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042 歓迎会にはお肉が必要


 歓迎の広場の雑踏を余裕を持って眺めていられるのも、広場のプレイヤー達とのレベル差が大きいために違いない。

 この世界で1か月もすれば、彼等だってあちこちの町や村へと散っていくに違いない。

町に残るのは生産職を選んだり、この世界を楽しみながら冒険を楽しむある程度歳を経たプレイヤー達のようだ。

 若者達のパーティ参加者の奪い合いを冷めた目で見ているんだけど、若者とは言い難いプレイヤーが現れると、彼等に話しかける光景をたまに見かける。

 やはり、ソロプレイは嫌なんだろうな。

 PKは、アップデートからは無くなったらしいけど、油断はできないだろう。パーティの人数が多ければPKに遭遇する度合いは少なくなるからね。


「今日は。隣、良いかい?」

「今日は。どうぞ、どうぞ。あれ? 今日はお1人なんですか」


 隣に腰を下ろしたのは、お父さんと同じ年代の戦士風の男性だ。

 たぶん奥さんじゃないかと思っている魔法使いと、筋肉質のお坊さん(モンク)はお爺ちゃんなんだろうけど、今日は一緒ではないみたいだ。


「親父殿から、仲間を募って来いと言われましてね。やはりやって来るのは若者が圧倒的です」

「若者でも良いんじゃないですか? お子さんもおられるんでしょうから、お子さんとは違った若者と冒険するのもおもしろそうですよ」


 隣の男性が急に私に顔を向けた。

 顔を元に戻して広場の一角を眺めている。


「確かにそれもありですねぇ。年代が近ければと思っていたのですが、離れているのもおもしろそうです」


 男性がベンチから腰を上げて、私に小さく頭を下げると広場の一角に足早に歩いていく。その先には、辺りを気にしている3人の男女がいた。

 年代的には先ほどの男性よりも遥かに下なんだろうけど、私よりはずっと年上なんだよね。若者達は年代と近い者同士でパーティを組みやすいから、20歳を過ぎたあたりからパーティ参加の勧誘が少なくなるようだ。

 先ほどの男性に、3人の若者が頭を下げているところを見ると、勧誘は上手く行ったのだろう。私に視線を向けて手を振ってくれた。

 

「お姉ちゃん。メルダおばさんが、お肉が欲しいと言ってた」


 後ろを振り返ったら、花を作りたいと言っていたお姉さん達と手を繋いだタマモちゃんが立っていた。


「済みません。今夜は歓迎会だ! ということになってしまったんです」


 恐縮して頭を下げてくれたけど、それは良くあることだから気にしないでほしいな。

 あの界隈の人達は、親戚よりも付き合いが深いんじゃないかな?

 新しい弟子だと言っては歓迎会をするんだから、今回もその一環なんだろう。


「気にしないでください。それだけ近所付き合いがあるんですよ。田舎のお婆ちゃんの家に行ったつもりで過ごせるはずです。それで……、狩りをしたことはありますか?」

「生憎とありません。一応、剣と採取のスキルを持ってはいます」

「なら十分です。出掛けましょう!」


 一時的にパーティを組むことにした。お姉さん達2人は、ブラウンの長髪の持ち主がリースさんで、緑の黒髪の持ち主がアレッサさんということだ。私よりスタイルが良いのが気になるけど、こればっかりはしょうがないんだよね。


 いつもは西門を出るんだけど、今日は南門から町を出た。

 町の近くでは少年達がスライムを追い掛けていたから、少し町から離れることにした。

 離れるほどに周囲の人の姿が無くなるから、この辺りの冒険者達のレベルはそれほどでもないのだろう。


「この辺りで狩ろうか?」

「あまり周囲に冒険者がいないようですけど?」

「それだけ自分達の狩りができるよ。先ずは、あれからかな?」


 タマモちゃんが腕を伸ばした先には、スライムがのんびりと日向ぼっこをしている。

 

「良いんじゃないかな? 左右から近づいて剣でグサリで狩れますよ」

「最初から?」

「一番簡単な獲物だよ」


 ちょっと、心の準備が出来ていなかったのかな?

 それでも、モモちゃんに顔を向けて頷いたところで、2人のお姉さんが恐る恐るスライムに近づいていく。


「「えい!」」


 同時に剣を振り下ろしたけど、ちょっと腰が引けている。

 それでも、力任せに振り下ろした片手剣はスライムを両断したみたいだ。魔核を残してスライムが消えていく。

 魔核を拾って私達に近づいてきたお姉さん達を拍手でお迎えした。


「上手く行きましたね。一番簡単な狩りですけど、相手は魔物です。10匹も狩ればレベルが上がりますよ」

「ちょっと、緊張しました。これが噂の魔核ですか?」

「そうだよ。ギルドに持って行くと1個1デジットで引き取ってくれるの」


 魔核が全て同一料金ではないことを説明しておく。

 魔物は魔核を残すし、場合によっては角や牙を残すこともある。それらを引き取ってくれるのは冒険者ギルドになるけど、獣はそうではない。肉が取れるし毛皮を落とすこともあるのだ。


「この辺りだと、野ウサギがそれにあたります。結構すばしこいんですけど、向かってくることがありますから注意してくださいね」


 野ウサギの突進をもろに3回ほど受けたら、L1の初心者では死に戻りしかねない。

避けて切り伏せるのが戦士達の狩りの仕方だ。魔法使いや弓を持つ仲間がいると、積極的に狩れるんだけどね。


「歓迎用のお肉は私が調達します。タマモちゃんちょっと見ててくれないかな?」

「西に行くんだよね。GTOは必要?」

「私だって走れば速いんだから。直ぐに帰って来るからね」


 そう言って、その場から走り出した。

 L16の脚力は半端じゃない。その上、AGI(素早さ)は種族特性もあって、とんでも無い数値だ。VIT(体力)が低いとはいえ、レベルの高さで十分に人間族を上回っている。

 オリンピック選手顔負けのスピードで、荒れ地を疾走して森に近づく。

 狙いはイノシシだ。

 いつものように野ウサギでも良いけれど、それはタマモちゃんが、あの2人のお姉さんの面倒を見ながら狩ってくれるだろう。


 【探索】スキルで獲物を探し、見付けたところで弓を取り出す。このまま走り込んで矢を放ち、さらに射こもうと近づいた時にはよろよろと歩いていたイノシシが、どさりと地面に倒れ込んだ。

 弓を引き絞ったままイノシシに近づくと、当たった矢が頭を貫通している。

 即死とまではいかなかったけど、致命傷だったに違いない。

 弓矢を収納したところで、イノシシをバッグに収納する。大きな獲物を担ぐ必要が無いからありがたい機能なんだよね。

 個人データを確認すると、バッグの中身にイノシシ肉が4つとイノシシの毛皮がちゃんと入っていた。

 これでお肉は十分だろう。

 タマモちゃん達はどうなってるかな?

 帰りは少しスピードを抑えながら、トラペットの南に向かって走って行った。


 タマモちゃん達のところに近づくと、焚き火の煙が上がっているのが見えた。

 狩りを中断してお茶を沸かしているのかな?

 さらに近づくと、タマモちゃんが手を振っているのが見えた。


「お帰りなさい。上手く行った?」

「ちゃんと狩れたよ。タモちゃんの方は?」


「お姉さん達が手伝ってくれたから、2匹狩れた。今夜はこれで十分だと思う」

「でも、2匹では皆さんで食べるのは少ないのではと話してたんです」

 

 タマモちゃんの隣に腰を下ろした私に、リースさんがお茶のカップを渡してくれた。

 香りの高いお茶だ。いつもは渋茶のようなお茶なんだけど、リースさん達の手持ちなのかな?


「だいじょうぶです。イノシシを1頭狩ってきましたから。ところで、レベルは上がりました?」

「L2になったので、休憩してたんです。だいぶスライムを狩りましたから。それに、薬草を教えて頂きましたから、その採取もしてたんです」


 スライム狩りと薬草採取ができれば暮らしに困ることは無い。

 宿に泊まればそれなりの金額になるだろうけど、職人街の一角の家を間借りするなら宿泊料は半額以下だろう。


 休憩を終えたところで、再びスライム狩りを行い、切りの良い数の薬草を採取したところで町に戻ることにした。

 まだ夕暮れには程遠い時刻だけれど、夕食の準備を始めるには都合が良い。

 タマモちゃんにイノシシの毛皮を預けて、お姉さん達と一緒にギルドに行ってもらう。

私は一足先に、食堂に向かうことにした。


「ただいま帰りました!」

「上手く狩れたのかい?」


 食堂に帰って来た私に、早速成果を確認したのはそれによって今夜の献立が変わるからなんだろう。


「とりあえず、イノシシ肉が4ブロックです。野ウサギは2匹だとタマモちゃんが言ってました。2人にギルドでの換金方法を教えてから戻るはずです」

「そうなると、スープにステーキということになるねぇ。年寄り連中にはシチューの方が良さそうだけど、それは明日でも良いだろうよ」


 どちらも私の好物だから、顔に笑みが浮かんでしまう。

 それにしても、御近所の御老人達は歳に見合わずに大きなステーキを食べるんだよね。

 1個10kgほどのブロック肉が4つなんだから、いくらでも食べさせてあげよう。


「裏の畑で、香草を摘んできてくれないかい?」

「分かりました。どれぐらいあれば?」

「これにたっぷりお願いするよ」


 小さなカゴを渡された。

 あまり大きな畑ではないんだけど、ハーブが植えられているんだよね。花も問題だけど、ハーブだって栽培すれば売れるんじゃないかな。


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