役目を終えたはずの聖女は未来を憂う 1
なろうサイト内 (ただしムーンライト、書籍は全年齢版)で連載しております他作品が書籍化/本日発売されます。こちらしか好みじゃない、読んでいないという方もいらっしゃると思うので発売に合わせて連載全更新を目指してみましたが全部は無理でした( ̄▽ ̄;)
こちらと「記憶が戻った伯爵令嬢はまだ恋を知らない」他短編投稿しております。是非暇潰しにご覧ください♪
急務を終えてウィルに指定された部屋へ入ると真っ暗だった。
おかしい。
仕事を終えたらこの部屋で待つとメッセージが入っていた筈だ。
「ウィル……?」
用心しつつ一歩部屋へ入ると奥の方一角だけ光が見え、また何か実験でもしているのかと息を吐いて光の元へ向かう。
僅かな光の下、目にした光景にクレイルは息を呑んだ。
「……っ、ツキナ……」
覚醒は急に訪れた。
目を開くと同時に飛び込んできたのは驚愕を貼りつけたクレイルの顔。
ツキナ…
っ!
クレイルの口がそう動いた気がしたが私は出そうになった声を息を飲み込むことでこらえる。
そしてまじまじと自分を見下ろす男を見返す。
まさかの眠ってる間に異世界かと思ったが違う。
クレイルのこの服装は先程この部屋を出ていったのと同じだ。
つまり。
私は勢いをつけて起き上がり
「何のつもりですかっ……?」
「っ!ミス・サキサカ……?!」
初めて気がついたという声と共に感じる違和感。
起き上がった時にやけに動きづらさを感じ自分の服装を見おろす。
「なっ…?!」
これは、クレイルが私の遺体に着せたドレスだ。
「何故、こんな事……?」
「いや、俺にもわからない。ただウィルにここに来るように言われて…」
二人が顔を見合わせると同時にパッと部屋の灯りがつき、ウィリアムが姿を現す。
「お前っ…、何のつもりでーー「君こそ、何で気付かないのクレイル」?」
は??
「君は僕の能力知ってるでしょ?触れたものの記憶を読み取るサイコメトリってやつ」
「あ、ああ…、」
「たまたま眠ってる君に触れた時に例の聖女様の記憶を視ちゃってさ?その後ミス・サキサカに会った時思ったんだよ、似てるなぁって」
「「……」」
「けど件の聖女様は亡くなったって聞いてるし、良く似た他人か縁者かとも思ったんだけど、君の中の記憶とパーツを組み合わせるとぴったりなんだよねー顔立ちとか立ち姿とか?だから確かめようと思ったわけ。どう?クレイル」
「どうって…、」
言われて再び目をやるとふいっと逸らされた。
長い黒髪がかかる顔といいそのドレス姿といい別れた時のツキナそのもので、むしろ彼女が自分の知っているミス・サキサカと一致しない。だが先程言葉を発したのは確かに彼女の方だった。
「女性は髪型化粧でいくらでも変わるからねー。ミス・サキサカに長い黒髪を被せて普段のメイク落としてこの服着せただけ なんだよクレイル?」
「っ!!」
「真っ黒な瞳までわざわざ茶色く見えるコンタクトでごまかしてた。君、眼鏡もコンタクトも必要ない視力だよね?裸眼でいけるはずだ」
「ーーーそんなの私の勝手でしょう」
「確かにね。実際見た目と職場を変えたのだってストーカーから逃げるためだって周囲には説明してたようだし?」
「!」
こいつ、どこまで知ってるの?
だが、合点がいった。
私をこの任につけたのは、こいつだ。
クレイルは、何も知らなかった。
クレイルが気付くまで待つつもりが、待てない理由が出来た?
いずれにせよ、監視されていた。
「どうして……」
役目は終えた筈だ。
なのになんで、また引っ掻き回されなきゃいけない?
音も無く近付いてきたクレイルの手が伸ばされ、私は反射的に後ずさる。
が、その分クレイルも詰めてきて心臓に手を当てられた。
「動いて……生きて、いるのだな…良かった…」
流れるように手首を掬われ脈打つのを確認するとそのまま両手で捧げ持たれてしまい絶句、もとい祈られているようで大変居心地が悪い。
「ーー離して」
端的に告げると、
「その口調ーー…やはり、君だな」
物凄く嬉しそうに微笑まれ、
「ーー何なの?」
批難めいた私の口調に、
「単純に喜んでるんだよ。勿論僕もね」
飄々とウィルが答え、
「ーー貴方、何なの?」
「ーーお前、どういうつもりだ?」
私とクレイルの問いが重なった。
「わお。息ぴったりーーー流石長い時間共にしていただけあるね」
「してないっ!」
「いや、共にいた時間は少ない」
速攻否定する私と大真面目に返すクレイルの声がまた重なり、妙な沈黙が落ちる。
「まぁ、それぞれの言い分がある事はわかったよ…で、僕の目的だけど。シンプルだよ。聖女様の力と知識が必要だったのと、クレイルの探してる女性がたまたま同一だっただけ」
「………」
「………」
「現にクレイルさっきヤバいのの急襲で呼ばれたでしょ?アレは君の前いた世界の〝魔物〟ってやつじゃないの?」
「っ、確かに…、同じ性質のもののようだったが、、」
クレイルの気遣わし気な視線が痛い。
嫌な予感ほどよく当たるってーー本当に嫌だ。




