23.冒険者・アルバトロス2
「お前こそ、仮にも魔王で一国の姫だろ。こんなとこで何してる?」
「私のこと、姫って知ってたの?」
初対面でいきなり闘いを挑まれたとき、彼は私を姫と認識してない印象だったが。
「王城にいる幼女で姫だと気付かないわけがない」
「私てっきり魔界は脳筋の集まりだと…」
「人聞きが悪いな。まあそうなんだが。…で、ここに何しにきた? まさかお前も冒険者に?」
「違うわよ。…ちょっと、依頼の出し方を…」
「依頼??」
先代魔王。私が初めて本気を出して叩きのめした魔族。クロードやマオ、ユイと同じく私の正体を知っている数少ない者。そこで彼に自称勇者のことを相談してみた。現在冒険者をやっているというのだからこれ以上ない適任だろうと。
激励のために招いた王城で魔王討伐の褒美に姫である私を所望したこと。その際私の正体に気付かなかったこと。
王妃から遠回しに“却下”と言われたが完全に都合良く解釈し、現在ストーカー化していること。
全部話したあと、目の前の先代魔王は笑い転げていた。
「ぶぁっはははは!!!おま、魔王なのに勇者から求婚されたの!?んでしかも現在進行形!??」
「笑いすぎじゃない?」
「アルバトロス、魔王様に失礼ですよ」
「ひー!」
笑いの衝撃でテーブルがガタガタと揺れる。ねえほんと笑いすぎじゃない??
しばらく爆笑したあと、まだプルプル震えている元魔王が口を開く。
「ふう。はー。まあ、あの勇者じゃ魔王(お前)に気付くのは無理だろうな。ましてやガワがこんなお姫様じゃ」
「そんなもの?」
「お前、世間での魔王がどんなイメージか知ってるか? 男・デカい・ゴツい。それがこんなお姫様が今の魔王だなんて誰も信じねぇだろ」
「でもさ、勇者のスキル持ってるんだよ? なのに気付かないの?」
「そりゃ、中身はただの駆け出し冒険者だからだよ。あ、ちなみに会ったことはあるぜ。お互い冒険者だからな。そんときも、あいつは元魔王(俺)には気付かなかった。ようはその程度の実力者ってことだ」
「………魔王(私)にも気付かなかったし、横にいた魔族にも気付かなかった……」
「だろ?」
完全に笑いが収まった元魔王は、「あー、久々にめっちゃ笑った」とビールを呷る。
「…で、お前はそのストーカー化した自称勇者を、偽依頼でおびき寄せたいと」
「端的に言うと、そう」
「なるほどなぁ」
ニヤ、と笑う元魔王。何か良い案でも浮かんだのだろうか。
「まあ迷宮とか討伐じゃあ自称勇者は踏み倒す可能性が大いにある。一つ、依頼を出さずに済む方法があるぞ」
「えっ」
「俺が自称勇者とパーティを組むんだ」
「パーティ」




