ごじゅきゅう
「少し脇を詰めましょう。」
屋敷に戻り、夜会に向けて準備を整えている最中だ。
父の来ていた礼服をサイズ合わせしている。
父は、俺よりもガタイがよかったのだと分かる。
「父上にも見せたかったな……。」
呟きは部屋にいる使用人の耳にも届いてしまったらしく、鼻を啜る音にしまったと思った。
「こう見ると、母上の血が濃いのが分かるな。化粧したら姉上とそっくりになりそうだ。」
Sランクの冒険者として働く時も舐められないために顔は半分隠していた。
「ところで、どなたをパートナーに選ばれるのですか?」
王家主催の夜会にはパートナーが必要だった。
「一応、叔母上に頼んでる。」
叔父上が相手ではないから、かなり渋られたけど、今回だけど念押しされてしまった。
社交界に復帰するのに、今後は相手を探さなくてはならないわけだ。
困ったな。
サイズ合わせが終わった頃、ルシリスが突然現れた。
『ジオン!!』
沈黙が降りる。
「………ルシリス、いきなり現れるなと、何回言えば分かる?」
周囲にいた使用人が軒並み倒れていた。
『ありゃ、ご、ごめんなちゃい。』
使用人を代表してセフィロスが目元を押さえながら苦笑していた。
『あ、そんなことより!ダクネスの気配感じたの!一緒に来て!』
突然の眩しい光は俺の目にも悪い。チカチカが収まるのを待っていたらルシリスが髪を引っ張り始めた。
「痛いんだけど、ちょっと落ち着けって。」
思わず顔をしかめてしまった。
しかし、今日のルシリスは強気だった。
『一緒に来てくれないと、もっと光ってやる。』
ぎょっとした空気が使用人達から流れてきた。
「……分かったよ。けど、今日は大切な夜会があるから、それまでには戻るぞ。」
『うんっ!』
ジオンの譲歩にルシリスが飛び回った。
「落ち着け、光が強くなってるだろが。」
掌にルシリスを収める。
「ちょっと出てくる。」
転移魔法で屋敷の外に出た。誰かに見つかる訳にもいかないから上空に出た。
「で、何処?」
『あっち!』
ルシリスが体を目一杯使って示したのは、学園の裏にある森だった。
今日は雲の多い日だが十分に明るい。
「森?」
『ダクネスも、私に気付いてる!けど、加護を与えた子が寝てて動けないみたい。』
急かすルシリスを押さえながら、ダクネスが加護している人物の気配を探る。
(この気配は………ルーファス縁の者か?)
森の少し奥に入ったところにある大きな切り株に誰かが寝ていた。
顔まですっぽり布団を被っているため見えないが、直ぐ近くに小さな黒い塊が見える。
『ダクネス!』
ルシリスが塊目掛けて飛んでいく。
黒い塊は、形を変え、此方に向かって飛んできた。
先程まで小さな妖精の姿だったルシリスが美しい大人の女性に。
小さな黒い塊は、褐色の肌をした凛々しくも色気のある青年に姿を変え、二人は抱き合い、そして、熱烈な口付けを………。
「くそっ、」
そぉーと、迂回して切り株の側に立つ。
「……ダクネス……どうしたの?」
少女が目を擦りながら起き上がり、欠伸と共にぶるりと震えた。
「……。」
「………。」
暫し目が合い沈黙が流れた。
「君が、ダクネスの?」
豊かに波打つ黒髪。
そして、
真ん丸に目を見開いた娘。
にゃーん。
いつの間に猫になったのか、黒猫と白猫が寄り添っていた。




