聡・3
一次会は、六時から二時間半の予定にしていた。
盛況の中に、時間はあっと言う間に過ぎた。二次会は近くのカラオケボックスの
一番大きな部屋を予約していた。半数近くが二次会まで参加した。
ゆきっぺは、同窓会の後、大阪の友達と九州まで行くらしく、「一次会だけ」
と言っていたのを、シズちゃんが「久しぶりなのだから」と引き留めて、
二次会に引っ張って来てくれた。
カラオケ好きな連中が、自然と前の方に集まった。
ゆきっぺは、最初から、一番後ろの席について、シズちゃんや、他の2、3人と
話してばかりいた。
何を話しているのか、シズちゃんが大声で笑って、ゆきっぺもニコニコして、
とっても楽しそうだった。だから、勧められるままに歌った、僕の〈巡恋歌〉を、
ちゃんと聞いてくれていたかどうか、よくわからないけど、歌い終わったときには、
拍手はしてくれた。
一次会でゆきっぺと随分いろいろ話した。いや、あんなのは、普通、
〈ほんの少し〉と言うのかも知れないけど、僕には、とっても楽しい時間だった。
「ゆきっぺも何か歌えば?」そう言ってリモコンを渡そうとしたけど、
ゆきっぺは、〈いらない〉って風に、手を振った。その時、ゆきっぺが
「ごめん、歌は苦手。」って言ったけど、僕はそんなことも知らなくて、
ちょっと寂しい気持ちになった。
リモコンは、すぐに他の誰かのところに廻って行き、僕はそのまま、
ゆきっぺの隣に座った。
「兄さんのとこには寄らんの?」
「うん、寄らない。友達が一緒だしね、時間もないし。」
そう言うと、ゆきっぺはアイスオーレを一口飲んでから続けて言った
「聡君、ありがとう。今日、来て良かった。聡君が兄さんとこへ、
わざわざ連絡に行ってくれたでしょ。ほんとは、いろいろあったから・・、
ちょっと、迷ったの。でも、思い切って来てよかった。すごく楽しいもの。」
僕は。ただ〈うん、うん〉と頷いて、ゆきっぺの声を、聞いていた。
「さっき、しずえ達に聞いたよ。聡君が、私のこと、ずっと心配してくれてたって。
家を飛び出して、きっと困ってるからって、何とか助けたいって、私のこと探して
くれてたことも、聞いたよ。ほんとに、ありがとう。」
「私、今、仕事にも恵まれてるし、元気にしてるから。大丈夫だからね。
でも、聡君の優しい気持ち聞いて、すごくうれしかったよ。」
ゆきっぺの声が、心なしか震えていた。涙ぐんでいた。
僕はもう、言葉が出なかった。
ゆきっぺの目を見ることも、出来なかった。




