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我慢の女神は惰眠を貪りたい。  作者: 櫻塚森
第七章 ある冒険者の帰郷
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さんじゅうご

闇夜を抜けて走り出す男達。

彼らは後ろを振り返りながら逃げている。

何から?

尋ねるが、必死に走る彼らは答える暇がない。

数時間前、男達はとある馬車を襲った。

貴族のそれと知れる馬車を。


ファフナー王国とドラグナー王国の国境沿い。ファフナー王国でも南の地にあたるその領地は3分の2を険しい山岳地帯が占めている。統治するのは代々国の空軍を指揮する家系であるレザリオン侯爵家だ。有翼族が多く住む土地の名産は高山で自生する薬草でレザリオン領では、自生に頼るだけでなく栽培にも成功し今では薬草の第一生産地となっている。

今回、男達が襲った馬車にはレザリオン侯爵家の夫人が乗っていた。気圧により発育が阻害されてしまう貴重な薬草の運搬方法についての研究結果を王都まで運ぶためだ。

研究結果を保存した魔石を魔法便で送ることも出来たが魔法による阻害も懸念された。様々な話し合いの結果、夫人自らが王都に赴くことにしたのである。警護は侯爵家の私設軍が行うことになっていたが、当日になり人員に変更があると報告があった。夫である侯爵や長男を始めとする家族は夫人自らが行うことには反対していたが、邪悪な気に支配されたワイバーンの群れが王都に向かっているとの情報があり、空を守る侯爵は王都を動けなかった。例の薬草が問題なく運搬出来るようになれば、領地のみならず、国益にも繋がるのは周知のことで研究結果は狙われる可能性が高かった。侯爵家には軍部を預かる本家と夫人を長とする薬学に重きを置く分家があり昔から仲が悪かったこともあり、急な警護人員の変更は夫人や領地に残る子供に不安の影を落とした。

 

そもそも、薬草なんか捨て置き、軍部に重きを置くべきとする本家と内政にも目を向けるべきとする分家の争いは国王ライオネスにとっても頭の痛い問題の一つで、その解決方法の一つとして空軍トップでもある本家のレオニダス・レザリオンと分家の長老の娘で薬学の天才と言われたレイラ・レザニオズが政略結婚をしたのは、ライオネスの先代国王の時代だ。

レザリオン侯爵夫人となったレイラは領地経営のみならずファフナー国の薬学部門の発展に貢献した女傑で、当主であるレオニダスとは幼き頃から交流があり、険悪だった周囲とは違い、今後のレザリオン領、果てはファフナー王国にとって何が必要かと言うことを婚姻の初夜に議論しあい、意気投合した仲である。すでに魔族にしては二男一女の子宝に恵まれ、長男は軍部に、次男と長女は薬学部に進み、昔と比べたらレザリオン侯爵領の風通しは大分よくなっていた。

今回、運搬方法について議論がされ、ようやく目処がついたのは、レザリオン領の山の一部に自生している薬草ソルメドのことだった。ソルメドは決まった環境でしか育たない薬草で人の持つ魔力の活性化を促す、魔力持ちには堪らない効能があった。

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