にじゅう
思い返しても頭が痛い。
ライオネスは眉間を揉んだ。
今日の話し合いでスフィア妃には離宮行きを命じることになった。
彼女に命じる日、ライオネスはテセウスと一人の老人を連れてスフィア妃の宮を訪れた。
久しぶりのライオネスの渡りに喜んでいたスフィアだったが、余計な人物がいることと発せられた言葉に目を丸くした。
「離宮に?何故?」
見上げてくる瞳は既に涙で濡れていた。
「子を産み、デイビスも一応子離れもしなくてはならない年となったので、スフィア、お前に再度、公務と王妃教育のやり直しを施すことになった。今回の婚約騒ぎも、大元の原因は我にあるとしてもお前の短慮、知識のなかったことも要因の一つだと言う声が上がってな。そう言えば、嫁いで来てからスフィアは王妃教育が十分ではなかっただろう?」
ライオネスは、回りくどいと内心思いながら言葉を紡ぐ。衣服の下には、光の神の護符が縫い付けられ、耳飾りにも同様の魔力を秘めているが油断するとスフィアへの言葉を忘れそうになる。
しどろもどろに成りそうな彼にテセウスが咳払いをする。
「失礼。」
「で、先日から再度教師を宮に寄越したが、スフィアは具合が悪いと言う。お前が指名した医師を信じない訳ではないが、こうも具合が悪くなるのは何らかの病や呪詛がかけられているのではないかと、宰相と話し合ったのだ。」
そう言ってライオネスは、御殿医をスフィアに会わせた。
彼女がいつも具合が悪いと言って呼び寄せていたのは、学生時代から懇意にしていた伯爵家の次男だ。彼女に魅了されている可能性もある。
「えっ、ライオネス……わ、私は、大丈夫よ?」
スフィアは現れた老医師の診察を断ろうとした。
しかし、突然、御殿医が声を上げた。
「な、なんと、これは、陛下、スフィア妃様には、呪術の気配を感じます!」
「えっ?な、何を言ってるのよ!」
御殿医はスフィアの言葉を無視して続けた。
「ご覧下さい!この呪岩に現れた黒々しい色を!」
取り出された拳大の石。
「あぁ!何で禍々しい色だ!」
すかさずテセウスがわざとらしい声を上げる。
「な、何?」
ただならぬ言葉にスフィア妃は震えた。
「せ、説明を。」
ライオネスは御殿医に尋ねた。
「スフィア妃様は、人族の血の濃い方ですので、魔力渦巻く王城では魔力酔いを起こしやすいのでしょう。人族の血が薄くともある程度の魔力があれば防げましたが、スフィア妃様にはそこまでの魔力もなく、その隙を付かれ呪詛が掛けられたのでしょう。」
よくそれだけ口が回る。内心思いながら御殿医を見つめた。
スフィアはすっかり怯えた顔になる。
「お前が学ぼうとする度具合が悪くなったのは、この城にいさせまいとする呪詛のせいだ。」
すがり付こうとするスフィアを思わず避けスフィアは顔から絨毯に突っ込んだ。
「済まぬ、呪詛が掛けられた者に王が触れることは出来ないのだ。」
御殿医からスフィアは城から出て一時隔離せねばならないことを驚きの表情で聞くライオネス。
「スフィア……デイビスとも離されることになるが、面会には行かせる故、耐えてくれ。そして、これを身に付けて欲しい。私の代わりだと思って欲しい。」
ライオネスは、触れぬように指輪を渡す。美しいスターサファイアだった。




