第04話 最強伝説-03 - 疑惑
第04話 最強伝説-03 - 疑惑
こいつは、空気を読まない天才である。
なので、この流れは十分に予測できた。
放課後になっているし、急ぎの用もないから鬱陶しいが付き合ってやることにした。
たとえ斎藤といえど、友人である。
「ほう?」
バッグに授業道具一式を詰め込みながら、若干興味があるぞという雰囲気を醸しだしてやると、斎藤は嬉しそうに食いついてきた。
それだけでなく、俺の正面に回り込んで顔を思いっきり近づけてきやがった。
反射的に吐き気がして、俺は口元を押さえてしまったが、斎藤は構わずに話を続ける。
「聞いておどろけ! なんと、その美少女はオレらの知ってる美少女だったんだよ!」
この時点で、内心俺は激しく嫌な予感にとらわれていたのだが、それをあえて抑えこみ平常心を装う。
「それで?」
まだ、俺の感じている予感は予感にしかすぎない。
とりあえず、先の続きを聞いてからだ、と俺は微妙に鼓動を早くしながら、斎藤に向かって先を促した。
「なんと、なんとなんと、なーんと、なーーんと!」
斎藤はかなりド下手なもったいをつける。あるいは、『なんと』が言いたいだけなのかも知れないが。
俺は下手に刺激して調子に乗らせるようなことは避けて、無言のまま放置する。
「なーーーんと! ななーーーんとお! なななーーーーーーんとおぉぉぉぉ!!!」
斎藤は、さらに『なんと』をかぶせてきた。
俺的には限界まで挑戦させてもかまわないのだが、声が大きすぎて無駄に注目を集めているのが厄介事に繋がる可能性がある。
俺は基本的に、地味で真面目で優秀な生徒として過ごしてきている。
そのおかげで、家にいる害獣関連のごたごたもなんとか言い訳できたわけであるが。
こんなくだらないことで、トラブルを起こすようだとそれも崩れてしまうだろう。
というわけで、トラブル回避のために斎藤に付き合ってやる。
「で、誰だったんだ?」
すると斎藤は、思わず殴ってやりたくなるような笑みを浮かべて、
「シリンちゃんだよ」
といった。
言った後のドヤ顔にもムカついたが、だがそれ以上に斎藤の口から出た名前の方が問題であった。
悪い予感ほどよく当たる。現実というものは大概において残酷なものだ。
わずかばかりの平穏な日々は、今こうして終わりを迎えた。
「詳しく教えてもらおうか?」
俺は真顔で斎藤に詰め寄った。
「お、おう。昨日、イウンの駐車場で……」
斎藤はいたって真面目に教えてくれた。
特に脅したわけではないが、プレッシャーは感じてくれたようである。




