温度差(9)
(9)
新店オープンのイベントは結構盛大に行われた。S△放送だけでなく地元の新聞社やタウン誌なんかも取材に来て、 連休の三日間全社あげてのお祭り騒ぎになった。
結局俺は一人で空回りをしていただけのようで。
ずっとノンケだった課長が、俺の傍にいる。なのに、そうしてくれているだけで ものすごい覚悟がいっただろうというのに、俺はそんな課長の気持ちも考えずに 余計なことばかり思いこんでいて。
その事にあらためて気づいたら、いつの間にか俺の中にあった不安感が消えていた。
しかも消えたどころか──────。
広報で仮編集が終わった映像を見せてもらった。 しっかりと達成感の得られるドキュメントに仕上がっていて、 あんなに嫌がっていた最上さんが素直に喜んでいた。 実際にはもう少し切って、間にコマーシャルが入るとのことで、 後は広報とS△放送さんと残りの細かいことを詰めて終了。 俺は営業部に戻ることになる。
俺は今度こそはっきりと駒場に告げた。 今の俺はあの人のこと意外は考えられないということを────。
「やっぱな」
「え?」
千田フーヅの来客用の駐車場で駒場を見送るために俺も外に出た。 その日も広く遠くまで見渡せそうな青い空が本当にきれいな日だった。
答えはわかっていた、と駒場は言った。
駒場が言うには、オレはどうも油断するとすぐに色々と態度にでるらしい。 俺の言葉や雰囲気から、少なくとも今の俺の想っている相手に対しての気持ちが 簡単に揺らぎそうにない事だけはわかるのだと。
自分でも気をつけているつもりだったのに、そんな風に想われていたことに俺は軽くショックを受けて。 課長のようにいつも平然といられるようになるのは、いつの事になるんだか。
「そう言えばスタジオ見学のことだけど」
「ああ、そう言えば」
そうして何事も無かったかのように駒場が振舞うので俺もそうした。 こんなことで友人付き合いそのものが遠くなっちゃうなんて事は絶対に避けたかった。
「事前に俺に連絡をくれれば調整するけど、平日の昼の生放送だから難しいんじゃないか?」
「あー…課長のことだからなー…、堂々とコレも営業、とか言って行っちゃうかも」
その時は俺も誘われるかもしれない。一人じゃつまんないからとか言って。
「っつーかアレだな。『昼ドキ』からもR駅ビルの店取材させればいいか。海老名の外回りのコーナーで。」
「お前そこまで出来るの?つかそんな事やったら陣内課長だけじゃなくてウチの社員大勢押し寄せるぞ。」
「どんだけノリが良いんだよ、お前ンとこの社員さんたち」
いや、マジで冗談じゃないぞ、と。ウチの社員はかなりお気楽な連中ばかりなんだから。
そうやって笑った後、本当に『昼ドキ』から取材が来るかもという話になった。 制作担当が違うのでここからはもう駒場は関係なくなるらしいんだけれど。
「ああ、そうか。もしかして」
「え」
「お前の相手って」
今の会話で多分陣内課長と気づいたのだろうか。駒場の目がさり気なく事務棟の二階に向いた。
「…想像にまかせる」
「……」
だけどもう俺は動揺はしなかった。今回の事でこれでも反省したつもりなのだから。
そんな俺の返事に駒場もそれ以上は突っ込んでこなかった。
「じゃ、また」
「ン、またな」
次に駒場に会うのはもっとずっと先の話になるだろう。その時俺はまだ営業にいるのか、 陣内課長と続いているのかはわからないけれど。
去ってゆくハイブリッドカーに、友人としてこれからも長く駒場と付き合いたい、 そう願うのは身勝手なのだろうかとかそんな事を俺はぼんやりと考えていた。




