第41話 濃霧龍ギルガンダ
ギルガンダの秘密がわかります。
第41話 ~濃霧龍ギルガンダ~
水月は、岩壁にめり込んでいるデストロを引きずり出して、蔵光達の近くまで連れてきた。
デストロは完全に白目を剥いた状態で、全身を強打しているためか、手や足が変な方向へ向いている。
だが、まだ、かろうじて息があるようで、水月はデストロの体を水球で包み、首だけ出した状態にして拘束した。
「ところで水月じいちゃんはこれからどうするの?」
と蔵光が聞いた。
「そうじゃのぉ、とりあえずはこの魔族の連れ戻しとなるが、うーん、こやつらが狙ってたのが本当のギルガンダだったとはのう。困ったのぉ。困ったのぉ。」
と水月が眉間にシワを寄せ、ワザとらしく困った感を醸し出しながらチラリと蔵光を見る。
子供が何か企んでいるような顔だ。
「えっ?何?」
蔵光もその顔を見て、半笑いをしながら尋ねる。
「実はのぉ、ここにいるドラゴンが黒龍だったら、今後必ず村とかを襲う害悪となる恐れがあったんで、魔族の依頼ついでに、ここでそのドラゴンを始末をするつもりだったんじゃが、奴等の狙っていたドラゴンが本当のギルガンダだったとはのぉ、黒龍化もしていないようだが、お前達の調査の結果で、もし人間に危害を加えていたというのであれば………」
水月が言葉を途切らせた。
目線がギルガンダの方へ向く。
それと同時くらいにギルガンダがその巨体を持ち上げて起き上がり、蔵光らの方へ向けて巨大な炎を吹き付けてきた。
頭の部分だけでも約20m以上の大きさがある巨大なドラゴンが吐く、特大の火炎放射だ。
しかし、その炎は水月の作った『水盾』(書いて字のごとく水でできた巨大な防御壁だ。)で吸い込まれるように防がれ、さらに横にいた蔵光がギルガンダの顔の高さまで飛び上がり、巨大化させた如意棒でギルガンダの左顔面を横殴りのようにして叩き付けた。
ギルガンダは、その巨体にも関わらず体ごと宙に浮くような感じで殴られた方向へ、凄い勢いで吹っ飛び、谷の壁面に叩き付けられた。
ものすごい地響きと共に瓦礫が飛び散り、体が下の川底の深い部分へ落ちた時には巨大な水柱が立ち上がった。
川沿いの木々もその衝撃で震えている。
体長が200m以上もあるギルガンダの巨体を殴り付けたうえ、吹っ飛ばすという蔵光の恐ろしい力を目撃したヘルメス、ヴィスコ、ザビエラは目を丸くしてその場に固まっていた。
川の中からギルガンダが顔を出した。
「痛ったあ~い!ちょっと、あんた達!さっきから私に何してくれてるのよ!」
とギルガンダが喋る。
「ほっ?ドラゴンがしゃべったで!珍しいな!」
とゼリー、お前もな。
「ふおふおふお、やはり喋れたか。」
水月は何かを知っている様子である。
「助けてあげたのに、攻撃してきちゃダメだよ。」
と蔵光がギルガンダに言ったが、相当に頭にきていたのか、さらに炎を吐こうと着火牙をカチカチと鳴らす。
炎を吹く前の準備行動だ。
しかし、
『水恵・膜』
を蔵光が唱えていた。
ギルガンダの口の中に水の膜が張られる。
そのため、ギルガンダが吐き出そうとした発火液体が口の中でストップし、そこに着火牙の火花が引火したため、口の中で大爆発を起こしてしまった。
ギルガンダは爆発の勢いで後方へ吹っ飛び仰向けに倒れ、後頭部を地面へ強烈に打ち付けた。
蔵光はすかさず、こちらに向いてきた大きな尻尾の先を掴み、何をするのかと思いきや、尻尾を掴んだまま、その場から物凄い勢いで上空へ飛び上がった。
すると、ギルガンダの体もその勢いで引きずり上げられて、宙に浮き上がり、谷の上空約100mまで体が跳ね上がった。
蔵光は、そこから力を込め、今度は下へ向けてギルガンダの尻尾を引っ張った。
すると、ギルガンダの体は引力も加わって恐ろしい程の轟音をあげて地面に叩き付けられた。
体の大半部分は岩場に叩き付けられ、頭部が川の中に大きな水しぶきを立てて沈む。
岩場の岩は砕け散り、周囲に生えている木々もなぎ倒されてちぎれ飛ぶ。
今までこのような攻撃を食らったことも無かったであろう。
ギルガンダは体をビクビクと痙攣させながらも、何とか起き上がり、川に浸かっていた頭部分を持ち上げ、口の中に入った水で噎せながら蔵光の方を見た。
「ゲホ、ゲホ、はあ……はあ…いっ、一体あんた、何者なんだよ!普通、あたしを投げられる人間なんてジパングの龍を狩る一族くらいしかいない…ん…だから…?」
ギルガンダは、自分がしゃべっている話しの途中で、蔵光が地面に置いていた如意棒を拾い上げるところを目撃する。
先程はかなり大きな棒をだったはずだが、今は小さくなっている。
ギルガンダは、過去の記憶を甦らせながら、その如意棒を見る、見る、見る、見る、見る、見る、めーっちゃ見た。
そして、普段はその表情がよくわからない龍の顔面に、誰でもハッキリとわかるくらいの恐怖の表情を浮かべた。
「ひぃぃぃぃーーーー!」
ギルガンダの巨大な悲鳴が谷の中へ響く。
と、その次の瞬間、
「お、お、お、お、お、お助け下さい~!」
ギルガンダがその場に前足を出して伏せた。
完全降伏の姿勢だ。
体もガタガタと震えている。
蔵光は、ギルガンダの態度が急に変わり、叫びだした後、ひれ伏したので驚く。
「どうしたの?急に?」
「あっ、あっ、あっ、あのもしかして水無月一族の方ですか?」
蔵光はギルガンダから妙な質問をされた。
何故か蔵光の家名を知っている。
「えっ?何で知ってるの、うちの家の名前?」
「ひぃぃぃぃーーーー!やっぱりいいぃぃ!」
ギルガンダは蔵光が、水無月家の者と知るや、その大きな目をさらに大きく見開き、恐怖で表情が凍り付いてしまった。
そして、両前足(両手?)で顔を覆い、地面に顔を着ける。
そこへ、水月が声をかけた。
「ギルガンダよ……」
顔に手を当てて縮み上がるギルガンダに水月が優しく声をかける。
その声に顔を上げると小さな老人が目の前にいた。
最初に自分の火炎放射を止めた老人だ。
蔵光に殴られ、吹っ飛ばされ、炎を止められた上に叩き付けられた。
恐らく、この老人も只者ではないだろう。
息も絶え絶えのギルガンダが目の前の不思議な老人に尋ねる。
「はあ…はあ…あっ、あんたは?」
「ワシの名は水無月水月といってな、その子のひいじいちゃんじゃよ。」
「あっ…」
と水月が自己紹介をすると、途端にギルガンダの目が白目となり気を失った。
しばらくするとギルガンダは目を覚ましたが、最初のうちは水月と蔵光を交互に見ながら一言も喋らなかった。
しかし、水月の次の一言で喋るようになった。
「ワダツミ…」
水月がそう言うと、ギルガンダは冷水を浴びたようにシャキッとなり、水月を見た。
その目には恐怖と共に憎悪の色が浮かんでいる。
そんなギルガンダの目を尻目に水月は話し始めた。
「お前の父は生きておるぞ。」
「!!」
水月の言葉を聞いた途端、ギルガンダの目がカッと見開いたが憎しみのこもった目は変わらない。
そして、
「嘘を言うな!お父様は2000年前にお前達、水無月一族に殺された!」
ギルガンダは恐怖を抑えながらも先程とは打って変わった強気な態度で水月に吠える。
水月はその言葉を言うと思っていたのか、ギルガンダにある事実を伝えた。
「お前の父ワダツミは現在もジパングの龍火山において龍王として生きておるぞ。そして、その龍王から、お前のことを探してもらいたいと、ずっと以前から代々の水無月一族の者が依頼を受け継いでいたんだよ。」
「嘘だ!」
ギルガンダは水月の言葉を信じない。
だが、水月は話を続ける。
「それでな、龍王ワダツミ曰く『もし私の娘ギルガンダが黒龍と成り果てていれば水無月の手で葬ってくれ、そうでなければ殺さずそのままにして欲しい』と言っておったんじゃよ。」
と水月が話す。
「お前さんは龍王の手でジパングから逃がされて知らないと思うが、我々水無月家の真の目的は世界に生き残る黒龍の絶滅なんじゃよ。」
「えっ…?」
「そうじゃ、水無月家はドラゴン全てを殺そうとした訳ではないのじゃよ。黒龍とは普通のドラゴンが負の魔素の影響で凶暴化したもの。人間はおろか、この世界の生き物全てが絶滅するまで喰らい尽くす怪物と成り果てた姿をいう。我々はその恐るべき黒龍を滅するため神から力を授かり常に黒龍を監視しているんじゃよ。」
と説明をした。
すると、それまで憎悪の目をして見ていたギルガンダの目付きが変わる。
「じ、じゃあ、お、お父様は……?」
「黒龍になっていない龍をワシらが殺す訳なかろう。龍火山でピンピンしておるわ!」
「………」
ギルガンダの巨大な目には涙が溢れ出してきていた。
「まあ、お前さんの父も最初は我々の一族が全ての龍を殺すためにジパングへ上陸してきたものと思っていたらしく、お前さんをこっそりと逃がしたんだが、その後、その事情を知って非常に後悔しておったらしい。大事な娘を手離してしまったとな。」
それを聞いてギルガンダの肩がビクン、ビクンと波打つ、そして、
「うっ、うっ、うわあぁぁぁーお父様ぁーー!」
ギルガンダは大きな声をあげ、大粒の涙を流して泣いた。
これまで溜め込んでいたものを一挙に吐き出し、洗い流すかのように…
この2000年間、水無月家の追跡から逃げて逃げて、とことん逃げた。
自分の霧の能力を使って色々な所へ隠れ住んでいた。
当時、ギルガンダは300歳くらい、人間にすれば3歳~4歳くらいだ。右も左もわからない子供が自分達の命を狙う恐るべき一族に追跡される。
何故殺されるのか訳がわからない。
こんな恐ろしいことがあるだろうか?
噂で、自分達を襲ったのは水無月という一族であり、『龍を狩る一族』と呼ばれていることを知った。
もう、両親は殺されたものと思っていた。
逃げるとき父親から、
『一族の中でも伸縮自在の金属の棒を持つ者には絶対に手向かいするな、逃げろ、逃げろ、逃げ延びろ!』
と、これが最後の言葉だった。
しかし、今日、そのような金属の棒を持つ少年が谷間で隠れていた自分の目の前に現れ、持っていたその棒で殴り付けられ、さらには自分を子犬のように持ち上げては投げつけられた。
今までそのような経験はないし、こんなことが出来る人間はまずいない。
そして、伸縮自在の金属棒を見て水無月家の人間だと確信する。
自分の命を狙う、水無月一族が目の前に現れたのだから驚いたどころの話ではない。
『殺される』
心臓を鷲掴みにされる程の恐怖が、自分の心を縛り付けていた。
間違っていて欲しいと思い、念のため名前を確認したら、やっぱり水無月という名前を出された。
水無月という名のトラウマ。
その曾祖父という老人も現れた。
『もう、詰んだ、終わった。』
と思った瞬間気を失っていた。
しかし、気がついてからは恐怖よりも自分の両親や仲間達が殺されたという憎しみの気持ちが込み上げ、蔵光らに文句を言ったが、水月から自分の予想を裏切るような話をされ、張り詰めていた気持ちが一気に緩み、結果、先程の大泣きとなったのだ。
もう、第二章も終わりに近づいてきました。
ゼ「えっ?もう終わりかいな?」
えっ終わりですけど…
ゼ「何かもうちょっと盛り上がりあるんとちゃうんかいな?」
えっ?結構盛り上げたつもりですけど?
ゼ「あかーん!全然や。」
そうですか?
ゼ「もっとワイを出さんとおもろないで!」
あっ、そういうことね。




