さんじゅう
気が付くと城の自室にいた。
「気付かれましたか。」
見知らぬ顔が覗き込んでいた。
「殿下は、私のことなどお忘れのようだ。」
男の顔には侮蔑と憐れみが含まれているような複雑なものだと感じた。
「お目覚めになられましたことを陛下方にお伝え申し上げて参ります。なお、この部屋から殿下は出られません故、そのおつもりで。」
テセウスに言動を封じられ瞬き以外に動かせない私に部屋から出ることなど出来ないだろうに。
一人きりになった部屋で何が悪かったのか思い直してみた。愛しいステラを側に置きたいと願ったのがいけなかったのか。母上の苦労を考えるとステラを側室にするなど考えられぬことで、元婚約者に婚約破棄を申し出た。彼女のステラへの陰湿なイジメを考えるととても王妃の座になど置くわけにはいかない。
母上は、元婚約者を正妃にしないと王子の地位も危ういと仰っていたが、私は優秀だ。学園での成績も悪くない。いずれは父上の愛情の深い私こそが王太子となるに決まってる!……決まってる?違う、王太子は、ライモンだ。しかし、彼は……、ステラだって……。
思考の迷宮に入ってしまった私の部屋の扉が無遠慮に開けられた。
先に入ってきたテセウスが手をかざし、体の自由を与えられたので体を起こした。
入ってきたのは、父上と側近のテセウスにクライス・ボトムズ公爵、王太子ライモンと側近の2人だった。
「こちらに来られるか?」
父上の見たこともない厳しい表情に冷や汗が流れる。
部屋に備え付けられている応接セット。一人掛けソファに父上と私が向かい合い、2人掛けソファにライモン、私の近い方にボトムズ公爵が座った。公爵は私を見つめた後、部屋の中をぐるりと見渡し、机の方へと向かった。
「陛下、ここに。」
指差しされたのは引き出し。
父上がテセウスに命じて中を改め何かを取り出しテーブルに置いた。
「デイビス、何故加護の石を付けていない?」
テーブルに置かれたのは父上から渡された加護の石が付いたペンダントトップ。
また、背中に汗が流れる。
「加護の、加護の石なら身に付けています。」
私はステラが自身の信じる女神から授かったピンクサファイアのペンダントを外してテーブルに置く。
「ステラは、愛と美の女神に選ばれた聖女なのです!父上。」
皆の視線が何とも言えない空気を孕んでいた。
「やはり、女神堕ち……でしたか。」
「公爵、ステラは女神堕ち等と言う怪しい無能力者ではない、聖女だ。母上と同じ色合いの素晴らしい女性だ!もうすぐ、赤髪に変わってしまうかもしれませんが。」
皆が溜め息を吐いていた。
「ここまでのバカだとは、思いませんでした。」
ライモンが楽しそうに言った。また、私をバカにしていると思い立ち上がる。
「座れ。………前々からピンクブロンドに緑の瞳の娘には注意しろと言っていただろう?」
額を押さえながら父上が言う。
「はい、母上と同じ色合いの娘は素晴らしい愛に満ち溢れた存在だと、ですから、ステラを見た時は、彼女こそ私の隣にふさわ」
「誰に?」
ステラの素晴らしさを言う途中でライモンが口を挟む。
「私が今喋っているのだ、黙っていてくれ。」
いつもいつもライモンは煩わしい、父上の愛情を得られなかったからって、
「デイビス!誰に言われたのだ!」
父上の声に思考を戻した。




