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まだ、両親のターンは続く。
6/28加筆修正。
「私にとっての魔力コントロールが食欲ならば、ブランジェにとっての魔力コントロールが睡眠なのではとおもったのです。私の魔力は、エドウィン(長男)を生むと安定しましたから、もう植物の品種改良と称したつまみ食いは止められましたし、料理人も実家に帰りました。私ったら、子育てと公爵家の切り盛りで自分のことなどすっかり頭にありませんでしたわ。」
貴族令嬢として生粋のビエラは、新しい環境に慣れ、公爵夫人としての社交や子供の教育に必死だった。夫となったフィンネルからの課題もある。自分の魔力の根本的なことなどに構っている暇はなかったのである。
因みに、離れは取り壊されることなく、三男の専用研究室となっている。
「では、ブランジェの眠りは遺伝的なものか。」
そうに違いないと思っていたビエラはふと動きを止めた。
「ん?まだ、何かあるのか?」
沈黙の貴婦人は視線を明後日の方向に向ける。
「何か、それだけではない、ことを、誰かが言っていたような……?」
「ビエラ?」
そばで見守る家令達もビエラの言葉を待つ。暫しの沈黙の後、ビエラはポンと手を打った。
「そうそう、お祖母様が、ビエラの力は『女神堕ち』によるものだから、大切になさいって、仰られてました……あら?」
フィンネル、そしてジュゼッペもアンナも思わず声を出した。
「ビエラ!」
「「奥様!」」
思わず耳を塞ぐビエラ。
「嫌だわ、あなたったら、大きな声。」
「また、『女神堕ち』に話が戻ったじゃないか……。」
「あら、本当。でも母方のお祖母様は20年以上に亡くなりましたし、詳しくは分かりませんわ。」
フィンネルは、妻に対してとりあえず義母に向けて手紙を書くように勧めた。
「義母上なら、そのお祖母様から何か聞いてるかもしれないし。」
メリルが部屋を出ていく。
手紙セットを取りにいったのだろう。
ビエラは優雅にお茶を一口。
爽やかな茶葉の香りが鼻に抜けると同時にまたビエラの記憶にノックする感覚。
「……そういえば、」
「また、何かあるのか?」
情けない夫の顔は可愛いなとビエラは思ったが声には出さなかった。
「母だけは、私の食欲に対して慌てる風でもなく、食べることに協力的でした。母の協力があったから父も兄達も何かと力になってくれていたような。」
がっくりと項垂れるフィンネル。
社交界ではしたたかに振る舞い、貴婦人達の手本とされるビエラではあったが、結構、うっかりしていたりする。知り合って、そのギャップにやられたフィンネルは苦笑した。
メリルが手紙とインクを用意したテーブルに移動したビエラは楽しそうに文をしたため、夫に手渡した。
「魔法便で頼む。」
受け取ったジュゼッペが動いた。
値段は張るが魔法便と呼ばれる空間魔法による速達で出したこと、案外筆まめなビエラの母の返事は翌日の夕刻には届いた。
連絡を受けたフィンネルは仕事をマッハで終わらせ屋敷へと戻った。