2-6
梨淑が息子たちに彩霞の存在を知らせてから数日、北を治める茶家にその報せは届いた。
報せを受け取って彼はすぐに、父――茶景徳の元へ向かった。
「…………父上」
まだ夜が空けるには少し早い時間、道場での瞑想を日課にしている父がいる。既に自分の存在に気付いていただろう父は訝しげに視線を向けてきた。
その視線を受け、父の傍に腰を下ろすと手にしていた文を差し出した。言葉を発するでもなく自らの目で内容を確認する父の様子を注意深く窺った。
「…………」
「紅家当主からです。……それに関しては、父上に知らせるべきだと――」
「―――――!」
目を細めて文を凝視する父に苦々しい思いで口を開いた時、彼らの耳にはおかしな悲鳴が聞こえてきた。次いで末の息子の声と、ばたばたと騒がしい足音が近づいてきた。
「ち、父上! 何処ですか!? あ、祖父様、ど、道場!」
混乱そのままに慌てふためきながら駆けてくるだろう息子に、彼は溜息をついた。
「祖父様、いますか!? ……あ、父上!? 二人揃って何を――じゃなくて! えっと、あ、っぎゃあ!」
片側だけ開かれた扉から姿を現した息子は、父と祖父が揃っていることに驚くが言葉を続ける。しかし、すぐに横から伸びてきた手に割り込まれた。
「景徳はここか?」
息子の頭を押しやって半ば無理矢理に場所を譲らせた声の主を確認して、溜息が出た。
「お? お前もいたのか。揃いも揃って朝早くからご苦労なことだ」
「ちょっと、長春様っ! 放してください!」
「喚くな、末っ子」
「ぎゃっ」
溜息に気付いて一瞬こちらを見るも、頭を押さえつけられたままの息子の声に再び視線が逸れる。そのまま放り投げるようにその手を離してこちらに振り返った。
彼の名は、紅長春。現在は息子に位を譲って自由気侭な暮らしをしている紅家の前当主である。同じく当主だった父――景徳の友人で、父を振り回す一人である。
長春は景徳を見て、いつものようににやりと口角を上げた。
「――よう、景徳」
その笑みに、景徳は溜息を返す。そして、文に視線を落とすと真剣な眼差しで呟いた。
「――やっと、星が巡るのか」