正しい歴史
12/25日。本文と同じ日に完結です。
そして、これが正しい歴史だったんです。んな訳ないですよね。
「ごめんなさい」
私の右手に握られたスマホには、そう書かれたメールが送信の時を待っていた。
あれ?
何だか一瞬、意識が無くなっていたような気が。
あまりのぷんぷん気分で、意識が飛んだ?
んな訳ないよね。
そんな事を思いながら、送信ボタンを親指でタッチして、心の中でつぶやいた。
「いい加減にしてよね」
飛ばしたメールに、私の心のつぶやきも付けちゃいたいくらい。
しばらくは無用になったスマホをポケットにしまいながら、顔を上げた瞬間、びくっとして立ち止まった。
さっきまでは誰もいないと思っていた少し離れた公園の入り口辺りに、二人の人影。
警戒感全開で、その人影の分析に入る。
若い男女。
女の子連れかぁ。
て言うか、女の子は小学生? と言う感じの背丈。少しは安心と思っていると、二人が近づいてきて、男の子が言った。
「すみません。今日は何日ですか?」
はぁ?
私は目が点になった。
クリスマスの日に、そんな事をたずねる人って、頭ちょっと心配。
「12月25日ですけどぉ」
そう答えた瞬間、冷静な私が頭の中で言った。
「危ない人たちで、この後、何か因縁つけてくるのかも?」
思わず、その考えに一票。
警戒を解かず、全神経で男の子の挙動に注目。
「あ。そうですよねぇ」
若い男の子の方はそう言って、頭をポリポリ書きながら、笑顔を向けてきた。
にこやかな笑顔。外見的には敵意は無い。
とは言え、警戒を解く訳にはいかない。
間合いを確保しながら、公園を抜ける事を諦めるかどうかの判断中の私。
「そう言えば、この子に聞かれて困っているんですけど、本能寺の変で織田信長の遺体は見つかったんでしたっけ?」
「はぁぁぁ?」
思わず、言葉に出てしまった。
唐突に何なの?
やっぱ、この子が小学生で、それを聞かれて困っているとしても、何で私に聞くのよ!
「見つからなかったんですよっ」
「どうしてなんでしょうか?」
「そんな事、私に分かる訳ないでしょっ!」
ちょっとぷんぷん気味の口調。
しまった! 態度が悪いって、因縁つけられたらどうしよう。と思ったけど、もう遅い。
逃げる準備と、大声を上げる準備をしながら、注意を二人に向けていると、男の子は頭を下げた。
「どうもです」
若い男の子はそう言って、私に進路を譲った。
女の子が男の子の後に続いた。
進路は空いたし、二人は私から離れはじめた。
単なる変な二人?
このまま公園を通ろうかな?
そう思っていると、公園の中から、別の女の子が駆け出してきた。
「ちょっと、私を忘れているって事無いよね?」
どうやら、さっきの二人の連れらしい。ふと、その子の手に目を向けると、何かを持っていた。
小さな箱のようなもので、ボタンらしきものが一個ついているだけ?
時限爆弾の起爆装置のおもちゃ。そんな感じ。
怪しい三人組。
聞き耳を立てて、警戒していると、男の子の声がした。
「あ、小早川さん?
ミッションコンプリートです。
記憶?
あ、大丈夫みたいです。
全てはリセットされてます」
振り返ると、男の子が誰かに電話していた。
何の事?
怪しい、怪しい、怪しすぎる。
さっさと立ち去った方が無難。
そんな思いが込み上げてきて、私の頭の中のクロック周波数を上げると、足が速まった。
でも、聞き耳だけは継続中。
背後から、襲ってこられたら危ないしぃ。
「でも、有栖川。
これが正しい歴史だったんなら、なんで、この事件は歴史に残らなかったんだ」
「それはね」
「伸君って、あったま、悪ぅぅ」
「なんだよ、佳織」
「北政所ともあろうお方が襲われたなんて事が世に知られたら、秀吉の権威失墜だよ。
まだ秀吉の天下統一は完成してなかったんだから、そんな事公にできる訳ないじゃない」
「でも、ねねを襲ったキリシタンの家臣だけじゃなく、その責任をとらして、大村にも切腹させたじゃないか」
「だからぁ、表向きは大名の大村は病死扱いになったって訳。
伴天連たちも、裏で画策したって確証があった訳じゃないから、ただの追放ですませたんじゃない。
それになによりも、北政所も死んだ訳じゃないし」
「そうそう。なんで死ななかったんだ?」
「それはね。
あの体の中には、二つの精神体、つまり二つの命が入ってたからよ。
元々の命は、突然、飛び込んできたあの子の精神体に体の奥底に押し込まれただけで、どこにも行っていなかったのよ。
それで、あの子の精神体を私たちが引き戻した事で、元の精神体が現れて、肉体も復帰したのよ」
声が変わった。
きっと、この声は小さな女の子の方。にしては、大人ぶった話し方。しかし、話している内容はアニメか何かの空想ものっぽいところは、小学生らしいかも。
「でもさ、生まれ変わっても一緒になんて言うのが、全くの幻想だったって訳ね。
秀吉に胸キュンな人が、転生したあとは秀吉嫌いだなんて」
これはもう一人の女の子の声。
何の話をしてるのか分かんないけど、秀吉は私も嫌い。
サルの話なんか関わりたくない。
さらに足を速めた時、風が吹き付けてきた。
「寒っ」
そんな思いで、空を見上げた。
北の空。もう闇に包まれていて、北斗七星の横に寄り添うように輝いているアルコルが、私の目にとまった。
死兆星と呼ぶ人も。
すると突然、脳裡に大勢の兵たちを前に、甲冑姿でいやらしさ全開で腰を振っている小柄な男の姿が浮かんで消えた。
私の脳が見せた幻?
腰を振る男が誰だか分からなかったけど、秀吉の話を聞いた直後だけに、サルの可能性大。
そう思うと、体がぶるっと一瞬震えた。
寒さからだけでなく、きっと変態サルの姿にぶるっと来たに違いない。
頭を数回振って、頭の中からサルのイメージをふるい落とすと、信長様のイメージを新しくロードする。
「下天のうちをくらぶればぁ~」
幸若舞 敦盛を舞う信長様。
やっぱ、一番は信長様に決まってるじゃん!
早く家に帰って、暖かいお風呂に入ろうっと!
寒い冬の空の下、私は家を目指した。
-完-
まず、はじめに。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
そして、 評価にお気に入り入れてくださった方々、ありがとうございました。
完結できましたのも、皆様のおかげです。
佳奈ちゃん、どこで戻そうかと思ったんですけど、こう言う設定にしました。
いかがでしたでしょうか?
感想などいただければうれしいです。
どうも、最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。




