第12話 過去編7~ゼリーの秘密~
ちょっと文字数少な目ですが、とりあえず過去編終了です。お疲れ様でした。
第12話 ~ゼリーの秘密~
エブーダの森の中を蔵光達は歩いていた。
元エンペラースライムのゼリーの案内で『負の魔素』が溢れて吹き出している場所に向かっているのだ。
既にいくつかの地脈は正常化を終え、後残り1つ、2つくらいだ。
森の中を歩きながら蔵光はゼリーに質問した。
「ところでゼリーはどうして人間の言葉って言うか、何でそんなしゃべり方なの?」
横で聞いていた誠三郎も、
「そうだな、何か、仕草や考え方、知識も人間っぽいんだが。」
とゼリーが何故しゃべれるのか、また人間っぽい思考をすることに疑問を持っていた。
「ああ、それはあれや、大分前に、この森に入ってきていたボーケンシャとかいう奴等が、ワイのことを襲ってきたんで、飲み込んだことがあってなぁ…」
「えっ?飲み込んだ?」
「ああ、そうや、ワイらは基本的に魔素があれば生きていけるんやけど、悪食なんで、襲ってこられたら何でも飲み込んでしまう習性があってなぁ…」
「そうなんだ。」
蔵光はゼリーの話を興味深く聞いている。
「その時に飲み込んだ人間の言葉や知識なんかを引き継いだみたいなんや。まあ記憶は引き継げんかったけどな。せやから、さっき使こうてた魔法以外にも色々な魔法を知っとるで、例えば空間魔法とか…」
「えっ空間魔法?」
蔵光は当時から基本的に魔法オタクである。
いくら自分の国が鎖国状態であっても空間魔法の事情は良く知っていた。
「そや、ワイが飲み込んだ奴等のうち、魔法使いが一人いたみたいやった。そいつがワイに飲み込まれた瞬間、ワイの身体の中で空間魔法を展開して閉じ込もってしもうたんや。」
「じゃあその魔法使いはゼリーの体内で溶けてしまったんじゃなくて…」
「そうや、空間魔法の中で、寿命が来て亡くなったみたいなんや。」
「ええっ?空間の中で生きられるの?」
蔵光が興味深そうに尋ねる。
「ああ、何や色々な種類の空間魔法があるみたいで、時間を止めたりできる空間や普通に時間が進む空間とか。ああ、ちなみに時間が止まる空間では生き物が入れないんや」
「へえー。」
蔵光は今までの知識が上書きされることに喜びを感じていた。
「じゃあその魔法使いはゼリーの身体の中でどのくらい生きていたの?」
「そうやなぁ、ワイがそもそもしゃべれるようになったんは、大体200年くらい前のことで、そのさらに前の100年くらい前に飲み込んだから…」
「ということはその魔法使いは100年もゼリーの
体内で生きていたのかい?」
「いや、それはようわからへん。ワイが、ワイやと認識する、つまり、『自我』に目覚めるのにはちょっと時間がかかっていたし、その後で、自分の身体の中に空間魔法が形成されていたことや、その空間魔法に封印が張られ、その後、解除されてたことについても後々確認できるようになった。封印してたのは、何か理由があると思ったけど、ようわからんかったわ。それから、自分の分身体を使って空間の中を確認して初めてワイの身体の中で、その魔法使いがしばらくその空間の中で生活してたことがわかったんや。何とかワイの身体の中から出ようとしたみたいやったけど、結局あかんかったみたいやわ。寿命とちゃうか?まあ、食いもんとかは空間内にいっぱい残ってたし、結構快適に暮らしてたんとちゃうかな。」
「じゃあその魔法使いの死体は?」
「なかった。」
「なかったって?そんなこと」
「その死体がどこにいったかはわからんけど、この世に存在せんのはわかる。そいつの知識が全部ワイに移っているのがその証拠や。」
ゼリーがそういうと、少しだけ沈黙が続いた。
確める術はないが、確かにゼリーの人格形成が行われている際に、ゼリーの体内の空間で何かが起こったのだろう。
「うーん、しかし死体が無いとは、謎ですなぁ。」
「うん、確かに。それに…」
蔵光は何か言いかけて、案内のために先を進むゼリーの後姿を見つめていた。
「ちなみにその魔法使いの名前とかは引き継げたの?」
「名前かぁ、あんまり覚えてないなぁ。何かうまそうな名前だったような気が…」
「何だそれ?ははは」
蔵光が笑う。
その後、ゼリーは、人格形成ができてから、蔵光に負けるまでの話を話し出した。
「ワイがスライムという魔物やっちゅう認識が出来てから、色々と意識がハッキリとしてきたというか、人間の世界のことや、魔物に対する人間の考え方とか、よぉ、わかったんで、正直、人間、とくにボーケンシャという『魔物を殺しに来る存在』に対して、めっちゃ恐怖を覚えたんや。で怖いから最初は森の中を逃げまくっていたわ。その頃はまだエンペラースライムにはなってへんかったけど、その魔法使いの知識にエンペラースライムちゅう『最強最悪のスライム』が、この世にいるちゅう知識があったので、とりあえずそのスライムになったら、何とか生き延びれるんとちゃうか?って、思って頑張って何とか進化したんやけど、まさか主にやられるとは思わへんかったわ。」
と話した。
蔵光は、この話を聞いて、ゼリーが何故これほど『死』というものに対して、非常に恐怖を覚えていたのかという理由をようやく理解した。
普通の魔物であれば、冒険者が自分達の前に現れたとして、それが自分達の命を奪う存在であるとは殺されるまでわからないところであるが、ゼリーは飲み込んだ魔法使いの知識でそれらの関係性を半ば強引に刷り込まれたのだ。
「なるほど…そういうことか。」
「そういうこっちゃ、ほんま怖いわ、ところで主はボーケンシャなんか?」
「いや、違うよ、でも、将来的にはここを出て冒険者になるかも。」
蔵光は将来を見据えた考えを持っていた。
「そんなんされたら、多分ワイらみたいな魔物は絶対に逃げられへんな。」
「そうかな?」
「そんなん決まっとるわ!魔法使いの知識の中に主みたいなめっちゃ強い存在はおらへんかったわ!」
「ふーん。そうなんだ。」
「そうや!間違いあらへん。ワイが飲み込んだ魔法使いも水の魔法を知っていたけど、だいたいはバシャーって水を放出してぶつけるみたいな魔法やったから、主みたいに水を吸収するような技があったら、その時に今回みたいなことになってるわ。」
「ああ、なるほど。」
「それにな、水質変換とか、あんなんエンペラースライム殺しやで!酸の体が全く無害の水玉ちゃんになってしまうんやから、主の技は結構マジでエグいで。」
「そ、そうなの?あんまり比較したことないから良くわからないけど?」
「かーっ!全然自覚が無いのも怖いわ。キングドリルと戦っていた時、土の中からちょっと触手を伸ばして見てたけど、魔法無しでも結構強いみたいやし。」
「誉められてるのか、けなされてるのか、よくわからないなぁ…」
蔵光は苦笑しながら、ゼリーの頭をポンと指先でつついた。
ゲフゥ
ゼリーは砲丸投げの鉄球のように、エブーダの森の中を飛んだ。
ゼリーは、空中を移動しながら、
『今後もこんなことあるんやろな』
と思いながら、
「誉め言葉やでぇぇー」
と叫んでいた。
その後、蔵光達は、ゼリーの案内で、全ての魔素が吹き出している岩の亀裂などを見つけて、水魔神拳で塞ぎ、封印の術式を施してから自宅のあるアズマミヤへ帰ったのであった。
あー何とか、過去編終わったわ。
ゼ「ようやくワイの黒歴史が終わったわ。」
ゲフゥ!
ゼ「それやめい!ケンカ売っとんか?」
えっ?コーラのゲップやけど?
ゼ「………紛らわしいことすんな~!」
次はまた現在編に戻ります。