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とりあえずのエピローグ


 星野邸。

 リビングにて、正座する1人の少女。

 雪の様な美白過ぎる肌と、その頭部の触角が特徴的なアンドロイド、ニュープラスタだ。



「データを参照。マスターは『冷蔵庫内のモノは好きに摂取してよい』と言う旨の発言をしました」


 悪びれる様子も無く、ニュープラスタは淡々と語る。


「……確かに、私はそう言った」


 未宙は頭を抱え、深い溜息。


「でも、バターをプレーンで食べ尽くすって、どうなの?」


 未宙の手には、食器洗い機で洗浄したのでは無いかと思えるほど綺麗に中身が消失したバターの容器。

 欠片1片残さない様に、徹底的に舐め尽くされたのだろう。


「質問を検知。回答します。私の好物は油脂です。大変満足の行く結果が得られました」


 そう言って、ニュープラスタは自身の腹をさする。


「油脂……」


 それは、好物と言っていいのか。

 未宙はもう何か呆れの境地に達して薄ら笑えてきた。


「あのさ、一応ヌメロイドでも、人間と臓器の構造は大差無いんでしょ? こんな食生活はダメです」

「それはプログラムとして保存しておくべき事柄ですか?」

「うん。食事は栄養バランスが大事」

「栄養摂取はその食材の栄養価を参照し、効率的に行う」

「そういう事」

「……計測完了。この家で常備されるバターは7グラム程で私の『1日に必要とされる栄養分』を補う事ができます」

「あくまでもバターに固執するの……!?」


 このアンドロイド娘にはまだまだ教えるべき事が多いようだ。

 本日何度目かもわからない溜息を吐き、未宙は力無く笑った。





 いつもの通学路。

 本日は中々の大雪。

 これは積雪が期待できそうだ。


「…………」


 星野先輩が、あの凶羅星きらぼしとか言うNUMEの研究員に襲われてから、2週間が過ぎた。


 ニュプちゃんは残念ながら星野先輩に取られてしまった。

「私の妹みたいなモノだし、この子の将来のためにも笛地さんには任せられない」との事。


 失礼な……まぁ、でも確かに私と一緒に暮らしてたら、ニュプちゃんは今頃、快楽廃人になっていたかも知れない。

 星野先輩の判断は正しいと言えるだろう。

 適度な距離を保ち、定期的に触手をいただく事にする。


 それと余談だが、ニュプちゃんは牛乳とバターがすごく大好物らしい。

 それを星野先輩から聞いたサーガくんは、自家製の搾りたてミルク(性的な意味じゃない方)を彼女に与えてみたそうだ。

 結果、2日に1回くらいのペースで、ニュプちゃんは個人的にサーガくんの家を訪問する様になったとの事。

 無論、搾りたてミルクをいただきに。


 1度、ニュプちゃんが乳牛の乳房に張り付いて直飲みしている場面を見たが……

 牛ってあんな困った様な鳴き声も出せるんだなぁ、と感心した。

 サーガくんのお父さんも苦笑していたっけ。


 ……ねぇサーガくん。私、ちょっと疑問に思うんだけど。

 何で君は星野先輩との関係は全然進展しないのに、星野先輩の家族を篭絡するのはこんなに手早いの?


 あ、そうそう。

 後始末的な事に関して。

 サーガくんの提案通り、あの凶羅星と言う男には『呪い』をかけた。

『星野先輩とその周囲の人物に干渉しようと考えただけで、本人の意思に関わらず衣類を全て脱ぎ捨て野外に飛び出してしまう』と言う、中々えげつない呪いである。


 その呪いをかけた代償として、サーガくんは、少し体脂肪率が増えたらしい。

 見た目はそんなに変わってないと思うんだけど、「お腹のプニプニ具合が半端無い」とちょっと嘆いていた。

 だから最近、サーガくんは幽霊先輩と一緒に早朝ランニングを始めたらしい。

 ……幽霊先輩、痩せる余地あるんだろうか。体型的な意味では無く、体質的な意味で。


 まぁサーガくんはその事に関して「星野先輩のためだと思えば、これくらいは苦じゃないよ」と言う旨の発言もしていた。

 本当、お人好し気質である。


「……にしても、サーガくんの恋愛、全然進展しないな……」


 鉛色の空の下、傘に積もった雪を振るい落としながら、私は柄にも無く深い溜息を吐いてしまう。


 親衛隊はこれを見越して星野先輩の洗脳を行おうとしていたんだろうか……

 サーガくんの気持ちの理解度は不足気味だが、先見の明はあったらしいな、副隊長。


 でも、まだだ。

 今週は、あのビッグイベントがある。

 今まで、私の人生では「晩御飯が豪華になる日」程度の認識しか無かったイベント。


 12月25日、クリスマスである。


 聖夜、カップル達が愛を育む絶好の日、らしいじゃないか。

 次回の星野先輩攻略会議の議題はもう『クリスマスデート作戦』しか無いだろう。


「…………ん……?」


 何でだろう、今、妙なビジョンが見えた気がする。

 こう、クリスマスの夜、佐ヶ野一家と星野一家が和気藹々とチキンを食べてるビジョンが……


 いや、デートしろよ。

 まずは星野先輩だけを狙い撃てよ。

 何でまだ正式にお付き合いもしてないのに、家族ぐるみでお付き合いしようとしてるの?


 ……待て待て、今のは勝手な予感に過ぎない。

 サーガくんなら充分過ぎる程にありえる未来だけど。


「……いや、でもクリスマスパーティか……」


 それだったら、私もしれっと参加できるな。

 今度こそサーガくんのお母さんとペットちゃんを……


 ってダメだってば。

 今は、そう、今は、サーガくんと星野先輩がきっちりくっつくまでは、私の欲望を優先してデートチャンスを潰す様な事はしてはいけない。


「よし、頑張る」


 成功報酬としてサーガくんに取り返しの付かない様な事をするために。

 星野先輩やニュプちゃんと今後とも密接な関係を維持し、ペロペロするために。

 サーガくんのお母さんとペットちゃんを毒牙にかけるための策を考えたり、いい加減に幽霊先輩をペロペロすべく霊感啓発に力を注いだり、ドラゴンちゃんを篭絡する時間的余裕を作るために。


 そして、私の様な変態を友達として認識してる、お人好しな彼のために。


 今日も、私は考える。

 サーガくんが恋心を募らせる、あの宇宙人…もとい、アンドロイド先輩を攻略する方法を。



 素敵な未来のために、私は頑張る。



「……ん?」


 拳を握りしめて、決意と共に見上げた空。

 何かが、こちらに向かってくるのが見えた。


「え?」


 あれ、この距離であのサイズって、結構大きいんじゃ……


 そして、それは私のすぐ目の前に、落下した。


「っっっ!?」


 うおふっ、すごい衝撃波だ。

 凄まじい突風と一緒に、積もっていた大量の雪がこっちに向かって…あ、これ、ヤバいかも。




「うわー、やっちゃいましたですよこれ。マジやっちゃいましたですよこれぇ」


 ……あー……何か、声が聞こえる。

 すっごい無気力な感じの、女性の声だ。


 えーと、確か私、何か目の前にデッカイのが降ってきて、それが余波で弾き飛ばした雪の濁流に飲まれて……

 軽く気絶していた様だ。

 うぅ、すごく寒い……


「あ、目、覚めたですか?」


 一体誰だろうか。この声の主が、私を雪の中から引っ張り出してくれたんだろ…う、かって……え……


「あー良かったです。お忍びで来訪したのに、速攻落下事故の挙句に現地人を殺しちゃったら洒落にならんです」

「…………」

「大丈夫ですか? なんかすごい目を見開いてるですけど」


 ちょっと怪しめの日本語を話す、1人の女性。

 いや、女性かこの人。つぅかまず、人?


 何か、すごい。

 こう……猫耳だ。

 うん、まごうことなく猫耳だ。

 ただし、全身万篇なく猫だ。


 私の目の前にいたのは、直立二足歩行を行う1匹の黒ニャンコ。

 大きさは普通の猫より少し大きめかな、くらい。デブ猫と言う印象を受ける。

 そして、尻尾が大変な事になってる。超いっぱい生えてる。「イソギンチャクかよ」、とツッコミたくなるくらい生えてる。


「……猫……?」

「あ、はいです。自分ら『ニャンゴロリ星人』はこの星で言う猫って動物に非常に近い外見です」

「にゃ、んごろり……」

「にゃのでたまに猫にまじってこの星でバカンス……って、あれ、ヤバ。確かこの情報って現地人に話しちゃダメだった気がするです。ちょっとマニュアル確認するです」


 そう言って、イソギンチャクテイルなニャンコがのそのそと……あれは、UFOか? 絵に描いた様な、銀色の円盤型の乗り物に向かって歩きだした。

 まぁ、アレだ。その辺はちょっと置いておこう。


「にゃい?」


 私がぐわしっとその尻尾を掴むと、ニャンゴロリ星人とやらは不思議そうな声を発した。


「あの、ちょっと取り急ぎマニュアル確認したいです。一旦離して欲しいで…」

「ねぇ」

「はいです?」

「その耳と尻尾、舐め尽くしていい?」

「一体にゃにを言って…ふにゃふっ!?」



 ああ、本当、この土地に来てからの私の人生は、最高である。




ご愛読、ありがとうございましたm(_ _)m

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