アリスリーゼ……⑦
え、オレの母さんに?
いったいどんな人だったんだ……思わず掴みかかって聞き出したくなるのを必死に我慢する。
というのもロニーナ皇妃ことオレの母親はオレを産むと同時に亡くなってしまったので、オレには母親の記憶が全くない。
父親は『強くて優しい不思議な人だった』と言う訳のわからない印象しか語らなかったし、幼少期には会ったことのある人物も周囲に誰もいなかったので、オレは母親がどんな人だったのか明確なイメージを持てなかったのだ。
だから、母親の情報に飢えてもいた。
「……詳しく話してもらえる?」
「ええ、もちろんですとも!」
オレの渇望する表情に気付かず、ルータミナは嬉しそうに語り始める。
「あれはまだ、わたくしが幼い時分……たぶん5歳か6歳頃のことだったと思います。あ、なにぶん、小さな頃の話なので記憶が確かでなくて、ごめんなさい」
「かまわないから続けて」
「はい、わたくしは幼い頃、その当時父と敵対していた勢力に攫われそうになったことがありました。護衛の者も切り倒され、あわやという時に、ロニーナ様が偶然近くをお通りになったのです」
「それで……?」
「ロニーナ様はお一人だったにも関わらず、単騎で賊の者達に挑んでいかれ、腕利きの護衛を倒すほど強かった相手の男達を瞬く間に切り伏せてしまったのです」
ちょっと待て……オレの母親は優しいたおやかな女性じゃなかったのか?
それじゃ、まるで……。
「まんまリデルだな」
「ええ、そうですね」
クレイとヒューが、しごく納得した顔で頷く。
お、お前ら……。
「大体、前から不思議に思ってはいたんだ。リデルの父上はひょうきんで掴みどころがない御仁だったけれど、無鉄砲さとは無縁のかなり慎重な方だったからな」
「お母上の血を色濃く引いたのでしょうね」
ふ、二人とも納得するな!
それじゃ、まるでオレが無鉄砲で思慮が足りないみたいじゃないか。
「え~と、そんなに強かったんだ?」
気を取り直してルータミナに続きを促す。
「ええ、それはもう強かったです! それに全く危なげないご様子で、それこそ軽やかに踊っているように見えましたわ。それに、なんと神々しく美しかったこと……まるで女神様が本当に降臨したのではないかと信じてしまうほどでしたもの……」
夢見るように当時を思い出すルータミナは陶然となる。
「ルータミナ?」
「……ですから、わたくしはすぐにわかったんです」
ルータミナは我に返るとオレを嬉しそうに見つめて言った。
「貴女様がアリシア皇女殿下だって……」
断言するルータミナにオレは恐る恐る尋ねる。
「オレって、そんなに母さんに似てるんだ?」
「ええ、それはもう……髪の色が違うだけで瓜二つと言って良いです。ロニーナ様のお姿は、わたくしの目に焼きついておりますので、見間違えることなどありえません」
「もしかして、母さんの髪って金髪だった?」
「はい、陽の光を受けキラキラと輝いて、風に流れる様は本当に美しかったですわ」
オレにそっくりな金髪の娘。
ふと、思い出したのは、ルマでオレが初めて聖石の力を使った時、意識を失ったオレが目覚めるまでに見た夢に出てきた少女のことだ。
あれはオレの母さんの姿だったのだろうか。
オレがそんな思いに囚われていると、ルータミナは急に辛そうな表情になる。
「その後、ロニーナ様がアリシア様をお産みになって現世を去られたと聞き、胸が張り裂けそうになったのを覚えていますわ。わたくしが神官の道に進んだのは間違いなくロニーナ様のお導きがあったと信じておりますの」
現世を去る……ああ、亡くなったってことか。
「ですから、今こうしてアリシア様にお会いできたことにロニーナ様との縁を強く感じずにはいられません。これは、わたくしにアリシア皇女殿下の力になれという天命に違いないでしょう」
うん、前にも思ったけど、ルータミナって、かなり思い込みが激しいタイプのようだ。
「ですから、このルータミナ、アリシア様のご命令なら何でも従いますので、何なりとお申し付けください」
オレにとっては有難い申し出だけど、かなり前のめり過ぎて、ちょっと怖い。オレの一言一言に過剰に反応しそうで、言動に気をつける必要がありそうだ。
でも待てよ。オレがもうすぐ18歳だから、その話がオレが産まれる以前のものなら19年以上前の話ってことだよな。
そのころ、5・6歳ってことはルータミナって……。
口には出して言えないけど、10代後半にしか見えないルータミナに少し驚く。けど、オレ自身も年齢より若く見られるから他人のことは言えない。
でも……そのオレに瓜二つということは、当時の母さんも相当幼く見えたはずだ。
その母さんと普通に結婚したってことは、親父の奴まさか……。
頭を振って危険な発想を無理やり追い出すと、気になっていたことをルータミナに尋ねる。
「さっき、父親の敵対勢力に攫われそうになったって言ったけど、ルータミナのお父さんって偉いの?」
敵対する勢力がいて、娘が名誉職の神殿長になれるぐらいだから、父親は相当の権力者のはずだ。
「父ですか? わたくしの父親は……あら、どなたか参りましたわね」
ルータミナの答えは入室を告げるノックの音で遮られた。
リデル母は、リデルの金髪バージョンでした♪
はい、本章が長くなりそうな予感をひしひしと感じていますw
手短かに手短かに……寄り道は少なく(自己暗示)
リアルが一年で一番忙しい時期になりました(>_<)
もしかしたら、週一更新……悪くすると不定期更新になるかもしれません。
そうなったら、ごめんなさい。
無理しない範囲で頑張ります!