彼女からの依頼
俺は絶句した。
冴木詠佳との一幕を終え、家に帰って早速あいつからのメールを確認した。
そこに書かれていたのがこれだ。
『依頼内容:恋愛成就
依頼者:報城愛紗
詳しくは本人に聞いてね☆』
ふっざっけんなよ。
俺はすぐに受話器を手にとって着信履歴からヤツの名前を探す。
『桐谷』という文字を見つけ、すぐに電話をかける。
コールは三回。
「は〜い。桐谷で〜す。」
「おい、お前。あれは何だよ。」
俺は、なるべく声を落ち着かせて聞いた。
「えー、何ってなに?」
こいつ…。絶対わざとだ。
「依頼だよ、依頼。一昨日の夜、お前が俺に送った依頼メールだよ。あれは何だ、ふざけてるのか?」
「んー、私にはどうして君がイライラしているのか分からないよ、少年。あの依頼が簡単中の簡単すぎて、俺にこんな手をわずらわせるな。的な感じすか?」
「逆だよ、真逆だよ。こんなの俺の仕事の範疇にねえよ!言ったはずだぞ、色恋沙汰は苦手だって。」
「いやいや、君はいつから自分で仕事を選べるような人間になったんだい、少年。」
試すような口調で桐谷は言う。
「君はどんな依頼でも受ける、そうするべきだ。いや、こんなこと言うまでもないのかもしれないけどね。」
「なんだよそれ。恋愛相談なんてのに自ら赴くってのか、冗談じゃねえよ。そういうのは俺が関わるべきじゃないだろ。」
「それは彼女に言ってくれよ。直接ね。というか、この子は君の知人だろ?ならば、君が断れるはずないだろ。少年。」
「いやあ、まあ知人だけどさ。うん。多分、彼女は俺を知らないんじゃないだろうか。」
「うわあ、君は知らなくても僕は君を知ってるよって、ストーカーかな?」
「いや、もうわけわかんねえよ。とにかくこれはダメだ。」
「もう、往生際が悪いな。茶番は終わりだぞ!少年!」
こいつ、今までのを茶番だと言いやがりましたよ。
そのあとも全くこちらの話を聞かないので、諦めて、しょうがなく、渋々、依頼を受けることにした。
「んーとね〜、彼女は他にも依頼してたんだけど、これが君にお似合いの依頼だと思ってね。」
「いや、お前は仕事選ぶのかよ。」
「いやいや、違うよ〜。私のはあくまで選定だよ。だって依頼によっては、お金の要求とかもあるし〜。もし君がお金持ちだったら頼んでたかもしれないけどね。私はちゃんと、君に見合った依頼を選んでるんだよ〜?」
「真に俺にあった依頼を選んでるってんなら、お前の目は腐ってるよ。まあ、分かった。とりあえずどうにか迷惑がられない程度に足掻いてみるよ。あ、そうだ。あいつのメアドとか分かるか?」
「うーん、そうだなあ。よし!」
桐谷は一人で納得して言った。
「少しは自分で調べてみたらどうだい。私にばっかり頼ってちゃダメなんだぞ、少年!」
ガチャン、と勢いよく切られる。
あいつ無茶苦茶だな。
役割分担という名目であいつの依頼を俺が受けているという事実を忘れたのだろうか。
人にばっかり頼る、あんな大人にはなりたくないと心に誓った。
それにしても、色恋沙汰は滅相苦手だ。
俺みたいなペーペーが楽しんでいい話題じゃない。
てかなに、これ、俺に恋のキューピッドになれってのか。
辛すぎる。
明るい未来が見えないが、とりあえず考えるのは明日にしよう。
午後11時を回ったところで、彼女のメアドを聞くために粒に電話することにする。
粒は誰とでも仲がいい。
やっぱりみんなに好かれるところがあるのだろう。俺にはちっとも分からないけど。
それなりに、知人の多い彼にはこういう事で役に立ってもらおう。
粒はコール一回ででた。
「もしもーし。文人か?なんかようか?」
「お前に聞きたい事がある。うちのクラスに報城さんっているだろ?あの人のメアドとかわかるか?」
「ん?多分分かると思うけど、何で?」
そこまで来て考える。
確かにそうだ。
俺が誰かの、ましてや女子のメアドを聞くなんて、ただ事ではない。
「い、いや、妹が教えて欲しいって言うからさ。」
咄嗟に妹を出すあたり、俺の頭も停止してはいないらしい。
「へー。そうかー。そうなんだあー。おっけー、あとでメールで送るよ。」
あっ、なんかミスったかな。
変なところで発想力の働く粒くんには困ったもんだ。
「えーっと、勘違いしているのだろうから言っておくが、俺は別に変な意味でメアドを聞いているわけじゃないからな。」
「わーってるって。みなまで言うなよ、文人。俺は察しがいい方なんだ。黙っといてやるって。じゃあな、また明日。」
変なところで気が回る彼を止める事はできず。
一方的に電話がきられる。
こういう状況に陥る事がなかった今までなので、何とも新鮮である。
これは幸せなのだろうか。
そんなバカな事考えながら1日を終える。
面倒ごとは明日だ。
粒にも明日はっきりさせよう。
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日付は変わり、9月16日水曜日。
一週間の折り返し地点とでも言っても過言ではない。
俺は今日も重いカバンを背負って学校へ向かう。
俺は毎朝、自転車に乗って、片道30分で学校に向かっている。
使い古された自転車は漕ぐたびにキコキコとなっている。
俺はゆっくりと自転車をこぎながら頭の中で整理をする。
今回の依頼は、うちのクラスの報城愛紗からだ。
報城愛紗はうちのクラスカーストトップのグループにいる、可愛い可愛い俺の苦手なタイプの女の子である。
彼女はみんなからの人気が高い、と思う。
そうゆうのに詳しくないのでよく知らないが、はたから見ても、みんなから好かれているように感じる。
そんな彼女からの恋愛相談。
すごく気になります。
恋愛相談なんてもんは、されたことないけれど、成就が前提だから、生半可な気持ちではいけなさそうですね。
ゆっくりと自転車を漕いで学校へ向かう。
と見せかけて、ここで右折。
実を言うと、正確には今向かっているのは学校ではない。
そう、今日、9月16日は俺の最近イチオシの小説家、騎川士徧先生の『推理喫茶シリーズ』の最新刊が出る日なんですよ!
この日だけはと、いつもより30分早めに家を出た俺は有意義な気持ちで本屋へ向かう。
本屋に着いた。
いやあ、長い道のりであった。
やっとこの日である。
らんらんと気持ちを高ぶらせながら騎川先生のコーナーへ向かう。
最近のオススメの本のコーナーには置かれていないが、俺の中では今、超きてます。
騎川先生のコーナーにつくと、ちゃんと置いてあるではないか。
最新刊、『汚れたシンデレラ 下巻』
前巻で、怒涛の伏線を張って終わったこの話は、本当に続きが気になります。
俺が本を手にして、その場で目を輝かせていると、背後からトントンと、肩を叩かれた。
とっさに振り向くと、そこにはいた。
「あれ?もしかして武内くん?ああ、やっぱりだ!おはよう!」
報城愛紗である。
彼女は制服の上からベージュのカーディガンを着ていて、如何にも、女子高生という感じである。
「お、おはよう。」
こちらも返事を返す。
うん、困った。
今の気分としてはものすごく絡みづらい。
俺がアホみたいにテンション上がってるところに、今回の依頼人である方が直々にやって来るとは。
どうしようか。
俺も、後にメアドを手に入れるとしても直接俺の携帯のメールアドレスで送るわけではない。
偽のアカウントを作って、そこでのやり取りで色々と探っていこうと考えていた。
というか、基本これまではそんな風に事を成してきた。
先日の冴木詠佳は例外でなのである。
それが、今。
ご本人と会うとはなんとも言えない。
「へえ。武内くんって本好きなんだ。あ、そういえば学校でもいつも読んでるもんね!どんな本読んでるの?」
「えっと、ジャンルはいろいろだけど、最近はこれを…。」
そっと、手にしていた本を渡す。
「すいりきっさしりーず?へえ、面白そうだね。推理物とか好きなの?」
「まあ、人並み以上には。」
なんとも、突拍子のない会話が続く。
この状況から出たい気持ちと、みんなの憧れ、報城愛紗との会話を楽しみたい気持ちが、脳内で物凄い激しいバトルを繰り広げている。
「そういえばさあ、武内くんにひとつお願いがあるんだけど、いいかな?」
「お願い?」
一体なんだろうか。
本当はもしやと思った。
うん、まさかね。
そんなことはないだろうよ。
いや、本当に。
「うん。あのね、誰にも言わないでよ?」
彼女が顔を寄せてくる。
もう、僕の脳内大パニックです。
「私、蚊園くんが好きなんだ。武内くんって、蚊園くんと仲良いよね。だからさ、少し手伝ってくれないかな?」
え、ええええええええええええええ…
驚きとなんかよくわからない感情で脳内が交錯する。
え、てかなにこれ、恋のキューピッドになるってのはつまりはそうなのね。
なるほど、辛い。
「あの、噂のサイトにも依頼してみたんだけど、あんまあてにならないなあ、って思って。やっぱり、信じれる人を信じよう、って思ってね。どうかな?手伝ってくれる?」
「ああ、任せとけ。」
何故か分からないが、すごくいい声で答えてしまった。
俺はすぐに本を手に取り、レジへ向かう。
彼女は先に外に出た。
今日に限って混むレジ。
平日の朝っぱら大繁盛ですね。はい。
「悪い、遅れた。」
彼女は俺の自転車の横の椅子にちょこんと座っていた。
俺が話しかけると、こちらに気づいたようで、軽く微笑む。
「大丈夫だよ。」
俺は、自転車を引きながら、彼女の横を歩いていく。
ペースは彼女に合わせて、あっ、ちゃんと車道側をね。
彼女は俺と歩いているのを忘れているような顔をして、前だけ見て歩いている。
軽く鼻歌まじりでなぜか楽しそうだ。
「と、ところでさ。お前は本買わなかったけど、いいのかよ。」
この空気に耐えかねた俺はたまらず声をかける。
「うん。欲しい本も無いし。」
よし、この流れは完全にここから俺が面白い本を貸してあげるパターンだ。
早速、切り出そうと声をかけようとする。
と、彼女は急に喋りだした。
「蚊園くんの事、いろいろ教えてくれない?」
「お、おう。」
なるほど。こちらのターンにはさせてくれないようだ。
「えーっと、まあ、まず、とりあえず、その前に、お前はさ、蚊園粒と付き合いたいってことでいいのか。」
「うーん、多分そんな感じ。私さ、あんまわかんないの、そーゆーの。今まで色々友達はいたけど、それまでだったからさ。つまり、恋愛初心者ってわけ。」
なるほど。
それはいい情報な気がする。
「いや、まあ、それはいいとして、俺も随分と初心者だし、ってか第一、これは俺がどうこうより、お前があいつと連絡して仲良くなってけばいい話だろ?ほら、なんかあんだろ?無料で会話したりできるアプリとか。」
投げっぱなしで、無責任な気もするが、これが恐らく最善かつ最良な案であろう。
彼女は、んーと悩んだあと答える。
「えと、ごめん。私携帯持ってないんだ。だからその、アプリ?とかもよくわからないというか。」
「え」
びっくりするぐらいびっくりした。
なんと、あのみんな大好き報城愛紗が携帯を持っていないだと。
俺の中の彼女のイメージがさっきから変化しまくっている。
俺はてっきり、彼女は友達と遊びまくって、なんかもう、こう、とりあえず俺の苦手なタイプのやつだと思っていた。
だが、そんなもの根本から違ったようだ。
これは寧ろ好感度上がってますわ。
だが、困った。
これでは俺はどう足掻いても関わらずをえないらしい。
「うん、なら、どうやって仲良くなったらいいものか。いっそのこと、もう、告ってしまうのもアリではなかろうか。」
なんか、適当なことを言ってみる。
「いや、せっかく武内くんがいるんだし。私も出来る限りあがきたいなって。」
彼女の決意は固い。
俺はそれを察し、答える。
「そうか。そうだな。よし、ならば俺も全力でいろいろ支援するよ。」
「ありがとう。」
ここにて一つの同盟が結ばれたところで、校門が近くなる。
彼女は急に走り出し体ごと振り向く。
「じゃあ、また後で。」
彼女はお友達のところにかけて行った。
俺は、なんとなく彼女の邪魔になると思うのでさっさとチャリを止めにいこう。
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教室に入る。
いつも通り、わいわい騒ぐ奴は騒いで、騒がない奴は騒がない。
そんな日常。
ふと、教室の奥の女子を見る、報城もその中で楽しそうにしている。
そして俺は席に座る。
彼女の性格は、端的に言えば純粋無垢。他の言い方をすれば単純思考。
でも、そんな彼女の在り方に惹かれて近づき、寄り添う者が大勢いるのは事実だ。
何とも、ネガティブな物事が多いこのご時世には、彼女のような可憐なモノは映えるというものだ。
まさに戦場に咲く一輪の花。
そんな彼女は毎日笑顔を振りまく。その笑顔で幸せになるものは多いだろう。
でも、なぜだろうか。
今日初めて関わっただけなのに、彼女のその在り方に少しばかし不思議な感覚をおぼえた。
いや、違うな。
多分初めて関わったからこそなんだろう。
俺は今まで彼女を見てすらいなかっだと思う。
そう思うとこうやって関われた事に少しばかし、意味するものがあるような気がした。
退屈な授業の時間は過ぎ去り放課後になった。
放課後だからって別に何かあるってわけでもない。部活とか入ってないし。
とりあえず報城からのコンタクトはないので、そそくさと教室を出る。
向かうは一本道。
長い廊下を抜け、旧校舎側の最奥。
そこに古い図書館があった。
ドアを開けるとそこには冴木詠佳がいた。
やっぱり美しい。
西側取り付けられたこの部屋は放課後になると日当たりがいい。
神々しく照らされた彼女はその光を頼りにページをめくる。
「よう、相変わらずだな。」
彼女はこちらに気づくと、こんにちは、と返してすぐさま読書に戻った。
なんか、いつもより素っ気ない気がするんですが、それは。
ああ、そういえば昨日の今日だった。彼女がこういった感じであるのにも、何ら疑問はない。
俺はとりあえずそこにあった椅子に座る。
あれ?なんか変だな。
そんな俺の戸惑いの行き先を彼女はすぐに示してくれた。
「そういえば、今までのここに来てた目的はもう終わったはずだけれど。どうしてまた来たのかしら?」
そうだ。
今まであった目的は綺麗さっぱり消え去り、俺がここに来る目的がいつの間にか無くなっていたのだ。
いつもの癖が出てしまったようだ。
彼女の問いに答えを返す。
「そうだなあ…。これからはさあ、立場を入れ替えてみるってのはどうよ?」
「は?」
咄嗟の一案に対して食い気味の威圧が返ってきた。
「いやいや、今までは俺が書いた小説をお前に読んでもらってたけど、これからはお前の小説を俺が読むってことだよ。」
はい、そうゆうことですからね。
決して、なぜか出来てしまったこの圧倒的上下関係に対して言ってるんではないんですよ。はい。
「ああ、そういうことね。それは別に構わないけれど。」
「え?いいのか?」
「別に何か問題があるわけでもないし、そもそも次に小説を書いたら貴方に見てもらおうと思っていたの。」
「本当か?」
「本当よ。」
これは僥倖だ。
彼女は否が応でも冴木匠の娘だ。
俺にとって、これ以上嬉しいことはないだろうと思う。
「でも、いいのか?俺が最初にお前の小説に評価をつけることになっても。」
俺の言葉に対して淡々と答えを返していた彼女がここで止まった。
彼女は一瞬目線を上に向けたが、すぐにまた本を読み始める。
「そうね。確かにあなたみたいな不甲斐ない人間に評価を下されるのは少々癪かもしれないわね。」
うっ、何だよこいつ。
何か事ありげだと思わせて口から出るのは結局嫌味じゃねえか。
まあでも、とりあえずは良かったと思う。
彼女の悩みは、評価されない世界に生きていたから。だからそれさえどうにかすれば彼女はやりたい事を出来たはずなんだ。
俺のやってきたことで彼女がそんな世界を出てこれるような道を作れたんだってんなら、多分間違ってなかったんだって確信が持てる。
俺は今更になってそれを見にしみて感じられていることに笑ってしまった。
「じゃあ、約束な。絶対俺が面白いって言えるようなもん書いてきてくれよ。」
ええ、と一言。
そっけないように見えて俺には充分だ。
彼女のその一言は俺にとって凄く嬉しいものだから。
成果を得たという事実は自らの努力を無かったことになんてしないから。
だけど、そうだった。
彼女のことはもう終わり。
俺はもう次の事に集中しなければいけない。
トントン
と、唐突にドアをノックする音が聞こえた。
見慣れない光景。
この部屋に来るのは俺が知る限り、用務員のおじさんと新しい図書室の管理人の人くらいだ。でも、その人達はノックなんてしない。
だから、その人達ではないことはわかった。
じゃあ、誰だろう。
その見慣れない光景から顔を出したのは、この場所には見合わない人間だった。
「あ、いたいた。探したよー、武内くん。」
件の彼女。報城愛紗である。
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「へー、こんなところに図書室なんてあったんだ!知らなかったよ。」
彼女は来るなり、へー、とか、ほー、とかいいながら辺りを見渡していた。
そんな中でも冴木は冷静に読書に勤しんでいる。
さすが冴木。
こういう状況でもいたって彼女のスタイルを崩さないところはさすがとしか言いようがないだろう。
「そういえばさー、えーと、冴木…さんだよね?あの、有名な!」
報城はここで、冴木に第一コンタクトを取りにいった。俺も似たようなこと言った気がする。
ちなみに俺の第一コンタクトはガン無視されました。
報城の問いに対して、冴木はいたって冷静に、
「え、あ、うん、そ、そうよ…。」
え?
滅茶滅茶コミュ症かましてるんですけど。
「やっぱり!いっかい話してみたかったんだよねー!」
報城のスキンシップ満載の猛攻に、冴木さん完全にキョドっちゃってますよ。
彼女のこんなところを2日も連続して見れるなんて、
ごちそうさまです。
それにしても予想外だ。
冴木がこんなことで動じるなんて思ってなかった。
だが、よくよく考えてみると彼女が他の誰かと話すところなんてほとんど見てない気がする。
いや、全く見てない気がする。
というか、俺がここに来ると既に1人でここにいるという事実から察するべきだった。
「お前、友達いなかったのか…」
俺の冒涜もいざ知れず。
彼女は目の前のことに一生懸命らしい。
「えーそうなんだ、冴木さんって結構可愛いところあるんだね。あんまりイメージつかないから分からなかったよー」
「う、うん…」
タジタジになりながらも何とか会話は成立しているらしい。
会話とは言わないかもしれないけど。
彼女の様子を見ながら思い出す。
そういえば俺の時はどうだっただろうか。
ここで、俺との初対面時を思い出す。
ん、少なくともこんな感じでは無かったぞ。
もっと冷たくあしらってたイメージだったんだけど。
と、少し頭を巡らせてみてすぐにわかった。
まあ単純に、こういうタイプの人間には弱いのだろう。
よく分かる。
彼女はどうあっても孤高の人であったから、そんなところは多分俺に似ているんだと思う。
と、そんなことを考えていたけど俺が今見るべき彼女はこの子じゃなかった。
俺はその横にいる元気な女の子を見る。
報城愛紗。
彼女は俺と冴木とは全く別の人間で、どうあっても相容れないと思っていたんだけどな。
ところで、彼女は一体なんのためにここに来たんだ?
「なあ、報城。お前なんでこんなところに来たんだ?」
考えていたことがそのまま口に出た。
なんとなく、彼女には考えて話すよりも効果的だと思ったからだ。
彼女は思い出したかのように掌をポンと合わせて、こちらを向いた。
「あ、そうだった!武内くんを探しに来たんだった。こんなところにいるなんて気付かなくてさ。結構探したんだよ?」
彼女は純粋な目で俺を見てくる。
なんか俺が悪いことをしてしまった気がしてならない。
「そ、それは悪かった。で、何か俺に用でもあるのか?」
そういうと、彼女はムスッとしてこちらを見てくる。
なんか怒っていらっしゃるようで…。
「朝約束したのにもう忘れちゃったの?先帰ってもらったら困るよー。」
ああ、そうだ。別に忘れていたわけじゃないけど、わざわざ今から会ってやる事なんてない気がしていたんだけどな。
でも、彼女からコンタクトをとってきたなら話は別である。
「忘れてはない。ただ、何かやるべき事なんてまだ考えてなかったからさ。」
「そういうのは一緒に考えないとー。」
うう…。全くその通りだと思います。
俺は基本的に1人で考えてきたからそんな考えは思い浮かばなかったですう…。
彼女のペースにタジタジになってしまっていたが、ここで俺も一つ気づいた。
「そうだ、いいこと考えた。俺たち2人じゃ考えつく事なんて限られるからさ、冴木も一緒に、」
ここまできて、俺は口を止めた。
別に何かあったってわけじゃない。
ただ、報城の視線を感じたから。
視線を感じたからって何かあるわけでもないのに、俺は口を止めてしまった。
冴木が途中で止めてしまった俺の意見を気にするようにこちらに視線を向けた。
「えっと…何だっけ…。忘れちまった。」
俺は言葉を濁した。
なぜか微妙な空気になってしまっているところで、彼女の一声が入った。
「じゃあ行こっか。武内くん。」
お、おう。と答えて荷物を持つ。
「冴木さんもまた今度ね!ばいばーい!」
元気に別れを告げて彼女は図書室を出る。
俺も手を軽く上げて冴木に挨拶だけして、図書室をあとにした。
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長い廊下を歩いていた。
彼女は俺よりも少し前を歩いている。
俺はその後を追う。
先を超すでもなく、横に並ぶでもなく。
こちらから話しかけることもないので無言でついていく。
彼女も前だけ見て進んでいた。
日当たりのいい場所まできた。
廊下と廊下をつなぐテラスのような場所で、天上から壁にかけて窓ガラスになっている。
そこまできて彼女は後ろに振り向いた。
綺麗な髪がなびくように後ろに流れ、こちら側に視線が飛んできた。
「さっきはごめんね。変な気をつかわせちゃって。」
やはり自覚はあったらしい。
彼女のさっきの視線はあまりにも悲しそうに見えた気がした。
「私ね、このお願いは君に叶えて欲しいの。」
彼女の顔を見る。
それはさっきの表情とは一変していつもの報城であった。
いつもの、みんなに愛されている彼女。
そんな彼女が俺に笑顔を向けて口にした。
「ううん、この依頼は君に解決してもらいたいんだよ、武内文人くん。」
言葉が出なかった。
多分見とれていたんだと思う。
彼女のその純粋な有り様が、俺には随分と眩しくて。
俺は今までちゃんと見ていなかった。
教室で元気そうにしていた報城愛紗という人間を。
それがこんなにも美しい存在だったという事を。
俺は止まっていた口を動かした。
「了解。依頼は確かに受け取ったよ。」
俺はこの目で確かに彼女を見てそう口にした。
俺の瞳に映る彼女は、俺の答えにいつもの笑顔を作った。
この話の前半後半には1年以上の時間のズレがあります。なので、多少のキャラ設定のズレであったり、文の雰囲気の違いであったりが生じるかと思いますが許してください。何でもしますから。そもそも張った伏線を忘れていたり、話の展開を忘れていたりとなかなか難儀でした。というかもうこの小説の続きを書こうとなんて思ってなかったですが、脅されたので書きました。でも、何となくこれを書いてた頃思い描いていた展開を懐かしめたので良かった気がします。黒歴史なんだけどね。




