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我慢の女神は惰眠を貪りたい。  作者: 櫻塚森
第三章 婚約騒動とお花畑
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じゅうご の に

国にとって極めて重大な事件の報はアルビナ妃の後宮にも伝えられた。

アルビナ妃は、休憩のため一旦後宮に下がり我が子をあやしているところだった。


「んっ?号外か?」

天に轟く雷のようなと号外を知らせる独特の音が聞こえアルビナ妃は窓に目を向けたが内容は不明だった。

「宰相閣下の件でしょうか?にしては、早うございますね、私、探って参ります。」

侍女のラデュレが窓を開けて空を見たがよく分からなかったようだった。

「事件の報だとすると随分、早いな。」

この世界の号外は、天に魔法で文字を浮かべるものだ。

号外の打ち上げには、国王の許可等手続きが必要だが、今この時に襲撃事件以外に号外が打ち上がる理由はない。

「閣下も念願の女のお孫さんが生まれて喜んでいたと言うのに、」

重体だと伝えられている公爵を思う。

潤沢な資産を持つラーゼフォン公爵家に資金援助は不要だろうが、宰相府が政府が機能しない何てことはあってはならない。どういう意図があったにせよそれこそ敵の思う壺のように感じた。

テロを起こした黒幕の調査と人々の救助、支援は国王自らが指揮をとるだろうが、王妃として何をすべきかアルビナ妃は考えていた。

ドラグナーとガボットの交渉はまだ続きそうだが、2国間での話し合いこそが肝となるだろう。こちらが落ち着かないなら、エマを戻すことも必要か。

アルビナ妃の腕の中で無邪気に笑う我が子は思考の整理を促してくれていた。

国王ライオネスからの愛情は、どう考えてもスフィア妃のデイビス王子に向けられるだろう。ならば、それ以上の愛情を与える義務が自分にはある。

「……いかんな、今は、ライオネスと協力して民を安心させなければ。」

つかの間の思いに至った時、ボトムス公爵家から付いてきた古参の侍女ラデュレが慌てた様子で宮に戻ってきた。

「どうした?ラデュレ、君らしくない。」

「アルビナ様、大変です。先程打ち上げられた号外ですが、」

「魔法省広報部も仕事が早いなと思っていたんだ。」

少し言い澱むラデュレ。

「ラデュレ?」

「違うのです。先程の号外は、ラーゼフォン公爵閣下のお孫様とデイビス第二王子の婚約成立を発布したものだったのです。」

「…………へっ?」

「実際に号外を読んだ者に確認致しました。読んだ本人も今?と目を疑ったようで、人を魔法省広報部へ確認に走らせたようです。」

響き渡るサイレン。

「あれは、クーデターを知らせるサイレンだ。」

どよめく後宮。

「どこのどいつだ?」

これこそが陽動?

「アルビナ様!」

宮が一気に騒がしくなった。

「ライオネスは?」

アルビナ妃の近衛騎士が入ってきていた。

「陛下は御無事です。敵は一人、魔法省広報部、号外塔に立て籠ってます。」

号外塔は出入口は一つ、敵も一人なら用意に制圧出来るだろうとアルビナ妃は考える。

スフィア妃辺りがデイビス王子にラーゼフォン公爵家の孫姫を宛がおうと画策しているのは知っていた。彼女の焦りの原因がドラグナーの幼い姫の滞在にあることも理解している。理解したくもないが実に分かりやすい娘だとアルビナ妃は思っていた。ドラグナー国の姫はまだ3歳。国が落ち着けば帰国する予定で、それこそ、第一王子には悪いが情勢によっては婚約が解消される可能性もある。

ライオネスがやけにスフィア妃に甘いことは知っているが、叔父であり、腹心であるラーゼフォン公爵の意向に反した命などだすのだろうか、出していたとしたら………。

「ライオネスは、バカに成り下がったのか?」


アルビナ妃の元に続報が届いた。ラーゼフォン公爵は生まれたばかりの孫娘へ数多く寄せられた縁談をのらりくらりとはぐらかしていた。しかし、例の伯爵が宰相の留守に陛下の承諾の印を押しラーゼフォン公爵家に早馬で伝えたと言う。丁度使いの者が屋敷を出ようとしたところに事件の報が公爵家に伝えられた。

早馬で届けたと言うことは、少なくとも半日前には王城から連絡係が出発していたことになる。宰相閣下が出発したのは4日前。明らかに責任者不在の中で通された許可だった。

婚約の件は、天空に輝く号外で国全土に打ち上げられ皆の知るところとなった。

しかし、号外が打たれる前に襲撃事件は起こったことは、周知の事実だ。政府が一丸となって事件に取り組んでいる時に空気を読まない号外。国王は何を考えているのだとの声が上がるのは必須。ましてや、号外の報を打ち上げるのには国王の許可が必要で、知らされた情報は取り消すことが出来ないものに限られていた。

「くそったれ!」

アルビナ妃の激昂に侍女が震え、王子も泣き出した。王妃らしからぬ言葉にラデュレの眉間に皺が寄ったが仕方ないことだといつもの小言はなかった。

「うわっ、ご、こめっ、ラナ、王子を頼む。」

乳母が王子を連れて部屋を出て行く。と同時にまた一人部屋へと入ってきた。

「何があった?」

近衛の一人が膝を付く。

「はっ、宰相閣下の事件が知らされ、宰相府が混乱に陥っている間に副宰相の息子であるミハエル・ダグラムが婚約の報の打ち上げを強行したようです。号外に驚いた職員が駆けつけた時には、塔の外階段の下に見張りの一人と職員が倒れており、塔には内鍵がされていたようです。見張りのもう一人が中にいる男に声を掛けて出てくるように言っていますが、現在立て籠りは続いております。今、陛下の影がダグラム・バカ伯爵の身柄を拘束しております。」

近衛の一人が侮蔑の口調で告げた。アルビナ妃の腹心達は自由な発言を許されていた。

「宰相府へ向かう。先触れを頼む。」

アルビナ妃の元に来ていた女官長が走って出ていった。


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