雷神のフードル
俺達は他の冒険者と一緒に再びオルアレンの森へやってきた。
まさか二日連続でここにくるとは思っていなかったが。
全く、忌々しい森だな。
まぁ原因は俺達にあるのだが……。
「マンシー、クエストが終わったら、あれだからな、俺と一緒に街中の人に御免なさいしにいくからな」
俺はマンシーの隣に付いて、そう一言。
「私は悪くない私は悪くない私は悪くない私は……」
マンシーは自分に言い聞かせるかのようにぶつぶつと同じことを呟いている。
「そ、そうだ。街がアリエスに滅ぼされれば謝る必要なんてない……っ!ミスト、逃げましょうっ!ここからっ!」
「何危ないこと言ってんだよっ!……俺達が悪いんだから落とし前はきっちりつけねぇと」
そう口では簡単に言うが、正直厳しいだろう。
相手は普通のモンスターではない、十二の災厄だ。
いくら冒険者を集めたって勝算は薄いだろう。
中には屈強そうで、あきらかに俺達より強そうな輩もちらほら混じっているがそれでも勝てるかどうか……。
「おや、君達が噂の厄介冒険者達かい?」
不意に後ろから声がかけられ振り向く。
そこにいたのは金髪のいかにも好青年風な男とその後ろにイケメンを取り巻くモブ顔の女が二人。
「いきなり失礼な奴だな、誰だよお前は」
「おっと、失礼、僕は思った事を口に出してしまう短所があってね」
キラリと白い歯を見せ、爽やかに笑う金髪の男。
なんだこいつ、うぜぇ。
「名乗らせてもらうよ。僕はフードル・シュバルツ……おっと雷神のフードルと名乗った方が分かるかな?」
金髪の男、フードルが自分の名前を名乗ると取り巻きの女どもがきゃーきゃーと歓声をあげる。
「知らねぇな。おい誰か知ってるか?」
俺が三人に尋ねてみるが三人とも首を横にふった。
「悪いが、そのカッコいい通り名は誰も知らねぇみてぇだ」
俺がフードルにそういうと彼は目を見開き、驚きの表情を隠せない様子。
「僕の名前を知らないだとっ?……まぁいいさ。君達は聞いた話によるとまだ駆け出しの冒険者らしいからね。無理もない」
「んで、その雷神様が俺達に何の用?」
「いや、大した用じゃない。十二の災厄を復活させた冒険者がどんな顔をしているのか拝みにきただけさ。……それにしても」
フードルは値踏みでもするかのように俺達の顔を覗き込んで。
「まさか君みたいなザ・モブ顔の奴に復活させられるとは、十二の災厄も可哀想なもんだ」
「おい、今なんつったこの野郎っ!もう一回言ってみろっ!」
「君みたいなザ・モブ顔の奴に……」
「本当に二回言う奴がいるかっ!余計傷づいたわっ!」
なんなんだこいつは、馬鹿なのか?爽やかイケメン面したただの馬鹿なのか?
「なんだい、急に怒り出して……まぁいいさ。そんなことより、君のパーティーの女の子達は中々可愛いじゃないか。君には不似合いだ」
「てめぇ……さっきから失礼にも程があるだろっ!」
俺がつい手を出そうとするとそれを制止するように手を広げこちらに向けるフードル。
「君たちでよければどうだい?ウチのパーティーに入っては。毎日素敵なホテルにだって泊まれるし美味しいご飯も食べられる。こんな泥舟よりもっとゴージャスな客船に乗ってみないかい?」
フードルはあろうことか俺のパーティーを引き抜こうとし始めた。
メンバー三人は顔を合わせて考えている様子。
俺の気持ちとしては即答で断って欲しいのだが。
だけどこれはこれで彼女達にとっては美味しい話だ。
何せ、この男、実力も口だけではなさそうだし、なによりイケメンだし。
その点、俺はモブ顔だの死んだ魚だの散々な言われようだし、なにより魔法の腕も三流だからな。
まさにフードルは俺の正反対の人間だ。
そんな彼に勧誘されれば心は揺らぐだろう。
「そんなの嫌だっ!あたしはミストの仲間がいいっ!」
ティナが俺の一歩前に出て言う。
「わ、私もミストの方が話せるし、それに貴方の顔いけ好かないから……」
マンシーも普段なら前に出たがらないのにティナの横に並んだ。
「お、お前ら……っ!」
「泥舟なら皆で工夫して乗りこなせばいい。ただそれだけです」
そしてゴム娘も俺とフードルの間に割って入りそう言い放った。
「それにこう見えても私のマスターです。確かにマスターはスケベでのろ間で間抜けですが、貴方、少々言い過ぎでは?これ以上私のマスターを侮辱するなら私が相手になりますが?」
ゴム娘が拳を固めてフードルの顔に向ける。
「ゴム娘……っ!」
ゴム娘が俺を庇ってくれるなんて……マスターとして感激だなぁ。
だけどお前の方がマスター侮辱してるからな?
三人にきっぱり断られたフードルはやれやれといった感じで肩をすくめて、首を振る。
「わかったよ。どうやら君はいい仲間を持ったようだね」
そう言って俺の前に手を差し伸べてくる。
「……なんの真似だ?」
「なにって仲直りの握手さ。これから化け物退治をする仲間だろ?」
金色の眉毛を動かしながら何かどうしたといわんばかりの表情を浮かべるフードル。
俺も気に食わないがその手を握った。
握った瞬間フードルの手は圧を強め、俺の手を握りつぶす勢いで握ってくる。
そして俺の耳に顔を近づけて周りには聞こえないような小さな声で。
「……僕はこうみえても負けず嫌いなんだ」
そう言うと彼は手の力を緩めて、前線の方へ立ち去っていった。
取り巻きの女がなにやらこちらに向かって吼えていたが今はどうでもいい。
それよりも嬉しさの方が大きいのだ。
三人が俺の事を選んでくれたことが、本当に心から嬉しかった。
「あ、ありがとな。俺を選んでくれて」
進軍する中、恥ずかしいので小さめの声でぽつりと呟いてみる。
「いいのいいのーっ!だってミスト達と居た方が楽しいし、それにホテルなんか何時でも泊まれるしね」
流石貴族のぼんぼんは言う事が違うなぁ。
「み、ミストは話やすいからいい……私のお友達みたいで」
それ、遠まわしにアンデットに似てるって言った?なぁ?言っただろ?
「マスターはこれでも私のマスターですからね。契約上仕方なく付き合っているだけですから仕方なく」
おい、なんで二回言ったっ!?大事な事だから二回言ったのかっ!?
やっぱこいつらフードルに引き取って貰えばよかった。
そんな事を思いつつも俺達は一歩ずつ、戦場へと向かっていくのであった。
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