よんじゅろく
従者の名前を入力し忘れてました。セイランです。
「まだ、目覚めるな……そう静かに。」
青年は城の裏手に立っていた。
蕀に守られた城壁は戻ってきた主のために道を開けたが、通ることが出来るのは彼だけで蕀は直ぐに閉じていく。
使用人が使うであろう小さなドアが静かに開く。
足を踏み入れた彼を出迎えたのは白い口髭が似合うロマンスグレーの紳士。
彼は帰還した若い主に頭を下げて出迎えていた。
「お待ち申し上げておりました。」
「皆は?」
「悟られぬよう、静かに城内を整えております。」
「ご苦労、」
青年は足を進める。
エントランスには使用人達が並び頭を下げていた。
「お帰りなさいませ、ジオンジーク様!」
涙を浮かべている者もいた。
「あぁ、皆には、済まないことをした。」
頭を振る面々。
「皆には、父上と母上…そして姉上の最期を伝えようと思う。」
彼の言葉に固く目を一度閉じた青年が目を開けた。
「……セイラン、」
「…お帰りなさいませ、我が君。して、場所は何処で?」
青年はぐるりと皆の顔を見渡す。
「地下の大広間で。30分後に集まってくれ。俺は、父上の執務室へ向かう。ついてこい。」
歩き出す青年の後ろをセイランが従い歩く。
永い眠りについていた執務室に足を踏み入れた2人。
青年は見渡し、机の上にある石板を起動させる。
石板には、懐かしい家族の姿が写し出されている。
「……姉上。」
笑顔の女性の姿。
何処か寂しげな印象だが、その笑顔が満面であることは親しい者なら分かる。
青年は1つのファイルを開く。写し出されたパスワード入力の扉。彼は躊躇なく文字を打ち込み、開いた。
「最期の父上の言葉が、これだったんだ。」
ぽそりと呟く。
写し出された文章を箱に保存し、石板から外す。
ぎゅっと握りしめた箱。
2人の青年は次の部屋へ。
開くと懐かしい匂いがした。
「時は、匂いも閉じ込めるんだな。」
「…そのようです。」
それは、青年の部屋。
飾り気のない部屋の壁に飾られているのはシンプルな刀と、少し意匠の施された剣。
刀は、師匠であった人が彼にと残してくれたもの。剣は、この道に進まなかった父から譲り受けたものだ。
『君は、私と違って剣の才能に恵まれた。武のアルドノア家に相応しい剣は君に。』
笑顔の父親の心境を青年はよくよく理解していた。
父が武ではなく、文を選んだこと。祖父が父の武の才能を認め、この剣を与えた。しかし、父は敷かれたレールには見向きもせず宰相府に就職。落ち込んだ祖父の愚痴を何度か聞いた覚えがある。
しかし、メキメキと宰相府で実力を示した父は見事宰相となり、祖父も父を自慢に思っていた。
「じいじは、城に入れなくてショックを受けただろうな。」
前当主であった祖父は、家督を父に譲った後、祖母と共に隠居と称し、もう少し気候の良い場所へと移り暮らしていた。
生きている城と言われるレスナイト城。
自ら選んだ主にしか門扉を開けない城。
主が存在を消した時、自ら選んだ主が現れるまで機能を停止させる不思議な城。
「ジオンジーク様、皆、集まり待っております。」
じいやでもある家令の言葉に青年は部屋を後にした。




