表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藍を背負う者  作者:
2.動き出す者たち
9/36

2-6





 梨淑が息子たちに彩霞の存在を知らせてから数日、北を治める茶家にその報せは届いた。


 報せを受け取って彼はすぐに、父――()景徳(けいとく)の元へ向かった。


 「…………父上」


 まだ夜が空けるには少し早い時間、道場での瞑想を日課にしている父がいる。既に自分の存在に気付いていただろう父は訝しげに視線を向けてきた。

 その視線を受け、父の傍に腰を下ろすと手にしていた文を差し出した。言葉を発するでもなく自らの目で内容を確認する父の様子を注意深く窺った。


 「…………」

 「紅家当主からです。……それに関しては、父上に知らせるべきだと――」


 「―――――!」


 目を細めて文を凝視する父に苦々しい思いで口を開いた時、彼らの耳にはおかしな悲鳴が聞こえてきた。次いで末の息子の声と、ばたばたと騒がしい足音が近づいてきた。


 「ち、父上! 何処ですか!? あ、祖父様、ど、道場!」


 混乱そのままに慌てふためきながら駆けてくるだろう息子に、彼は溜息をついた。


 「祖父様、いますか!? ……あ、父上!? 二人揃って何を――じゃなくて! えっと、あ、っぎゃあ!」

 

 片側だけ開かれた扉から姿を現した息子は、父と祖父が揃っていることに驚くが言葉を続ける。しかし、すぐに横から伸びてきた手に割り込まれた。


 「景徳はここか?」


 息子の頭を押しやって半ば無理矢理に場所を譲らせた声の主を確認して、溜息が出た。


 「お? お前もいたのか。揃いも揃って朝早くからご苦労なことだ」

 「ちょっと、長春様っ! 放してください!」

 「喚くな、末っ子」

 「ぎゃっ」


 溜息に気付いて一瞬こちらを見るも、頭を押さえつけられたままの息子の声に再び視線が逸れる。そのまま放り投げるようにその手を離してこちらに振り返った。

 彼の名は、紅長春(こうちょうしゅん)。現在は息子に位を譲って自由気侭な暮らしをしている紅家の前当主である。同じく当主だった父――景徳の友人で、父を振り回す一人である。

 長春は景徳を見て、いつものようににやりと口角を上げた。


 「――よう、景徳」


 その笑みに、景徳は溜息を返す。そして、文に視線を落とすと真剣な眼差しで呟いた。


 「――やっと、星が巡るのか」








評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ