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探偵擬きの小説家志望  作者: 悠油
第1章 冴木詠佳
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第2話 問い

夏も終わり、外にいると肌寒く感じる今日この頃ですけれども。



学校でも衣替えという事で、みんな服を着込む。

『この世は本当に残酷だな!なんでみんな寒くなると着込むのっ!脱げよっ!』

と、我が友が言った。

ちょっと理解できなかった。あと、タイトル回収早すぎ。



まあ俺に言わせれば、あいつはバカだ。いや、あいつだけじゃない。脱げ厨はバカだ。露出度が高けりゃいいと思ってやがる。

俺は嫌だ。肌色ばっか見せて、好感度とってこうとする女子なんてやだ。



俺はガードの堅い清楚な方がいいのだ。ちなみに可愛い子ってのは大抵自分アピールが激しいガードの弱い奴ばっかなのでちょっとNGですわ。普通ぐらいの子が一番です。



と、可愛い子に縁のない人間の可愛い子批判ほど虚しいものはないなと実感しながら、教室の1番後ろの、黒板を前にして1番左の席に座る。



ちなみに右の席は空いてません。例の脱げ厨の友です。もしかしたら奴を消せば転校生来るフラグが立つかもしれない。と、いつ消し炭にしてやろうか悩む日々でありますけれども。



「おい!文人!昨日の魔法少女プリンちゃん見たかよ!マジでやべえよ!とうとうプリンちゃんの過去が明かされたな!!」



朝からテンションの高い脱厨の彼。



名はかえんりゅう。そう、火焔龍。めっちゃかっこいいやん。あっ、間違えた。

そう、蚊園粒。



一気に小さくなった感はさておき、彼とは小学生の頃からずっと同じクラスである。

バカな彼との別れを惜しんで割と偏差値高めな高校に入ったのだが、なぜか彼がいた。未だに動揺を隠せない。



まあ、なんだかんだで腐れ縁なんだなと感じつつ、彼の猛烈な言論を右から左へ受け流す。

そこで、教室のドアが勢いよく開けられる。



「席に着けい!今日はお前らに重大発表だ!!」

いつもは軽く聞き流す先生の威勢だが、さすがにその言葉は耳に止まった。



重大発表。



重大というからには重くて大きくなくては情報でなくてはならない。

これはまさか、まさか!!!!

露骨な期待のフラグブレイク率は異常だと理解しながらも期待しざるをえない。



「な、な、なんとな、なんとな!!!」

早く言えよ。

いつもは耳に入らない先生の言葉を聞いて改めてウザさを実感する。



そして、みんなが息を飲む。








「なんと、このクラスに新しい生徒が来たぞ!!」





うおおおおおおお!!と粒が立ち上がる。

その様子を見て、みんながクスクス笑う。

あっぶねえ…。俺も立ち上がるところだった…。



だが、正直来るとは思わなかった。期待はしていたが、来ないのを覚悟していたから、本当に驚いている。涙でそう。



「さあ、来てくれ!!」



先生の掛け声とともに、教室のドアが開けられた。



みんなの期待度MAXで登場したその子は大きい胸を前に突き出し、元気よく喋り始めた。









「わいの名前は細川五分衛門。柔道やっとるんどす。みんな気軽にゴブちゃん言うてな。」













「おっ…」












「おとこじゃねえええかあああ!!」



さすがの俺も思いっきり叫んだ。






—————————————————






「帰ろうぜ!」


本日の授業は無事終了し、帰宅部の我々はとっとと退却するよしみである。

でもまあ、俺にはやる事があるんだが…



「悪い。今日も残るわ。」


そう告げると、粒もいつも通りの様に了解と返してきた。



「まあ、今日はお前の久しぶりの雄叫び聞けたから満足だわ。」



「いや、お前だって初め立ち上がって笑われてたじゃねえかよ。」



そんなどうでもいい会話をしながら粒は帰る準備をする。



どうでもいい話。

そう、どうでもいい話だ。だって、俺が叫んだことだって謎の転校生五分衛門くんに持っていかれちゃったし。

五分衛門くんには最初で最後の感謝をする。



俺も昨日、徹夜で仕上げた原稿を持って廊下に出る。

粒に別れを告げ、俺は階段を降り別館へと向かう。

別館の突き当たりに大きい扉があり、それをゆっくりと開ける。




「あら、また来たのね。」




ここは、図書室。

この学校には2つの図書館があって、こっちは昔からある方。

色物の本はあっちの新しい図書館にあり、こちらにはマイナーかつ万人受けしない本ばかりなので、人はほとんどいない。



そんな中、1人静かに本を読む少女がいた。

彼女の名は冴木詠佳。

100年に1人の逸材と言われた、天才小説家、冴木匠の娘である。



俺は軽く挨拶をして早速本題に入る。

スッと、彼女の前に用意した原稿を渡す。

彼女も無言で受け取り、その原稿を静かに読み始める。



そう。

俺は彼女。天才小説家の娘に、自分の書いた小説を読んでもらい、評価してもらっているのだ。

彼女は無類の読書愛好家なのである。

ちなみに、さっき彼女が読んでいた本。

あれは恐らくライトノベルである。

彼女には似つかないと言っても過言ではないのが、彼女は本たるものならばなんでも好きらしい。

だからこそ彼女に評価してもらう必要があった。



彼女は一通り読んで、静かに目を閉じ、ゆっくりと、優しく語りかけるように言った。





「はあ…。」


「ゴミね本当。こんな短い文なのに見てられないわ。」





んー、前言撤回。全く優しくねえわ。



「まず単純に面白そうじゃない。プロローグで興味そそられないとか本として最悪よ。この魔王とやらも、無価値だのなんだの言ってるけど、この文章自体が無価値ね。それになに。魔王とか異世界とか、他にはチートとかハーレムとか。あなたそんなラノベのテンプレみたいなのばかり書くけど、それでいてこんなにもワクワクしない作品よくかけるわね。あれって展開を広げるための要素なんじゃないの?それだってのに話にまるで広がりが無い。広がる様子もない。あなたの文章力なんてこの文でお察しレベルよ。こんな文ばかり書くなんて、あなたやっぱり才能ないわ。諦めなさい。」



機関銃の様に放たれた言葉は、俺の心臓に直接命中しているみたいで、結構くるものがありますね。はい。



「素直な感想どうも。」


自分でも出せているのかわからないぐらいか細い声で答える。俺もゴブ衛門みたいは野太い声欲しいお。



「あなたも懲りないわね。私は毎回あなたに才能がないからやめなさいと言ってるはずなのに。まさかあなたマゾヒストなの?」



「ちげーよ。単純に自分の力がまだ出しきれてないだけ。」



そう、まだ出しきれてないだけ。

まだ。

まだだ。



彼女は読んでいた本に目を移しながら続ける。



「あなたが入学初日に頼みに来た時は、てっきりすぐに顔を見れなくなるだろうと思ったのだけれど、なんだかんだで9ヶ月。根性というか気合いというか。やっぱりあなたはそっちで勝負するべきよ。ええと、なに。マラソンとか?」



「マラソンなんか大嫌いだよ。まず、運動できないし。」



淡々と答えを返す。

それに続いて彼女も続ける。



「まあ、どっちにしても、あなたに才能がないのは紛れもない真実であり、あなたとしても、それを自覚して、他のものを目指すべきよ。」



その時、つい本音が漏れそうだった。だめだ。まだその時じゃない。



そこで、彼女の忠告を無視して、ひとつ話題を振ってみる。






「ところで、お前は本書かないのか?」






彼女が眉を少しひそめる。


「仮にもお前はあの天才。冴木匠の娘だ。お前だって書いてみても面白いんじゃないか?」



彼女はさっきよりも静かに、そして冷たく、答える。



「私が好きなのはあくまで読書。書くのはあまり得意ではないわ。別に親が凄くても、才能が子に宿るわけではないのだから。」



彼女はまるで決められたセリフのようにそういった。



それを聞いて、俺は正直ホッとした。今は嫌いと言ってもらはなくては、俺も格好がつかない。



そして彼女は、すぐに話を変えるように続ける。



「そういえばあれね。あなたの書く文って、なんていうのかしら。こう、大事なものが足りないというか。あなたの想いというか、そんなものが感じられないわね。まるであなたが書いたのでは無いみたいに。」



「えっ、あっ、そー、そうだな。まあ、まだ自信が持ててないから、いろいろ試行錯誤してるし。多分、俺が書くべきものがこの小説じゃあ無かったんだと思う。」



「書くべきって。小説はあなたが、あなた自身で考えたものを書くんだから、書くべきものなんて、まるで神様か誰かが、もしくは小説が。書かれる人を選んでるっていうの?そんな事は無いでしょう。」



「ははっ。その考えはなかったな。小説が書かれるべきして書かれてるなんて。うん、面白い考えだな。さすが、本を読みまくってるだけはある。」



「やめなさいよ。そんな言い方。まるで私が暴詠暴読みたいな。」



ん、今聞いた事が無い言葉が聞こえた

でも、彼女に何言ってんの?は禁句です。彼女は本をたくさん読んでいるので、多分これは俺の知らない言葉なのでしょう。



そのあとも、だらだらと話し続ける。

この9ヶ月間ずっとこの調子である。

俺が書いた原稿を持って行き、それを散々叩かれ、それに俺が対応する。

でも、決して毎回なんの意味もなく叩かれ続けているわけじゃ無い。




そして、それも今日で終わり。

俺のあの問いは、最後の確認のような、そんな感じ。

でも、完璧じゃあ無いから、次を求める俺がいて、でもそれを必死に殺してる俺がいる。




この推理は長すぎだ。

そろそろ種明かしの時間だ。





「あなたにひとつ、言っておくわ。」





俺が、帰ると言って荷物をまとめ始めた頃、彼女は言った。




「これはあなたに欠けてるものを補う為のアドバイスとでも受け取りなさい。」




今度は決められたセリフではなく、彼女自身がゆっくりと静かに言葉を紡ぐように




「あなたはあなたの好きなものを書きなさい。変に凝って、面白くしようとして、難しいこと調べて。確かに大事よ。そうゆうのも小説を書くのに大事なこと。だけどね、あなたが書く小説なんだから、あなたが1番好きでなくてはならない。あなたがその小説を誇りを持って大好きって言える。そんな作品を書きなさい。」




感慨深いなと思った、そんな言葉。




 ———誰に向けられた言葉だろうか。




俺はそんな彼女の顔を見て、言葉を聞いて、心を感じて、やっと知ることができた。




完璧に出揃った。





ありがと、っと軽く手を振って図書館を後にする。




さあ、この物語を終わらせるとしようか。


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