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元・天才子役は一般人になりたい  作者: 宵月しらせ


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第1話 相棒

 高校デビューと言えば、陰キャから陽キャにジョブチェンジすることを指す。


 だが、俺の目指す高校デビューは逆方向だ。

 目立たないモブになりたい。

 どこにでもいる普通の高校生になりたい。


★★★


「え~っと、な、梨野圭介です。家の事情で東京から最近越してきました。よろしくおねがいします」


 高校入学初日。

 クラスメイト達を前にしての自己紹介。

 俺は声を震わせ、少しどもりながらあいさつをした。

 

 お辞儀の角度は浅く、視線をあちこちさまよわせ、唇をひきつらせて笑う。

 みんな顔に注目しているだろうが、震わせながら拳を握るのがポイント。

 神は細部に宿る。見られていないところも意識するのだ。


 どうだ、このいかにも“普通の高校生”っぽいあいさつ。

 たかが四十人のクラスの中で話すのでさえ緊張するなんて、普通以外の何者でもないだろう?


 これなら、誰にもバレないはずだ。

 俺が天才子役ユニットの片割れとして、幼稚園から小学校の頃にかけて芸能界で幅を利かせていた、日本中で知らぬ者がいないと言われた、あの“夏海流々(なつみるる)(芸名)”だなんて、誰も想像できるはずがない。


 俺はやり直すのだ。

 芸能界を引退し、かつての名前を捨て、知り合いが誰もいない土地に引っ越してきた。

 ここなら新しい自分になれるはずだ。


「大きくなったら使い道がない」


 なんて言われ、仕事がなくなって「子役崩れ」と学校で笑われていたあの惨めさから解き放たれるんだ。

 だから、高校では目立ちたくない。

 平々凡々と暮らし、モブのような普通の一般人として生きるんだ。


★★★


 しょぼい自己紹介を無事成し遂げ、小さな達成感を味わいながら、クラスメイトの表情を(うかが)う。

 俺のことを意識してるような人は、特にいないようだ。

 うん、それでいい……。


 いや、一人いた。

 大口を開けて、生き別れの家族に遭遇したかのような目で俺を凝視している女子が。


 その女子は、こんな地方都市にはふさわしくないほどの美人だった。

 芸能界でもやっていけそうなレベルの容姿だ。

 

 もしかして、過去にそういう仕事をやっていて、どこかで俺に会っている?

 それとも、もっと単純に、俺に惚れてしまったか?

 さっきの自己紹介に惚れられる要素があるとは思わないが、人の好みはそれぞれだからな。

 それに……自分で言うのもなんだが、顔面には自信があるし。


 まぁ惚れられたのなら、やぶさかではない。

 モブのように生きたいと思っているが、彼女がほしくないってわけじゃない。

 むしろ、ほしい!

 さすがに入学初日から積極的にいくようなことはしないが、時期を見て彼女を作りたいとは思っている。


 そんなことを考えながら他の人の自己紹介を聞き、ついにその子の番になった。

 もしかしたら俺の彼女になるかもしれない人。

 どんな子かとても気になる。


皆川愛遊(みながわあゆ)です。東京から来ました。よろしくおねがいします」


 と、その子は淡泊な自己紹介をした。

 淡々と、抑揚のない平坦なトーンで。

 美人を鼻にかけているわけでもなく、緊張で硬くなっているわけでもなく、実にフラットなあいさつだった。


 ……いや、あいさつのトーンなんてどうでもいい。

 今、この女は、皆川愛遊と名乗ったか⁉

 それって、俺と一緒に子役ユニットを組んでいた相棒の本名じゃねぇか⁉



 

 本当に相棒なのか?

 同姓同名とかじゃなく?

 ……まぁ同い年で東京出身という点まで含めて偶然の一致ってことは、さすがにありえないか。

 俺を見て目の玉が飛び出るほど驚いていたのを考えても、相棒で間違いないはずだ。


 へぇ……俺もそうだが、ずいぶんと見た目が変わったなぁ。

 小学校卒業と同時にユニットを解散して、お互いの道を歩いて行くため会わないようにしていたが、まさかこんなところで再開するとは。

 世の中は狭いなぁ。


 いや、浸ってる場合じゃない!

 もしあいつが俺の正体をバラしたら……俺の高校デビュー計画は全部終わりだ。


 余計なことを話される前に、口止めしておかないと。

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