3.二重生活を楽しんでみる
幹部達に発破をかけて、私は強引に人間界での暮らしを手に入れた。だっていくら魔力があろうと、体は文字通り人間なので、魔界の環境に慣れるとは思えない。
魔法を使えばどうにでもなりそうな気はするが、まず魔界ってワードがちょっと嫌だ。
なんか人外って感じがする。
そんな感じで、私は側に(人間に化けた)クロードを従えながら王族としての生活を送れるようになった。
ちなみに、周囲にはクロードのことは庭に迷い込んできたところを保護したと言ってある。元々前魔王の側近だったから、執事としての作法は一通り出来ていたし、行動に関しては全く問題がなかった。ただし。
「シイユ様。お飲み物をどうぞ」
「ありがとう。…て魔草茶じゃん飲めんわ!!」
人間に対する知識のみ欠落していた(当然か)。
「美味しいのに…」
「せめて人間(私)が飲めるのを出してよ」
おいおいおいと泣く姿はドン引きする。
「シイユ様…いかがされました?」
「ん?なんでもない」
実は私のいる部屋には、私とクロードと、あとは普通の人間であるメイドも複数人いる。ここは王族の住む城なので、王家の人間一人に対し常に一人から三人は従者がつく。私も例外ではない。
第一王女の私にはメイドが二人。
彼女達は私が魔王であることもそうだしクロードが魔族であることも言っていない。というか、人間の誰にも言ってない。
言えば国際問題まっしぐらなので。
でもこうやって同じ空間にいれるのは、クロードが何か人外なことをしでかした際、周りにバレないよう時空を歪めているからである。
時間を停止させ、その間に処理をする。そして解除し、いつも通り。「魔草茶」のくだりもそれだ。
周りからしたら、執事がお茶を出し、次の瞬間にはその執事が床で泣いているという混沌な光景。
ごめんね、みんな。
「シイユ様。本日はどのように過ごされますか?」
「んー、今日はね、グリフォンとフェニックスを呼んでお空を飛ぼうかなって!」
「両方とも高位の魔物ですね!」
ペットとお散歩に行く、そんな表現に聞こえるが、メイドの言うようにグリフォンとフェニックスは立派な魔物。グリフォンは誰もが知る魔法生物だし、フェニックスに至っては伝説の生き物である。
王族教育がまだの私は、こうやって日々を魔法と共に楽しんでいた。
「では空へのお供は是非私めに」
(いいけど、間違えても翼とか出さないでよ)
「?」
庭に出て、グリフォンとフェニックスを呼ぶ。私が魔物と仲良しなのはもう周知の事実なので、周りの目も気にせずまずはフェニックスに乗り込む。グリフォンには小型化してもらい、側で飛行してもらう。
クロードは翼を出せば自分で飛べるが、勿論そんなことはさせない。私の後ろに同乗させた。
「シイユ様、お気を付けてー!」
「クロード、シイユ様をよろしくお願いしますね!」
メイド達に手を振り、ゆっくりと飛び立つ。
「よろしくね、グリ、フェニ」
「ガウ!」
「フォウ!」
魔物特有の鳴き声で返事をくれた二匹に、「いい子だね〜♡」とヨシヨシ撫でる。
ちなみに、王城の屋根よりはるか上空まで到達したところで、クロードは自力で飛び始めた。魔物といえど、他の種族を背中に乗せるのはやはり嫌なのか。
クロードが離れた瞬間にフェニックスがブルブルッと震えた。ちょ、待っ、私乗ってる。
「失礼な」
ムスッとしたクロード。
うーん、優越感。
「んふふ。今日はちょっと長めに空のお散歩に行こうか」
私がそう言うと、分かりやすくフェニがご機嫌になる。かわゆいやつめ。
「グロック火山を回って、ビョルビヤ山脈まで行ったら帰ろう。夕方には戻らないと父様と母様に心配かけちゃう」
「ご両親のことを気遣われるとは。さすが魔王様でございます」
クロードは、二人になったときもしくは他に人間がいないときに私のことを「魔王様」と呼ぶ。これは私が取り決めた。どうしても魔王と呼びたい、呼ばせてくださいと切願されたものだから、じゃあ人がいないときならいいよと言ったらこうなったのだ。
人前で魔王と呼ばれてみろ、人間界にはいられなくなるし、あっという間に魔界を滅ぼすぞ。




