29.好奇と下心と欲目
「そういえば王女殿下。後ろのお二人は…?」
あまりにも存在感がありすぎたのだろう。もしくは視線か。
「…ああ、私の護衛であるクロードと、影武者も務めているユイですわ。二人とも、私に忠実で、優秀な配下です」
クロードとユイが会釈をする。
婦人はクロードの美貌に釘付けだし、男性はユイに興味津々。
そういや、クロードは魔族のなかでも特に美形な顔立ちなんだっけ。これがそのまま人間界にいたなら女性達が放っておかないだろう。
外面も良い彼は、確かに婦人達注目の的だ。
そしてユイ。彼女は私と同じ顔をしているので、顔を出すわけにはいかない。ゆえに、顔を隠している。
けれども体格から女であることは分かるので、男達から好奇の目で見られるのだ。…何だか申し訳ない。
「…こんなに整った顔立ちの殿方、見たことがありませんわ」
「……およそ人間とは思えぬほどの美しさ…」
「恐れ入ります」
社交辞令として受け取ったクロードがよそ行きの笑顔で応対する。さすが、先代魔王からの執事。隙がない。
「そちらのお嬢さんも、お顔は見せてくださらぬのですかな」
「ご容赦くださいませ。彼女は私の前でしか素顔を晒すことを嫌がります。私もそれで納得しておりますゆえ、どうぞご遠慮ください」
「そうですか。それは残念だ」
本音がダダ漏れだよおっさん。王女付き影武者に興味があるのは分かるが、下心を隠し切れていない。
「…それでは、ご挨拶に回らないといけませんので、これにて失礼いたします」
「王女殿下もお忙しいなかありがとうございます」
貴族への挨拶は少々骨が折れる。社交界ならではの風習だが、裏を返せばお互いの家紋を賭けた駆け引きの場なので、みな王家への繋がりを作ろうと必死だ。
その繋がりの先端にいるのが魔王とも知らず。
「…ユイ。視線が嫌になったらいつでも影に入って構わないからね」
「お心遣い、感謝いたします。ですが、ご心配には及びません。………所詮、人間どもの戯言…ですから」
「…まさか、シイユ様の目の前でその配下にまで色目を使う人間がいようとは」
「……これが、ある意味社交界…だからね」
二人とも、怒りを通り越して呆れていた。
人間の欲を垣間見たのだからしょうがないとも言える。
「さっさと挨拶を終わらせて部屋に戻ろう」
幸いこの社交界の主役は私ではないので、「疲れた」とか適当な言い訳ですぐ退室は許される。そう思った直後である。
––––私の魔力が何かに反応を示した。敵意も悪意もないが、この場で察知するということは相手は魔族かそれとも。
「…シイユ様?いかがされましたか」
「……クロード、気付かないの」
「…何が」
クロードが気付かない。それはつまり、かなり上手に魔力を隠蔽している。限りなくゼロに、透明に隠している。そういうことである。それに気付いたので、私は二人に警告しておいた。
「……かなり強めの魔力を感じた。クロード、ユイ。念のため警戒を。魔族かもしれない」
「! 承知しました」
「…この会場を含め周囲半径1キロに結界を張ります」
警戒し始めたときである。御老人に声をかけられた。
「シイユ王女殿下であらせられますか」
「…貴方は?」
煌びやかではない服装。しかし庶民とも違う。
「ご紹介が遅れまして申し訳ありません。私は、代々勇者を輩出する村の長をやっております。…その節は、王女殿下に多大なご迷惑をおかけしたと聞き及び、こうして馳せ参じました」
「…勇者。ああ…」
あの自称勇者の、出身の村か。と合点がいき、にこ、と人当たりの良い王女を演じる。
「こちらこそ、村長のお顔に泥を塗ってしまい心が痛みます…。あの勇者の件であればご心配には及びません。我が父と母が正当な処分を下しましたし、私の友人達も色々協力してくれました」
「おお……王女殿下だけではなく、国王ご夫妻やご友人方にまでご迷惑を…」
「もう終わったことです。お気になさらないで。……それよりも、本日は村長お一人ですか?」
「あ、おお。そうでした。勇者の件で一度王女殿下に謝罪をと伺ったのと、本日は私直々にご紹介したい者がおりまして」
村長が呼び、その者が来る。
スラリとした身長。代々勇者の血を受け継ぐ者に出る赤毛。まだ青年になりきらない、少年だ。
「つい先日、勇者のスキルが発現しました。本人は闘いそのものを嫌う性格ではございますが、以前の勇者とは違い、その力は確かなものです」
ぺこり、と会釈する。
しかしその表情には媚びがない。自称勇者のように色目がない。王族に興味がないのか。
それとも。




