【1:鬱展開と書いてトレーニングと読む】
「……ここで……終わりなのかな」
大きな切り株の陰に座り込み、私はぼそりとつぶやいた。
鬱蒼とした森の中、追っ手から逃げてここにたどり着いたはいいけど、
もうここがどこなのかもわからない。
「痛……」
足が痛む。もう、立ち上がることもできないだろう。
月の出ていない夜で、雲が垂れこめている。
今の私の心を表すような空を見上げた。
いずれアイツらがここに来るのはもう自明の理だ。
その時が来たら、私は……辱めを受け、女として生まれたことを後悔しながら、
無残に殺されるのだろう。
私は、ここまで必死に生きてきた。
目をつむると、涙がこぼれる。
母との約束。父との喧嘩。
【いつか、私が世界一の料理人になったら、お母さんとお父さんを招待してあげる】
【だから――私の家出を、許してください】
そんな置手紙。
コンテストに出て、優勝して、これからだったのに。
「こんなとこで、死にたくないよ……」
貴族お抱えの料理人が勝つ出来レースを、私は壊してしまった。
メンツをつぶした私が、あそこで無事に暮らせるわけはなく。
夢半ばの田舎から出てきた少女が、誰かに雇われた山賊に追われて、ここで死ぬ。
「いたか!?」
「まだこの辺にいるはずだ、探し出せ!!」
ああ、もう、ダメみたい。
少女は現実を拒否するように、ぎゅっと腕で膝を抱え、フードをかぶって頭をうずめた。
そうすることで、この腐った現実を見なくて済むように、そして、願わくば見逃してもらえるように。
それでも、世界はそこまで優しくないようだった。
「みぃぃぃつけたぁ……」
「ひ……!」
声に、顔を上げると、目の前にひげ面の下卑た笑みを浮かべた男が立っていた。
「やめ、やめて……!」
「殺す前に楽しまねえとなぁ……へへ、嬢ちゃんも女として死にてえだろ?……」
わらわらと集まってくる山賊の集団。
これから行われるおぞましい行為が嫌でもわかる。
「誰か、誰か――」
「誰も来ねえよ!」
ヤジが飛ぶ。
「観念しろよ、それじゃ……!」
「――助けてよ――」
瞬間。
私は空を、飛んでいた。
先ほどまであった雲は消え、そこに在ったのは、
「なんて……なんてきれいな……お月様……」
美しい満月だった。
「……って、えっ!?なんで!?」
一瞬見とれた後、私は今の状況を確認した。
何か、すさまじく頼もしく、分厚いなにかに……抱かれている……
ふと見上げたそこには、精悍な顔で、心配そうにこちらを見下ろす、青年がいた。
(あこれ、背中の、腕なの???これ???ベッドじゃなくて???)
「遅れてすまない。無事か。」
「え?あ、はい」
「俺はジョー。君は?」
「私――私、パイジィって言います」
それが、彼、ジョーさんとの出会いだった。




