050 上位職に成れそうだ
大神官さん達に頭を下げて、東屋を去る。
「またいらしてください」と言ってくれたけど、緊張するから来ることは無いんじゃないかな。
とはいえ、召喚されたら来なくちゃならないようだけどね。
「どこに行くの?」
「せっかく来たんだから、イザナギさんの泉にお参りしようかなって!」
タマモちゃんが頷いてくれたから、手を繋いで一緒に通りを歩く。
神殿区画は人通りもなく静かだ。
たまにすれ違う人もいるんだけど、神官服を着てすれ違いざまに小さく頭を下げてくれる。
慌てて私達も頭を下げるんだけど、どうもうまくタイミングが取れないんだよね。
「ここだよね」
神殿が建つだけの広さがあるんだろうけど、そこにあるのは泉と泉を囲む広場だけだ。いくつかのベンチが広場を囲む林の下に置かれている。
私達が泉に向かって手を合わせた時だ。イザナギさんの声が聞こえてきた。
「やはり来てくれましたね。今回の脅威はそれほど大きなものではありません。ですが、それが可能であると分かれば他の世界がレムリアを排除する可能性も出てきます。脅威に応えるためには、現在のモモ達のレベルでは不足かもしれません。普段は今のままで良いでしょうが、貴方達の意思で上位職にレベルを上げられるようにします。合わせて、あらかじめ用意した武具の着装が自動的に行われます。種族の上位職までは必要と思いませんが、必要な場合は再びここに来てくださいね」
上位職はL20になった時に選択できるんだけど、それはプレイヤーの人達であって、私達の場合は既に確定されている。
私はニンジャになり、タマモちゃんは枢機卿となるのだが、現在のスキルは引き継がれるから、タマモちゃんが呼び出す魔獣もそのまま使えるはずだ。
ん? ひょっとしてGTOも形態が変わるかもしれない。現在でもチート的なところがあるんだけど、さらに能力が上がるかもしれないね。
「1つお聞きしたいのですが? 脅威はどのような形でこの世界に現れるのですか」
「考えられる事態として、不思議な魔族の集団による襲撃。プレイヤー以外の暗殺者。後は……、テロも考えられますね」
不思議な魔族の襲来は騎士団が討伐に当たってくれるだろう。お巡りさんや警邏の人達は、区域のテロ活動の防止に奔走することになるのかな? 残ったプレイヤー以外の暗殺者と言うのが私達が相手をする脅威になるんだろうか。
「一見、PKに見えるかもしれません。レムリア世界の住人によるPKであれば死に戻りもできるでしょう。ですが、レムリア世界以外からの干渉によって生じるPKは、バグ扱いされるでしょう。リアル世界の人体にも影響が及ぶ可能性が極めて濃厚です」
それって、リアル世界の肉体の意識が戻らないってこと? かなりの問題じゃない!
タマモちゃんがキョトンとした表情で私を見てるけど、内容が理解できないのかな?
「大変なの?」
「うん。私達が消えちゃうかもしれないし、ケーナ達がVRMMOの機械から一生出られなくなっちゃうかも……。あのカプセルの中から目を覚ますことがないってことになるのかな」
すぐに死を迎えることはないのだろうが、徐々に体は衰弱するはずだ。
でも、それを防ぐ簡単な方法だってあるんだよね。レムリア世界から脅威が去るまでの間、ゲームを中断すれば良いのだが……。
「気が付きましたか? 一番望ましいのはこのVRMMO『レムリアン』の即時中断です。ですが、それを行うことは日本の国情が許さないでしょう。VRMMOプログラムの脆弱性を世界に広めるようなものですから、日本製のVRMMOは2度と構築されることはなくなります」
「あえて危機を乗り越えると?」
「そうなります。総理大臣が数時間前に決断しました。私を含めて日本国内の全ての第6世代以上の電脳がそれぞれの立場で対応することになります」
「でも……、私とモモちゃんは非力ですよ?」
「上位職に変わって、スキルの統合、新たなスキルが加わります。現状のレムリア世界でなら、魔族の王国でさえ到達できますよ。それで対処できないときには、最終形態を開放することになりますが、そこまでは必要ないと思っています」
この姿のままで行けるということかな?
ちらりとタマモちゃんを見ると、不安そうな表情を浮かべて私の上着の裾を握っている。
本当に私達で可能なんだろうか?
大規模な脅威は騎士団が組織立って動くと聞いているけど、私達の担当分はフィールドに潜むPK犯、たぶん少人数の特殊部隊のような連中なんだろう。
そのような連中を見つけること自体が難しく思えるんだよね。
「それほど深刻にならなくともだいじょうぶだと思いますよ。モモ達だけではありません。他にも似た組織を作っていますからね。そのうちに接触するかもしれません」
「仲間がいるってことですね? ちょっと安心しました」
全くの孤立無援とはならないってことだよね。警邏さん達や神殿の神官さん達もバックアップはしてくれそうだけど、実際に動くのが私達だけでは心細いことも確かだ。
「王都の北に行ったことはないと思います。少しレベルの高い『マウンテンスパイダー』が生息してますから、上位職の力を試してみなさい。武具の使い方もそれで学べるはずです」
「王都の北ですね? 了解しました」
イザナギさんが私達から遠ざかっていく。
神様だからねぇ。この世界を自由に見聞きできるのだろうが自ら手を下すことができないようだ。
その手足となっているのが、私達なんだろう。
「王都の北で狩りをしなさいってことだよね?」
「そう言ってたよね。明日朝に出掛けましょうね」
既に昼近くだ。このまま王都の広場に出掛けて屋台を巡りながら食事と明日の準備をしよう。
それが終わったところで、警邏さんの事務所を訪ねてみよう。
この世界では、今夜にアップデートの修正が行なわれるとのことだから、緊張して待機してるんじゃないかな?
屋台で購入した昼食は、野ウサギ肉の腸詰が挟み込まれたパンとリンゴジュースだ。
広場の所々に置いてあるベンチに腰を下ろして、広場で遊ぶ子供達や仲間を勧誘する冒険者達を眺めながらの食事になる。
既に携帯食料は数日分を買い込んであるし、水筒にはたっぷりと広場の水を汲んである。このまま狩りに向かっても良いのかもしれないけど、イザナギさんの話しではそれほど急ぐこともなさそうだ。
ポン! と後ろから肩を叩かれた。
振り返った私に、笑みを浮かべているのは革の上下を小粋に着こなした冒険者だった。
「ごめん、驚かせたかな? 王都の警邏をしているゲンだ。こっちはモモコなんだけど、モモちゃんと名前だけは似てるんだよね」
「美人で、スタイルが良いこと、それに頭脳明晰も似てると言ってくれないのかな?」
隣のお姉さんがゲンさんのすねを蹴りながらぶつぶつ呟いてる。
仲良しなんだね。リアル世界でも付き合ってるのかな?
「おいおい、止めてくれよ。とりあえず用向きを話さないといけないだろう?」
「ちゃんと伝えるのよ。でないと、指令から叱られるのが私なんだから」
、
「分かった、分かった!」と言いながら、ゲンさんがモモコさんに降参したよと、両手を小さく上げている。頭が上がらないってことかな?
「モモちゃん達を探してたんだ。ハヤタ達から西に向かったと聞いてたんだけど、午前中にレムゼ6世と謁見したという情報が入ってきたんで王都中を探してたんだよ」
「何か困ったことでも? でも私達は余りプレイヤーに関わらない方が良いように思えますけど」
「その辺りを含めてのお願いだ」
夕暮れ前には警邏事務所を訪ねるつもりだったから、それが少し早まったと思えば良いか。でも私達を探すほどのことなんだろうか?
「それじゃあ、一緒に来てくれない?」
モモコさんはタマモちゃんの目線まで腰を下げて話をしている。
タマモちゃんが頷いたのを見ると、嬉しそうな表情で手を繋いで歩き出した。
思わず、ゲンさんと顔を見合わせてしまったが、ゲンさんの顔には困った奴だと書いてある。
「それじゃあ、来てくれないかな。まったくモモコのカワイモノ好きは変らないんだよなぁ……」
案外そんなお姉さんがこの世界には多いんだよね。でも悪いことでは無いんだから、ゲンさんもそれぐらいは大目に見てあげないと付き合ってもらえなくなるんじゃないかな? 乙女心は案外複雑なんだからね。
王都の警邏事務所は、ブラス王国の統括も兼ねているらしく、石造りの3階建ての立派なものだ。扉を開けて目の前に広がるホールだけでも体育館ほどの広さがある。
大きな暖炉が右手にあるけど、暖炉の焚口の高さは私が歩いてそのまま中に入れるぐらいだ。
「大きいけど、王都を巡る警邏隊員は少ないんだ。トラペットの2倍はないんじゃないかなぁ」
「それでも2人1組のパーティが10組あるし、捕縛隊も3つあるんだから贅沢は言わないの!」
捕縛隊って、確かPK犯や暴れているプレイヤーを拘束する人達だよね。それが3組ってことはかなり物騒だと思ってしまうんだけどなぁ。
「ここが空いてるわ。とりあえず座って頂戴。直ぐに、この事務所の責任者を呼んでくるわ」
「ついでに飲み物を頼むよ。俺はコーヒーが良いな。モモちゃんは?」
とりあえずお任せすることにした。まだ昼なんだからワインを持ってくることは無いだろうし、タマモちゃんにコーヒーを出すことも無いだろう。
「責任者と言いましたよね?」
「そうだよ。モモちゃん達に会いたがってたのはこの事務所の責任者だからね。運営会議に顔を出すこともある、運営の陰の実力者とも言われてる人物だ」
そんな人物が私に会いたがる理由が分からない。
考えられるのは今夜の修正に関わる話なんだろうけど、既に依頼を受けてるからその範疇以外となれば断ることになるのかな?
でも断れば、私の立場が微妙になってしまいかねない。私達の存在がイザナギさんによるものだと分かってしまったら、どうなるんだろう?




