じゅうなな の に
婚約騒動が起こる前、ライオネスは、多忙を極めていた。宰相であるラーゼフォン公爵が視察に出掛けることが半年も前から決まっていたことで今更予定は変更不可能状態だったので、不在の期間中の体制を整え政府運営をしていく算段も相談し立てる必要があった。また、ドラグナー国とガボット国の情勢に気を配りながら、先月起こった大規模火砕流からの復興に、新しい産業の開発にと政府を上げて忙しく、スフィア妃と閨を共にしても朝を一緒に迎えることは希となっていた。
ただ単に、王妃となってからのスフィア妃の情緒不安定に付き合ってられないと言う理由もあるが、ごり押しで王妃とした手前捨て置くことも出来ずにいた。
婚約許可書を用意した日もスフィア妃は得意の上目遣いでライオネスを見ていたことを思い出していた。
あの時は寂しそうに言ってくるスフィア妃に心が少しばかり痛んだが、嬉しさからか許可書を抱いて眠ると言い張ったスフィア妃に愛しさを覚え、抱いて寝てもいいが朝になったら侍従長に許可書を渡すようにと告げ宮を去った。
スフィア妃はライオネスが去った後、許可書に御印が押されていないことに気付き、侍従長ではなく、直々に執務室に自分が届けると言い張った。困り果てた侍従長はライオネスに相談した。
先代から王家に仕える侍従長は、ライオネスがスフィアを妃に迎えることに難色を示した一人だ。
低い身分の者が思った以上の地位を手に入れた時、その身分に相応しい態度を身に付け、矜持を持って下の者に接することが出来るか否か。その見極めは地位に就かせる前に予想せねばならない。侍従長にとってスフィアは、妃に値しない人物像だった。
主たるライオネスから紹介された夜、スフィアについて尋ねられた時、彼は素直な感想を述べた。
「あの方は、王家に入られると様相が変わるだろうと推察いたします。」
かなりオブラートに包んだ意見だったが、それを恋に盲目となっていたライオネスは、王妃と言う地位にスフィアを当てれば、子供のような無邪気さが消え、アルビナやエマージェンを支え国を導く存在になるだろうと思い至ったのだった。
ところが、スフィアを妃に迎えた頃から、ライオネスは侍従長よりスフィア妃の教育が進まないことを聞かされるようになった。
幼い頃から王宮にて王妃教育を受けていたアルビナや、学生時代から才女と謳われていたエマージェンとは違うのだから、長い目で見てくれとライオネスは侍従長に頼んだ。
宮に帰ったライオネスは泣きそうな笑顔で出迎えるスフィア妃に優しく声をかけた。
「大丈夫か?勉強がうまく進まないと聞いたが……。」
華奢な肩に置いたライオネスの手に手を重ねる。
出会った頃にスフィアへと送った指輪が光っていた。
「なんでもないの……私が悪いの、私の覚えが悪いから。皆さんをイライラさせるみたいなの。」
頭をライオネスに凭れさせ涙に潤んだ瞳で見上げ微笑む。
スフィア妃は、アルビナ妃が自分に付けた家庭教師が、何かにつけアルビナ妃と比べてくるので辛い。鞭で打ってくる教師もいると泣きながらライオネスに訴えた。
訴える度、ライオネスは侍従長に新しい家庭教師、マナー講師を選び直すよう命じていた。




