第04話 最強伝説-13 - ぽえむ聴取
第04話 最強伝説-13 - ぽえむ聴取
「そこで、あたしはその声なき声に応えるために、思いっきり走った。全力で走って、思いっきり跳ねた。まるで、羽が生えた気がした。長い、長い滞空時間の後、あたしは輝く水たまりの上に降り立った! 差し込む日が爆発したような水しぶきの間を跳ねまわって、無数の宝石が出現したかのように美しい光景が広がった。でも、その先に、あいつらがいた……」
ようするに、こいつが跳ね飛ばした水たまりの水を、ヤンキー君達がもろに被ってしまったのだろう。
その後の展開は概ね想像がつく。
「ヤンキー君達に絡まれて、そいつらをおまえがボコったわけか」
俺は、一回深呼吸をしてなんとか笑いの衝動を抑え話を補足する。
「……彼らとの話し合いの後、バイトを探していたあたしに、いいバイトがあるからと誘ってくれたんだ。敵を全力で斃してくれればいいからと言ってた。だから、あたしは持てる最強の呪文を使った。それを、あんたに邪魔されたけど……」
言った後、シリンは俺の顔を恨めしそうに見ていた。
「あたしのバイト代、どうなる?」
やはり、結論はそうなるのか、という結論に落ち着いた。
俺はきっぱりと言ってやる。
「おまえのやったことは、この日本においては単なる犯罪行為であって、バイトとは呼べない。逆におまえが多額の賠償金を支払うことになるぞ」
もちろんその行為が犯罪であることは確実であるが、賠償金のほうは払わせない。その財源が我が家にはないからだ。仮にあったとしても、びた一文支払うつもりもない。
魔法を裁く法律が日本には存在しないからだ。
もちろん、そんなことなどシリンには伝えない。
「マ、マジですか?」
明らかにシリンは慌てていた。
ここで、俺は追い打ちをする。
「ただし、一つだけ賠償金を払わなくてすむ方法がある」
俺は、わざと声を潜めて、かろうじてシリンに届くくらいの大きさで話す。
すると、シリンは身を乗り出してきた。
「日本の法律には、時効というものがある。一定の期間逃げ切れば罪がちゃらになる法律だ。だから、お前は時効の期間が過ぎるまで、家の中でじっとしていろ。絶対に外に出るな。顔も見せるな」
シリンの耳元で、ゆっくりと噛んで含めるように言う。
「わ、わかった。外に、でなければいいのかな?」
俺は、急に弱気になったシリンの肩に手を回すと、めいっぱい優しげな声を作って言ってやる。
「もちろん。シリンが外に出なければ、すべてうまくいく。これからは、できるだけ静かにして暮らすんだ、いいな?」




