表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大賢者の弟  作者: 山宗士心
第2幕 フリーエン傭兵団
58/58

ある検査官の一日

 昨日は珍しい人から連絡が来た。王都まで来ているから久しぶりに食事でもどうかって。

 何年振りだろうか。色々あって随分前に職場を退職した先輩だが、元気にしているようで良かった。

 総魔研を退職後南方国境近くの故郷に戻ると言っていたが、今は王都近くの村で子供達の教育係をやっているらしい。

 俺が総魔研に入った時にはすでに年を食っている先輩だったが、いくつになっても活発に動き回る姿には尊敬する。


 おっと、此処だ。考え事をしていると行き過ぎてしまう所だった。


 鷹揚亭。


 俺は初めて来る店だが、昼間から酒が飲める店で休みの日には良く世話になっている、と部下が言っていた。


 まったく、昼間から飲んだくれてないで休みの日でも仕事の事について考えて欲しいものだ。それが出来たらあいつももう少し出世できると思うんだがな。


「いらっしゃいませ」


 店の扉を開けると、元気な声で出迎えられた。

 元気な声の主は俺の胸くらいしか背丈が無いな。

 この店のお子さんが手伝いをしているのかな。

 元気で明るい女の子は店の雰囲気を良くするから素晴らしい。


 店員さんから目線を外して店内をぐるっと見渡す。

 今は昼食時を過ぎたあたりでそれなりに席は空いているが、部下の話の通り酒を呑んでいる人達も多い。

 視線を動かしていると、カウンター席で手を振っている白髪交じりのおじさんが目に入った。


 店員さんに、あの人のツレです、と伝えると席まで案内してくれた。


「お久しぶりです、お元気でしたか?」


 席に座りながら挨拶をする。

 店員さんが飲み物はどうするかと聞いてくる。

 先輩は何を飲んでるんですか?


 じゃあ俺も同じお酒で。


 俺は先輩と乾杯した後、先輩が退職した当時の事を思い出して話題にした。


「今年ももうすぐ魔力検査ですが、俺が経験した中で一番の検査はやっぱり先輩が止めた年の検査ですよ」


 あの年の魔力検査は凄かった。

 特に総合1位になった女の子。


 俺の経験の中で測定試験の魔導具を壊すほどの魔力を込めた子は、後にも先にもあの子だけだった。

 まあ、翌年からは改良された魔導具を導入て許容量も増えたせいで壊れていないってのもあるが、それでもあの子の数値が未だに歴代1位だ。


 技能試験の方も素晴らしかった。

 魔法で小さな動物を作り、まるで本物のように生き生きと動かしていた。特にあの火魔法で作った鳥の神々しさは忘れられない。

 感動したのは俺だけじゃない。その翌年の検査から魔法で動物を成形するのが流行った。今年もきっとそれをやる子が居るはずだ。


「俺は見に行けなかったんですけど、その女の子が5月の武闘大会に出て演技を行ったんですって。子供を乗せられる程大きな動物を魔法で作ったと部下が興奮気味に言ってましたよ」


 あ、先輩も見たんですね。

 いいなぁ、俺も仕事が無きゃ見に行ったんですけどね。


 えっ、観客として見たんじゃない?

 魔導師の部に選手として参加した?


 へぇ~。先輩は昔から総魔研の誰よりも魔法が得意でしたもんね。もうちょっと若い時に大会が有ればきっと優勝できたでしょうね。


 えっ、優勝した?

 ははは、先輩は昔から冗談も得意でしたもんね。じゃあ優勝賞金もまだ余ってるでしょうから、今日は先輩の奢りでお願いします。


 店員さん、今日は先輩の奢りになったのでお酒おかわりで。

 あとおつまみに枝豆と、鶏の唐揚げを、味付けはちょっとだけ辛めのやつで。後他に何かオススメって有りますか?


 シイタケの天ぷら?

 シイタケってなんですか?

 へぇ、肉厚のキノコですか。あ、先輩はもう食べたんですね。美味しかったですか?


 じゃあそれもお願いします。あ、2人分で。

 2皿目を頼むなんてよっぽど美味しかったんですね。


「でもね先輩。俺はあの女の子より、総合2位になった女の子の方が凄かった思うんですよ。あの年齢であれほど見事に水魔法を使い熟す事は魚人族で無い限り出来ませんよ。演技も繊細で、可憐で。娘にはぜひああいう魔法を覚えて欲しいですね。あ、俺の子供は2人とも息子なんですけどね」


 あれ?

 店員さん、こっちの魚のフライは注文してませんけど。


 えっ、お店からのサービスですか。料理長のお父さんが喜んでる?

 まあよく解りませんが、頂けるものは頂く主義なので。ありがとうございます。このソースを付けて食べるんですね。


 うん、白身魚の甘味とソースの塩味が相まってとても美味しいです。

 こんなサービスをしてくれるなんて、ここは良いお店ですね、先輩。


 ところで、ずっと俺が喋ってますけど、先輩が俺に何か用事があるとかって言ってませんでした?


 えっ、今月の魔力検査の技能試験で草木魔法を使う子が居るから、植物の種を使用するのを許可して欲しい?


 ええっと、まさかエルフの子ですか?

 あ、人族の子ですか。う~ん。


「実はですね、去年魔力検査を受けた子が、技能試験で魔導具を使用しようとした事が問題になりまして。現部長がですね、技能試験に物を持ちこむなんて今年も絶対に許さん、って意気込んでまして。先輩の知り合いの子が草木魔法を使えたとしても、植物の種は持ち込めないと思います」


 そこをなんとかって言われても困りますよ。

 現部長の性格は先輩の方が良く知ってますよね。先輩の元同僚のあの人ですよ。陰険で傲慢な。


 因みに聞きますけど、その子って貴族ですか?


 じゃあ更に俺の手には負えませんよ。俺はその日はお城での技能試験担当ですからね。冒険者ギルドには行きません。


「わかりましたよ、冒険者ギルド担当の知り合いに一応声を掛けておきますから。でも期待しないでくださいよ、ほぼ無理だと思っておいてくださいね」


 もうっ、先輩は意外と強引なところがあるからな。

 まあ今日の支払いは無理矢理先輩に持ってもらう事にしたから、口利き位はするけどさ。


 あ、店員さん。さっきと同じお酒と、シイタケの天ぷらおかわり下さい。


 うん、美味い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ