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あれは、あかん。
世間では、ヤンデレなんてものが、一部の層でバスってるようだけど、生憎私は一部の層ではない。
病みを通り越して闇しかみえない。怖いのよ!トイレが各自室に付いててよかっ...よくないのよ。クローゼットの隣にトイレがあるんだけど!
忘れよう、記憶の闇に葬り去るのだ。人間に与えられ許される唯一の武器「記憶にございません。」だ。
エミリがお父様の帰宅を知らせにきてくれた。急いで出迎えの準備をする。
莉奈ちゃんの日記から推測すると、お父様は娘の裏稼業の暗躍を担う程だったのだから、溺愛してるのだろう。
タロー君には気の毒だが、相手を選んでからかうということを学ばなければならない。社会とはそんなものだ。
しかし、ある意味勇者であることは、私が認めよう!!是非成長の糧にしていただきたい。
「お帰りなさい!お父様!!」
私は、伏目がちで少しオーバー気味にお父様に抱き着いた。初対面の人に抱き着くなど顔が引きつるのだが、これはうまく隠せる最良の方法だろう。
「り、莉奈!...ただいま!」
お父様は少し驚いたようだったが、嬉しそうに微笑んだ。
坂口健〇郎似のイケメンだった。余りのドストライクのドアップの破壊力に私は初の敗北を味わった。
「り、莉奈!鼻血が!!」
お父様が慌てた。
「あらら、大変!!」
お母様がハンカチを私の鼻に当ててくれた。余りの失態に私はパニクッた。
中身がアラサーでごめんなさい!邪な人間でごめんなさい!!勇者の任命などおこがましいこと考えててごめんなさい!
夏でよかった。暑さにやられたのであろうと誤魔化せた。
冷えピタ効果で落ち着いたので、皆で夕食を開始しはじめた。
「莉奈。体の具合はどうだい?」
お父様が心配気に微笑む。破壊力の凄さに慌てて食事に目を落とす。
「もう、大丈夫ですわ!記憶も残片的ですけど、少し思い出しましたし。」
日記の記載部分だけだが、心配を掛け続けるのも気が引ける。
「そうか!それは良かった。ところで、匠も頑張ってる様だね。一年生でVIP会長を任命されたそうじゃないか。」
お父様は嬉しそうに微笑んだ。
「体のいい雑用係ですよ。くせもの揃いで頭を悩まされます...。まともに取り合っていては、こちらの身が持ちませんよ。」
お兄様は伏目がちに答えた。
「それは困りものだね。あまり酷い様だと私にいいなさい。」
「今のところは、ご心配には及びません。社会勉強の一環として、心得ております。」
お兄様は諦め顔で軽くため息をつきながら言った。
「まあ、そういう所を認められたのだろうが、認められるということは、いわれもない敵をも孕むことがある。留意なさい。」
お父様は同情するように苦笑した。
「はい。お父様。」
なんと、お兄様は魔の巣窟の会長様なのか。我こそはと外に出てみれば、いかに自分が井戸の中の蛙であったかと思い知らされるVIPクラスのメンバーの最高峰!まあ、中学生とは思えぬ語彙力、落ち着き、洞察力、私よりはちょっと劣るけど、認めるわ!
「お父様、あの、太郎様はどうなさっておられますか?」
「ん?ああ、山田君か、莉奈、君はお母さんに似て優しい子だね。」
「え?」
お母様が優しい??...。やだわ。お父様てば、ご冗談がすぎますわ!...口に出せませんけど!
「しかし、残念ながら、私の娘に傷を負わせた罪は重い。メロン一つで許される罪ではない。彼は上流階級の社会には出ては来れないよ。気にすることはない。」
「ちなみにどの様な粛正を?」
お兄様も興味があったようだ。
「彼の家の主力顧客に腕のいい歯医者を推薦させてもらっただけだよ?私の名前入りでね?」
お父様は口元をナプキンで拭きながら微笑んだ。
ひぃぃぃーこわ!さすがのお兄様も顔が強張ってるじゃないの!!それは推薦ではなく命令だと思うの!
「や、やり過ぎではないでしょうか...?」
私は恐る恐る訊ねてみた。
「メロンに罪があったわけではないよ?両親とメロンに甘えて、本人が謝罪に現れなかったことが問題なんだよ。ほら、今でも、東大に入ったからといって我が物顔で好き勝手やってる奴らの後始末は、皆親がやってるだろ?あんな子供を増やしてはならないんだよ。」
お父様は少し渋い顔をした。
「...。確かに学校のブランドを下げる行為は許してはなりませんよね。」
なぜだか、お兄様も目が据わってきた。
「そうですわ。制御の効かないものは、ちょん切ってしまえばいいんですよ!」
お母様の末恐ろしい言葉で、その場にいた男性陣がすくみあがり戦意喪失してしまった...。
ちょっと論点がずれてしまった感が否めないが、タロー君の救済は無理なことは分かった。残念だが、来世に期待しよう。
食後のデザートはプリンが出てきた。
「莉奈どうしたの?顔が変だよ?プリン嫌いだった?」
お父様が不思議そうに尋ねてきた。
「いえ、なんでもありませんわ。」
ちがうんです。先ほどのエノキのベーコン巻きがエノキと歯の隙間というベストパートナー生み出して、それが相性良すぎてしまっただけなんです。
今日はお父様の為にいつもならば置いてない『あるもの』がテーブルに置かれているのです。『それ』をとても所望しているのですが、お母様とお兄様の視線が阻止するのです。お兄様の目が「ダメだダメだ。」と語りかけてくるのです。
『あれ』でアレをチョチョイとすればこの憂いは晴れるのです。プリンの歯ごたえなどでは、どうにもならないのです。
「莉奈さん。この手は何かしら?スプーンはこれよ?」
隣に座ってた魔王様が無意識で伸びていた右手にスプーンを握らせた。微笑みにゴゴゴゴゴという効果音がのせられててとても怖いのです。
お父様教えてください。お父様のいう優しいお母様というものは常春の住人ではなくこの世に存在する人なのでしょうか...?




