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13.勘違い勇者

13.勘違い勇者



数日後、魔王討伐に名乗りを上げた勇者が登城した。


「国王陛下。勇者が到着いたしました!」

「うむ。通せ」


謁見の間で、真ん中に国王である父。

父を挟んで母と私が座る。

少し離れたところにそれぞれの従者達。

長いレッドカーペットの先にゴツい両開き扉。


兵士がその重い扉を開けて、待機する冒険者を招き入れた。

赤いマントをわざとらしくはためかせたところに違和感を覚えたが、今は黙っていよう。


堂々とした足取りで階段手前で膝を折り、こうべを垂れる。……一応、王族への礼儀作法は持ち合わせてるみたいだ。


「そなたが勇者スキルを持つ冒険者だな?」

「はっ」

「魔王討伐に名乗りを上げたと聞いた…。此度の魔王は数百年振りの強さと想定しているが、勝てる見込みはあるのか」

「勿論でございます!」


…うん。やる気はめちゃくちゃある。

組合ギルドからの報告では全く期待外れのようなイメージがあったので、この反応は父としてはとても嬉しいものだろう。

けれど。


『……クロード。この冒険者、勇者のスキル持ち、らしいんだけど』


こっそりとクロードに思念伝達テレパシーを飛ばす。魔族から見てこの冒険者がどう見えるのか、確認するためだ。

私が見る限り、この冒険者は……。


『…………はい。魔王様。…この冒険者、魔王様の正体に気付いておりません』

『…やっぱり、か…』


クロードはスキル透視の眼を使った。相手がどれだけ隠していようと、所持するスキルを全て暴ける隠蔽スキル泣かせ。あれ、いいな。私もその魔法手に入れよ。


『………本人が言うように、勇者のスキルは持っています。…が、レベルが低すぎます。これでは魔王様はおろか我々魔族…いえ、幹部にすら辿り着けない』

『うーん、私を目の前にしても反応が変わらないからもしかして、とは思ったけど』


そう。この冒険者、全体的に能力ステータスが低いのだ。魔力も低い。

いや、そこら辺の冒険者に比べれば高い…のだろうけど、魔王が目の前にいてその正体に気付けないというのは戦闘においてかなりの不利になる。


「よろしい。では、魔王討伐の折にはそなたに褒美を獲らせよう。何を望む? 富か。地位か」


ここでの王道。

勇者は褒美を望まない。勇者として当然の責務を果たしただけ、のどかで平和な世界のためにこの力を奮うのみ。

かつて魔王を討伐した勇者も、褒美は望まなかったとされている。それが勇者の美徳、美学だから。


父の「褒美を獲らせる」という発言に、冒険者は顔を上げた。瞬間、冒険者と目が合う。

あれ?なんか、嫌な予感––––。


「では、恐れながら国王陛下」


キリッとした表情で何を言うかと思えば。


「シイユ姫との結婚を、お許しいただけますか」


……………………ん?


「…ほう。我が娘を望むか」


おい冒険者。ちょっと待て。

クロードがすっっっっごい殺気放ってるから。

え、みんな気付いてないの??


「大昔、魔王を討ち果たした勇者は、その功績に当時の姫君と婚姻し、この国の王となったと言われております」

「……ふむ。確かに」


確かに、じゃないわ父よ。

……それに、カッコよく言ってるけど、貴方目の前にその“魔王”がいることに気付いてないからね?

打ち果たそうとしている魔王、目の前の姫だからね??


「伝承に則り、私も魔王を討ち果たしたあかつきには姫を貰い受けたく…!」


………伝承って言ってるけど、それにはれっきとした理由がある。


勇者は褒美を望まなかった。責務を果たしたと報酬を辞退したのだ。

でも国王がそれでは良しとしなかった。国を救った英雄に、何も無しでは国王としての面子めんつが丸潰れなので。

どうにかして褒美を獲らせなければ。国民への示しも付かない。

考えあぐねていた国王に、勇者の美徳に心打たれた姫が声を上げた。


“では、わたくしとの婚姻を褒美としませんか”と。


それが、勇者がのちに伝承として語り継がれることになった所以ゆえんである。


正しく伝承を理解しているのは、代々王家に嫁ぐ、もしくは王家に生まれた王女のみ。つまりはこの場において私と母だけ。

冒険者の話を聞いていて眉をしかめた私は、ちら、と父の向こうに座る母へ視線を向けた。


母は、私の視線に気付きウィンクをして口に指を当てる。


“大丈夫、任せなさい”の合図。


ここで初めて、母が口を開く。


「冒険者よ。貴方の望みは分かりました。けれども娘はまだ幼な子。王族としての教育すらまだ始まっておりません。加えてわたくしの大事な大事な一人娘です」


代々王妃に受け継がれる扇子をパサッと広げて優雅に微笑む。


「伝承の通りに望むのならば、まずは勇者と同じく魔王を討ち果たしてから。話はそれからです。それと、王家の姫が婚姻を結ぶのは成人してから。それまでは婚約期間とします。…わたくしの娘を口先だけの男に任せる気はありません。よいですね?」




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