きゅう の に
9/7加筆訂正。
宰相が視察に出たのを追うようにエマージェン妃も旅立った。3日後に予定通り視察の町に到着し、明日から本格的な視察を始めると連絡が入った。宰相府はフィンネルの頑張りで滞りなく業務は行われていたが、4日目の朝早く、執務室に入るや否やフィンネルの元にラーゼフォン公爵家からの隼便が届いた。
『ブランジェが一向に目を覚まさない。』と言うものだった。
隼便は、この国内なら端から端までだとしても半日もかからない早さで手紙を届ける。送り主の思いも共に届けるので魔力の強い者の隼便程早くなる。仕事に追われていたフィンネルは直ぐ様、連絡手段でもある遠見水晶鏡を通してラーゼフォン公爵邸に連絡をとった。遠見水晶鏡はテレビ電話のような魔道具だ。一方的に映像と音声のみを伝える遠見鏡と言う魔道具もある。どれも皆開発に手間がかかるため高額である。遠見鏡で馬三頭、遠見水晶鏡で馬十頭と言ったところだ。
因みに王都で暮らす一般庶民には半月以上の給料をつぎ込まなくては馬は買えない。
なので、農業や運搬などで馬が必要な場合は、領主に申し出て借り受ける必要があり、レンタル期間、代金は領主の采配による。もちろん、国が定めた最高最低料金は決まっており、その価格が適正か否かは国専門の査察官が抜き打ちでチェックしている。
愛娘の異変にいつもニコニコと冷静な妻や母の取り乱した姿にフィンネルは落ち着けと声をかけた。
医者に見せても異常はないと言う。ただブランジェの魔力が多く、その事が影響しているのかもしれないとの医師からの説明をフィンネルは妻から聞いた。
遠見水晶の前で、僅かに狼狽えているように見えたフィンネルに声をかける者がいた。それが例の伯爵だった。
時刻はまだ朝早く、始業時間には2時間も前だ。
フィンネルや宰相府の働き手は仕事量の多さから、宰相が視察に出掛けてからと言うもの2時間前には職場に入っていた。声をかけてきた伯爵や彼を指示する数少ない部下は「無能だから朝早くくるしかないのだろう」等と言っていたためこの時間には居ないはずだった。
「大切なお嬢さんの一大事に帰らなくてどうする、ここには私がいるのだぞ、」
ふんぞり返る伯爵。
そう言えば、一年前に待望の初孫を得て、ジジ馬鹿になっていると噂があったなとフィンネルは後々思った。
ありえない提案に一同は固まったが、フィンネルの補佐をしているエイキは、いち早く我に返り同意した。
「そうですよ、1日、2日フィンネル様がご不在でも我々がいます。」
「しかし、」
それでも悩むフィンネルに再び声がかかった。
「何事ですの?」
先触れもなく訪れた彼女の後ろには追ってきたのだろう息を切らした侍女の姿があった。
「アルビナ妃様……。」
アルビナ妃は別件で宰相府に来たようだった。
「それがですね、」
我先にと話し出した伯爵にアルビナ妃は目を見開く。
「フィンネル、一度邸宅に戻り、ビエラや御母堂様を安心させてあげてはどう?」
学生時代の後輩でもあり、親交のあるビエラ。同じ年に生まれた子を持つ母として彼女の不安は痛いほど分かる。自分には、子供のことを相談する夫はいないが、直ぐに帰宅するべきだと指示した。
夫うんぬんの件は、あまりにもさらっと言われたため、一部の者しか気付いていなかった。
午前中に何とか切りのいいところまで仕事を(無理矢理)終わらせフィンネルは城に預けていた愛馬に股がり一時帰宅をした。
フィンネルの王都郊外にある邸宅まで早馬で2時間強。
宰相閣下を襲った大規模なテロ事件が起こったのがフィンネルが城を出て5時間後。
遠く離れた町で起こった事件が城に知らされたのは、その3時間後。
デイビス王子とブランジェの婚約の号外が出たのがさらにその6時間程後だった。




