第13話 ギルドマスターとの模擬戦闘試合
いよいよギルマスとの対戦が始まります。
第13話 ~ギルドマスターとの模擬戦闘試合~
ここは冒険者ギルドタスパ支部の地下訓練所。
誠三郎とヘルメスとの一戦が終了し、誠三郎の提案で蔵光はギルドマスターのジアド・アロバスタと模擬戦闘の試合をすることになった。
ジアドは、副ギルドマスターのハーブから蔵光の体力テストの結果を聞かされ興味を持ち、一目見ようと地下の訓練所へやって来た。
誠三郎とヘルメスの試合を見ていて、冒険者としての血が騒いだ。
だが、当然、ギルマスという立場でもあるので試験官は基本的に無理であったのだが、誠三郎がジアドの胸の内を察して、蔵光との試合を申し込んだのだった。
だが蔵光のとんでもない実力を知っていたハーブは必死で止めようとするが、ジアドの懇願に負け、試合を承諾してしまうのだった。
蔵光とジアドは訓練所の真ん中で向き合っていた。
両名とも既に臨戦態勢であるが、審判が両者へ確認する。
「準備はよろしいですか?」
と審判が言うと、ジアドが口を開いた。
「ああ、一応確認だが、俺はこの刃の入っていない金属の模造剣でもいいのか?」
と聞いた。
というのも、先程の誠三郎とヘルメスの試合は硬い木剣を使用していたからだ。
「はい、水無月殿から大丈夫との確認をとっておりますが…」
と審判は答えるが、ギルマスの言葉の意味がよくわかっていなかったようである。
ジアドもすぐにそれがわかったので、説明した。
「この剣だと、刃がなくても俺の力なら子供の胴体くらい軽くまっぷたつにできるということなんだが?本当に大丈夫なのか?」
とこれまた恐ろしいことをいう人である。
「あっ、あっ、そういうことですか。少々お待ちください。」
審判もそこそこの冒険者であるが、伝説のギルマスの言葉には弱い。
「あの?ギルマスがああ言ってるけど、本当に大丈夫なのか?」
「ええ大丈夫ですよ。」
蔵光はさらりと答えるが、審判は気が気ではない。
いくら、防御魔法をかけているといっても、まっぷたつにされたら即死だからだ。
「それよりも、逆に俺の武器…自分がいつも使っているやつでいいんですかねぇ。」
と蔵光は手にしている如意棒を審判やジアドに見せた。
試合前にも一度確認はしたがギルド側から、如意棒を使用してもらっても構わないからと言われて持ってきていたが、どうしても気になって再度の確認となった。
すると、ジアドが
「ああ、構わんよ、資料を見たが、君は拳法家だそうだな。そして、それ、その鉄棒が得意な武器と聞いているが?」
「はい、その通りです。」
「今、うちのギルドにはキミが扱えるような棒が用意できなくてな、すまないが君がいつも使っているものを使用してもらっても構わないから!勘弁してくれ。」
「あっ、えっ?わかりました…」
蔵光は一瞬ドキッとした表情になり、次に残念そうな顔になったが、すぐに普段の顔に戻った。
蔵光はこれまで祖父王鎧以外では全力を出して戦ったことはない。
それを一般人にすれば、とんでもないことになるということを十分に知っていた。
なので、蔵光が試合等で本気を出すことはない。
蔵光にすればジアドは普通に一般人であった。
それは本人の目の前に立ち合った瞬間にわかった。
だからこそ、再度の確認をしたのだが、如意棒なんぞでぶち回したらヒヒと一緒の身の上にしてしまうからちょっと驚いてしまったのだった。
そりゃそうであろう、如意金箍棒は蔵光の『超剛力』で扱っても破壊することができない『神器』である、蔵光が、こんな勇者の剣や伝説の武器のような『異常な』もので力を入れてジアドを殴れば、間違いなくジアドは潰れたトマト確定だからだ。
まだ蔵光のことを理解していない人は世界に沢山いる。
蔵光は普通の人間ではない。
蔵光が本気を出せる相手はまだ現れない。
蔵光の顔が残念そうな顔になったのはそういう理由からであった。
蔵光が返事をすると試合が始まった。
「では、試合を開始します。両者前へ!」
審判が、両者を少しだけ近づけるような仕草をした。
この時、ジアドは何もわかっていなかった。
自分の前にいる少年が、普段から外に溢れ出る力を抑えに抑えていることを…
ジアドは、自分がパーティーでドラゴンを倒したという自信や自負があり、それに近いものを蔵光に感じたことから、自分の力なら何とかなると思っていた。
だが蔵光の家系は代々『龍を狩る一族』であり、ドラゴンがどれ程強い伝説級の個体であっても、相当の個体数でもってしても敵わないくらいの強さである。
ジアドがパーティーで倒したというワイバーンというドラゴンは龍種でいえば超小型の部類になる。
地域(ジパングとか魔の森林地帯とか)によっては亜竜種といって龍にさえ認めてもらえないレベルだ。
しかし、それが一般の人間レベルが倒したとなればすごい偉業なのである。
「ぬん!」
ジアド・アロバスタが剣を構えた時、訓練所内の空気が変わった。
周りの観客席にいる冒険者達にとって伝説の冒険者ジアドの戦いが見られるというのだから無理もない。
ジアドは先手をとるため、『雷運足』という高速の足さばきスキルを使って蔵光との間を詰める。
もちろんこのスキルはS級冒険者以上の者でないと習得できない高位スキルだ。
そして、続け様に高位剣スキル『天雷』を繰り出した。
このスキルは雷のような高速で繰り出される剣に雷属性の魔法を付与して切りつけるというジアドの得意技であった。
ちなみにこの技がジアドの二つ名の元となっている。
ギュィィィーン
蔵光がジアドの攻撃を如意棒で受け止めた音だ。
訓練所の中、全体に響き渡る。
それを見ている観客席の冒険者達も口をあけ、呆然と見ている。
「ギルマスのあの技って…マジかよ?!」
「あれって巨大なワイバーンの首を切り落としたという伝説の技では?」
「まさか、そんなこと、あんなガキに出すわけないだろ?」
等々周囲がざわつき始めるが二人の攻防(蔵光がずっと防御してるが)は続く。
「どうした、手が出ないのか?」
ジアドが蔵光を挑発する。
この時、ゼリーは爆笑、誠三郎はギルマスの調子を乗せすぎ、やり過ぎたと後悔していた。
『若、どうぞギルマスの命だけはお助けください。』
そう願う誠三郎であった。
蔵光はジアドの言葉に、
「いいんですか?」
と何か申し訳なさそうに答える。
それに対しジアドは、
「構わん!ドンと来い!」
と叫ぶ。
「では」
と蔵光が言った瞬間、ジアドの視界から蔵光の姿が消えた。
実際は消えたのではない、余りにも蔵光の動きが早すぎて誰の目にも映らなかっただけである。
そりゃそうでしょう、2kmの距離を弾丸の速度で移動する人ですから…
ああ、ジアドさんさようなら。
蔵光が観客全員の目の前から消えたその刹那、凄まじい音が訓練所内に轟いた。
バキン!ドン!
「えっ?」
観客席から見学していた冒険者全員がその光景に目を疑った。
ジアドの使っていた剣は、ジアドが立っていた場所に折れ砕けて落ちていた。
ジアドは訓練所の端の大理石製の壁へ叩きつけられ壁の中へめり込んでいた。
訓練所全体がシーンと静まり返る。
ジアドは正真正銘冒険者ギルドタスパ支部の支部長であり、冒険者ギルドのSS級冒険者である。
攻撃、防御ともにどれをとっても一級品である。
過去の実績は伝説として語られてきた。
そのジアドが無名の男子に一撃で伸されてしまうとは、ここにいる誠三郎とゼリー以外、誰も想像だにしなかった。
「ジアド様~!」
審判とハーブが慌ててジアドへ駆け寄る。
ジアドは背中から壁へ高速でぶつかり、そのままの勢いで壁の中へめり込んでいた。
状況はこうだ、蔵光はまず、如意棒でジアドの剣をその場で叩き折り、次に胴体の真ん中辺りを手のひらで触れてから少しだけ押した。
たったのこれだけだった。
それがこの結果である。
まあ予想はされていたが…
「そ、そんな…」
ジアドの側に来たハーブはその光景に声を失う。
「救護班を!」
審判の声が響く。
かなりの慌てようだ。まあ、仕方ないが。
だか、それもすぐに収まった。
「うぅ、まっ、待てハーブ!大丈夫だ慌てるな!」
ガラガラという音とともに、ジアドがめり込んでいた壁から起き上がってきた。
「いててて…身体強化魔法(上)と防御魔法(上)をかけてて正解だったぜ、ヤバかったな。」
と腰をさすりながら蔵光の前に戻ってきた。
さすがにギルマスである。
最初は蔵光を『ちょっと力が強い少年』程度の認識でしかなかったが、蔵光がジアドの前へ向き合った時に、相手の実力がわかったのと同じくジアドも蔵光が尋常でない強さの人間であるとすぐに気付いた。
『こっ、これはワイバーンとかの比じゃねえ、このままじゃやられる!』
そのため急遽、自分の体に身体強化魔法(上)と防御魔法(上)という二つの保険を重ね掛けしていたのだった。
「凄まじいな、君の攻撃は…ははは」
と言いながら笑うが、その目には少し恐怖の色が混ざっていた。
「すみません、だいぶ手加減したのですが。」
と蔵光が頭を掻きながら謝る。
「は?えっ?あれで本気じゃないの?」
「あっええまあ。」
それを聞いてジアドの顔がさらに余裕のない表情となる。
さらにジアドは蔵光が手にしている如意棒を見て、
「ちょっとその鉄棒、見せてくれるかな?」
ジアドは蔵光の如意棒が只の鉄棒でないと見抜いたのであろうか。
「えっあっどうぞ、重いですから気をつけて下さい。」
そう言って蔵光はジアドに如意棒を手渡そうとした。
「ははは、大丈夫だよ、これくらいの棒…」
まあパッと見は只の鉄棒なのでジアドもあまり警戒はしていなかったが、蔵光から如意棒を受け取った瞬間、すぐに手を放して後ろへ飛び下がった。
如意棒はそのまま下の石畳に落ちたが、ゴウンという大きな音を立て、跳ねることなくすぐに動きを止めた。
この時の如意棒は長さにして約150cm、直径は約4cm。
それはその金属の棒がとんでもない重さを持っていることを物語っていた。
「なっ、何だそれは?」
ジアドの顔に再び緊張と冷や汗が走る。
そして、今度は静かに如意棒へ近づき、これを握って持ち上げようとした。
「ふんぬぅぅ~!」
ジアドは渾身の力を込めて如意棒を持ち上げようとしたが持ち上げることはできなかった。
それを見てゼリーが、
「ははは、そらあんたじゃ無理やで、それを楽々と持ち上げられるんは主の一族だけやで!」
とドヤる。
スライムネコがしゃべっているのだか、如意棒の驚きが勝っているためかジアドはゼリーに余り驚かなかった。
「こっ、これは一体、どれくらいの重さがあるんだ!パッと見では10~20kgくらいだと思ったんだが…」
ジアドが蔵光に尋ねた。
蔵光は地面に落ちた如意棒をスッと持ち上げながら、
「まあそうですね、大体この状態だと800kgくらいかな」
と答えたが、余りにも普通に持ち上げているので全く重くないように見える。
「はっ、800クロギラムだと…」
ジアドは顔からアゴが外れそうな状態になるぐらい驚いている。
まあ一般人の感覚ならそうであろう。
「いやいやいや、俺が知っている奴でも一番重たかった武器は150kgの巨大戦斧かそれに近いハンマーだったが…それでも俺はそれを持ち上げることはできたぞ!それなのにその棒は一体!?」
「ちょっと特殊な金属なんで、他の金属と比べるとちょっと重いんです。」
蔵光は平然とした表情で答える。ちょっとって…
「わっ、わかった…とりあえず試験は合格だ、後でみんな俺の部屋へ来てくれ。」
ジアドはそう言うと腰をさすりながら訓練所を後にした。
ギルド関係者が訓練所を出ていった後も、訓練所の中は異様な雰囲気に包まれていた。
それはそうであろう、B級のヘルメスを子供扱いする剣の達人やギルマスを一瞬で倒す少年、そして、その少年がジアドが取り落とすほどの超重量の金属棒の持ち主であることなど、日頃荒くれた仕事をしている冒険者でもこれが普通でないことは十分にわかっていた。
なので観客席にいた冒険者達も、蔵光達を仲間にしようなどとはこれっぽっちも思わなかった。
話の都合上、もう少し続けたかったのですが、ページ数をある程度決めているので、ここで一旦切りました。
物語はまだまだ続きます。
ゼ「もうやめるんかと思ったわ。」
いや、一応冒険譚だから、まだ冒険者として冒険すらしてないし。




