界中にレムリアンと同じようなVRMMOが作られているの。その中には他のVRMMOと相互乗り入れができるようなものまであるのよ。でも、そんなゲームは直ぐに行き詰ってしまうの。なぜだか分かる?」

「お互いの世界を征服しようと戦が始まるということですか?」


 私の答えに、笑みを浮かべる。当たっているということかな。


「その通り。互いに果ての無い戦をしているわ。リアル世界にまで被害が及んでるの。今回の修正に私は反対したんだけれど、上の方は自信があるみたいね。その自信がどこから来るか分からないけどね」


 この世界に他のVRMMOからの侵入が起こるということなんだろう。でも、それが可能な時間はほんの1秒未満なんだけどねぇ。それでもレムリアを震撼しんかんさせるほどの脅威となるということなのかな?


「相手が軍隊なら騎士団が相手になってくれるし、町の治安は交番の捕り手が何とかしてくれるのでしょうけど、それだけでは不安も良いところよ。警邏部隊も増員はするけど、町の外にはバディを3つ出せる程度。他の町では、それもできるかどうか疑わしい状況よ」

「私達もなるべくフィールドに出ようとは思ってますが……」


 脅威がどんな形をとるかが分からない。たぶんPKに近いんじゃないかとはおもってるんだけど。


「この世界にログインしてきたプレイヤーなら、たとえPKでもリアル世界にまで影響が出ないわ。たまにトラウマになるプレイヤーもいるけど、そんなプレイヤーならこの世界に入らなければ良いだけでしょう? でもね、他の世界から不法にこの世界に入ったプレイヤーによるPKは、システムのバグを引き起こし最悪、リアル世界の人体に影響を及ぼす可能性が高いのよ」


 意識が戻らなくて肉体が衰弱すると、イザナギさんも言っていた。

 違いは、カノンさんの方がその可能性を少し低く見ているぐらいかな?


「でも、未然防止はかなり難しいですよ。行為が行われて初めてPKと分かるんですから」

「そこで貴方達を呼んだのよ。これを渡そうとね」


 腰のバッグに手を入れて取り出したのは、サングラス?

 まん丸のレンズの付いた眼鏡なんだけど、少しレンズがグレーになっているからサングラスに違いない。

 でも……、かなり違和感がある。要するに、ダサイ代物なんだよね。

 年頃の私達が使うんだったら、スポーツサングラスみたいなものが一番なんだけど。


「偏屈な爺さんが作ったものだから、私もちょっと引いてしまったけど、性能はかなりの優れものよ。そのサングラスを掛けると相手の素性が見えるの」


 魔道具ということかな?

 話を聞くと、スタート時のように相手の頭上にポップする名称が見えるらしい。

 青ならプレイヤーだし、緑はNPCだ。PK犯は警告を受けただけなら黄色だけど、レムリア世界への禁足を受けると赤に変わるということだ。


「ここで注意して欲しいのは、PK犯が赤だということね。不正規なルートで侵入したプレイヤーは黒になるのよ」

「例外は無いんですか?」

「無いわ。VRMMOレムリアンのアバター作成は、個人情報をいくつか含んでいるの。例外はNPCだけど、それはモモちゃん達を除いて全員を掌握しているからね」


 私は例外中の例外ってことになるのかな?

 

「だいじょうぶ。モモちゃんは敵ではないわ。調べると途中で制限が掛かってしまうらしいけど、マスター権限でもダメというのが驚きよりも呆れてしまうわ」

「一応、この世界を楽しんでいることは確かですから出来る範囲で協力します。連絡は?」

「メールしかないんだよね……。」


 ちょっと通信が遅れるのはしょうがない。無いよりはマシだもの。


「なら、私がモモちゃん達と行動します!」


 ちょっと離れた場所から女性の声が聞こえてきた。

 全員がその方向に顔を向けると……、ちょっと恥ずかしそうに顔を伏せたウサ耳の女の子が立っていた。


「レビット? んん~ん、良いでしょう。AGI(素早さ)とINT(知力)は他の事務員よりもあるんだよね。【広域化】と【警戒】スキルも使えそうね」


 カノンさんの言葉に、レビットさんが顔を上げてうんうんと頷いている。

 でも、攻撃力が無いんじゃないかな? 私達の後方に下げといて連絡要員に徹してもらおう。


「【土魔法】と【水魔法】、武器はきね?」

「ウサギならきねじゃないですか! 皆さん似合ってると言ってくれましたよ」


 自分の選んだ武器に首を傾けられたから、少し機嫌が悪いようだ。案外気分屋さんなのかもね。


「どう使えば武器になるのか想像できないんだけど、使えるなら良いわ。経理に行ってたくさん薬草とポーションを用意しとくのよ。それと、武具を1ランク上げることを許可します」

「ありがとうございます!」と言って、レビットさんは後ろに下がっていく。

 武器は怪しいけど、魔法が使えるなら援護して貰えそうだ。AGI(素早さ)が高ければ、相手の攻撃だってある程度は避けることもできるだろう。


「今年入社した新人なの。とりあえず事務をしてるけどオオカミを狩ることは出来るはずよ」

「連絡要員で良いですよね? 私達はL16ですから、あまりレベル差があると……」

「プレイヤーのレベルに合わせてL10の能力値は持ってるわ。死に戻りしても構わないから、使って頂戴」


 思わず笑みを浮かべてしまった。

 ちゃんと聞いたからね。一応後衛に置くけど、これで少しは無理ができそうだ。


 このまま事務所にいて欲しいと言われ、近所の食堂から取り寄せた夕食の出前を頂く。

 装備を整えたレビットさんが私達に頭を下げて、一時的なパーティ加入を依頼してきた。


「助かります。『クレーター』というパーティ名なんですけど、これで3人になりました」


 レビットさんはウサギ族の女性という設定だ。 黒髪の上からウサ耳が30cm以上伸びて、お尻には丸い尻尾があった。

 水着を着せたらバニーガールそのものになってしまいそうだけど、現在は私達と同じように綿の上下に革のワンピース姿だ。

 問題のきねは、壁に立て掛けてある。真ん中が細くて両端が太いきねは月の中でウサギが餅をつく時に使ってる物と形が同じだ。

 長さは身長位で、太さ10cmほどの先端部には鉄の輪が2つある。


「あれで殴るの?」

「そうよ。やはり殴るのは女性の特権よねぇ」


 そうなのかな? 私もハンマーを装備した方が良いのかもと思う2人の会話だ。

 斬るのと違って、殴るだけならスプラッターを避けられると思っているんだろうか? タマモちゃんの一球入魂の一撃はゴブリンを一瞬にして肉塊に変えるほどの威力だから、却ってスプラッター差があるように思えるんだけどね。


「悪いな。どうやら修正後に変化が現れるようなら直ぐに対処するべきだろうってことになってたんだ」

「最初に伝えなきゃダメじゃない! そんなことだから私が文句を言われるんだからねぇ」


 ゲンさんとモモコさんが同じテーブルでお茶を飲んでいる。たまにゲンさんが席を立つのは、警邏事務所の外でタバコを楽しんでいるんだろう。

 後、4時間後にどうなるか……。のんびりしてるのも今の内かもしれないな。


「おい、確かプレイヤーは一時的に退避させるんだよな?」

「予定ではそうだ。夜の狩りを楽しむような物好きがいたのか?」


 事務所の方では、何か困ったことがあったらしい。

 運営の指示に従わない場合は自己責任ということになるんだろう。他のプレイヤーが皆無の荒れ地なら思い切り狩りを楽しめるんだろうな。


「メールを各人に送ったぞ。これで、俺達の責任は果たしたということになるな」

「カノンさんの取り越し苦労じゃないのか? たった1秒にも満たない間でこの世界で何ができるというんだ?」

「俺達には一瞬なんだろうな。だが、電脳世界では十分に長い時間なんだろうよ。俺は王国よりも魔国を心配してるんだ」


 魔国にはプレイヤーはいないはずなんだけどなぁ。ひょっとしてもの好きな人達がいるのかな?

 魔族側ならばPKはむしろ推薦される事項に違いない。赤になったプレイヤー達は、魔族としてレムリアに帰って来るのかもしれない。

 でも、そうなると……。レムリア世界以外からの侵入は魔国の方が簡単かも!


「後、1時間後に迫ったわよ! 全員戦闘装備で待機して頂戴!」

「「了解!」」


 私達はこのままでいいよね。武器はバッグからすぐに取り出せるんだから。


「時計が無いと不便よね」

「用意してあげましょう。ちょっと待ってね」


 ラビットさんが席を立って事務所区画に向かって行った。

 あるのかな? とりあえず、眠そうなタマモちゃんに濃いお茶を入れてあげた。


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