堕ちる進化 _ 移ろう変化『Transgressive Evolution』
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私は、小さなころから頭が良い。別に自慢じゃないんだけど。
家はとても厳しく、小学校に入る前から勉強ばかりしていた。
小学校に入ってからも、ずっとずっと勉強。わからないことは何もなかった。
同じクラスだったあの子は、率直に言ってバカだったから私が勉強を教えてあげたりするようになった。
最初の切っ掛けはあんまり覚えてない。てゆーか、いつの間にか近くをちょろちょろ付きまとうようになってた気がする。
あの子はいつも、わけのわからないことばかりを言ってた。
アニメがどうの、マンガがどうの、魔法少女がどうのって。
私が知らない世界があるのだと教えてくれた。
それもすぐに勉強して覚えたんだけど。
あの子が話す私が知らないこと。それを私が覚えて話せば、あの子はバカみたいに喜んだ。
呆れるほど、簡単で単純。羨ましいほど、幼稚で純粋。
私はこんなにも頑張って、こんなにもすごいのに、私はあの子になれない。
……いやちがう、そうじゃない。そんなことは考えてない。
あの子は全然すごくなんかないから。普通。当たり前。それよりもちょっと下。
なのに、あの子は変に怒られたりもせず、いじめられたりもせず、いつもニコニコ笑ってて、不思議だった。
……。一緒って、そっちが言ったくせに。
「想定内。しかし、……」
「……?」
いけない、ボーっとしてた。
話を聞き逃してしまったけど、聞き返しても大丈夫かな……?
「……あの、せんせ」
「あなたには想定を超えられる力がある。あなたに限界など存在しない」
「え? っと……?」
何故か、ふと、お母さんの顔が浮かびそうになる。
ずっと昔に別れてしまったかのように、何となくの顔しか思い出せないけど。
そんなに時間も経ってないのに、なんでだろう。
「いえ、あなたは本当に特別だということですよ。限界を定めてはいけません。私があなたを見つけたとき、どれほどの逸材と感じたことか」
「あ、えっと……ありがとうございます?」
……。ああ、そういえば、先生にあったのも。
あの子がいなくなって、だんだんと。
忘れられていって、薄れていって、だんだんと。
家の中でも外でも、夢を見ることができなくなって、だんだんと。
だんだんと、私が私でなくなってしまうような、気持ち悪さが胸の奥からお腹の底に落ちるように、頭の中身が少しずつ、口から出てしまうかのように、魂のようなものが、少しずつ、少しずつ。
先生は、私に魔法少女になれるといった。いや、私が聞いたんだったっけか。
先生は、元々魔法少女の関係者だったって、今は組織にいないけど、色々知ってるって教えてもらって。
とにかく私が知りたいことを教えてくれて、どうすればいいかも教えてくれた。
私を見つけてくれて、私には秘められた力があるって。
だれよりも魔力に適合でき、だれよりもすごい魔法少女になれるって、言ってくれた。
私ができたのは私がすごいからかもしれないけど、それでも、力強く背中を押してくれた。
「私が、魔法少女になれたのは先生のおかげです。ありがとうございます」
「……ふふふ、どういたしまして」
私には真似できないような、大人っぽい微笑み。
なんだろう、白衣を着てるけど、保健室の先生というよりは、ほんとハカセって感じ。
「一つ、助言をしましょう」
「……はい」
「《《肉体は魂の外殻に過ぎない》》。……あなたの魔法の《《真価》》は、その先にある」
「……? ありがとうございます」
……よくわからなかったけど、きっと私がもっとすごくなるためのアドバイスだろう。
ちょっと意味深すぎてもう少し具体的な内容が欲しいけど、前からこんな感じの話し方なので仕方ない。
《《間違い》》を教えられたことはないし、私がいっぱい考えて実践すればいいだけのことだし。
・・・
先生と別れてから、何週間か経った。
訓練して、勉強して、先輩たちの仕事を手伝ったりして、何回か魔獣とも戦った。
まぁ魔獣と戦ったって言っても、どれも最初の時よりもずっと小規模で、全員じゃなく数人の小隊だけで対処できるくらいだったから何も怖くない。
警報は一応鳴るけど、その結果は新聞の片隅に載るくらいでニュースにもならない程度。留守番することだってあったくらいだし。
平和と言っちゃえば、平和と言えなくもない、のかも?
……。
「全員集まったな。全体ミーティングを始める」
今日の朝は部隊全体の会議から始まった。
何気に部隊全体での会議は結構珍しいのかもしれない。出撃前の作戦会議も通常警報だと全員じゃないことも多いみたいで、最初の魔獣退治の時くらいだったし。
普段は休みもバラバラだし、やってることもバラバラだから仕方ないんだろうけど。他の部隊はどうなんだろか。
会議の内容は、物資の搬入が対魔獣連携の反省とか、中央視察の話とか隊舎の設備更新で業者が入るとかなどなど。
そういう真面目な話の他にも、食堂のメニューアンケートとか娯楽室使ったら片付けろとかどうでもいいゆるい話題もあったり。
なんとなく、学校の生徒会の会議みたいな感じ?
今みたいに隊長が問題を色々挙げながら会議を回して、副隊長が書記をするって光景がそのまま想像できる。
……ちょっと気になったけど、副隊長の他にも会議の内容をまとめてる大人の事務員の人がいる。二人も要るのかな。ダブルチェックってやつ?
「最後に一つ」
会議と終わり際、なんとなくまったりし始めた雰囲気を隊長が釘を刺す。
目配せし合ってニコニコしてた人たちや眠そうに目を細めてた人の雰囲気が一気に引き締まる。
「近頃、魔法少女の素行の乱れが取り沙汰されている。外部活動だけでなくプライベートでも気を抜きすぎるな」
重苦しくて堅苦しく、どこか説教臭い訓示。
私たち魔法少女は認識阻害でプライバシーを守られているらしい。
でもそれは、魔法少女だと分からなくなるわけじゃない。
だから何か問題があった時に全体の問題になるってことなんだろう。たぶん。
「我々は魔法少女だ。一般人ではない。ただの子供のように守ってもらえるわけじゃない。社会で生きてため規律を守らねばならない。各々、改めて肝に銘じておくように。以上」
ちょっと場違いかもしれないけど、やっぱり真面目だなって思った。
私も真面目な方だとは思うけどそれ以上に見える。
隊長と副隊長は友達らしい。休みの日に一緒にいるのを街で見かけたってどこかで聞いた。
ずっと四六時中真面目だと疲れるし余裕も無くなっちゃう。昔の私もそうだったし。
それを副隊長が上手く付き合ってるんだろなって。失礼な想像かもだけど。
「ねえねえ! 食堂メニューアンケートどうする!?」
でもこの子はもう少し緊張感を持ったほうがいいでしょ……。あといちいち声がデカい。
小学校での給食アンケートで思い切りはしゃいでた姿を思い出す。ほんと、変わらない。
「……塩鮭?」
「えー、なんかおばあちゃんみたい」
「は? ケンカ売ってる??」
いきなり言われたもんだから、好きなものがそのまま口から出てしまった。
小さな頃から魚ばかり食べてたけど嫌いにならず好物になったのは良かったなって思い出。
じゃなきゃ毎日の家での食事が地獄だっただろうし。
「でもさ、視察ってどうなんだろーね」
「いつも通りしてれば大丈夫でしょ。授業参観みたいなもんよ」
さっき会議で言ってた中で私も少し気になったイベント。
定期的にあるらしい、大人のお偉いさんたちの視察ってやつ。
これもあってさっき隊長はピリピリしてたんだろな。たぶん。
「なんか緊張してきた……」
「……」
「……」
「……なんかお腹空いてきた。今日の食堂メニューなんだっけ?」
「ほんとどこに緊張感があるのやら……」
まぁでもきっと、これでいい。
このままでいればいいし、このままでありたい。
ずっといつも通りは難しいかもしれないけど。
いいんだから、いいままに、あの頃のままでいい。
変えたかったもの変えて、変わらないものへと帰る。そんな夢。
私たちの夢の中。覚めないままでいれば、それでいい。
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