アリスリーゼ……⑥
「まったく、神殿長様の言う通りです。こいつときたら、俺達がいくら言っても聞く耳を持たないんで……ぜひとも神殿長様からも一度ガツンと言ってやってください」
ルータミナの発言に同調したクレイが調子に乗って憎まれ口をきく。
「何だと~、クレイだって、あの時は賛成してくれたじゃないか!」
「場の雰囲気が賛成に傾いていたあの状況で、俺だけ反対できるわけないだろ」
「じゃ、クレイは無理やり付き合わせられたって言うのか!」
「別にそうは言ってないだろう」
「言った!」
「いや、言っていない」
オレとクレイが低レベルな言い争いをしているのを呆れたように眺めた後、ルータミナは微笑ましそうにオレ達を見ているヒューに問いかける。
「それで、貴方はいったい、どなたですか?」
ヒューが纏う雰囲気を察して、ルータミナはいくぶん丁寧な口調で語りかける。
さすがに神殿まで銀の甲冑姿では入らなかったけれど、ヒューの風貌は騎士と言うより貴族の子弟か学究の徒のように見えた。
「私はヒュー・ルーウィックと申します、神殿長様」
「まあ……それでは貴方は、あの高名な『白銀の騎士』様なのですね」
「高名とは面映いですが、そのような名で呼ばれることもあります」
にこりと爽やかな笑みをたたえるヒューの姿には、確かに社交界のお嬢様方をこぞって虜にすると言われただけの魅力に満ち溢れていた。
さすがにルータミナが恋心を抱くということはなかったけど、好意的な印象を持ったのは確かのようだ。
「……それでは、わたくし共、大神殿にアリスリーゼにおける皇女殿下の後ろ盾になって欲しい――そういうことでよろしいのですね?」
「ええ、そうなりますね」
「わたくしとしては異存はないのですが、正神官達が……」
オレとクレイが益にならない舌戦を繰り広げている間に、ルータミナとヒューの間で穏やかに秘密交渉が進められていた。
「リデル、クレイ! そろそろ、じゃれ合うのは止めて、話し合いに復帰してもらえると有難いのですが……」
話を一応まとめたヒューがため息をつきながら、オレ達に声をかける。
「途中から、明らかに面倒ごとは私に任せようと、馴れ合いになっていましたよね」
ぎくっ、さすがヒュー、お見通しか。
「ヒューに任せた方が、物事がうまく進むと思ったのさ」
クレイも決まり悪そうに言い訳する。
「クレイの最初の思惑通り、神殿長は全面的にリデルの支援を約束してくださるそうです……ただ一つだけ問題があるんだそうです」
「問題?」
オレが首を傾げると、ルータミナは思いがけない発言をする。
「わたくしには、決定権がありませんの……」
北方大神殿の神殿長であるルータミナに決定権がない?
そんなことがありえるのだろうか。
「あら、だってわたくし、ただのお飾りなんですもの」
オレの訝しげな表情を読んだのだろう、ルータミナは卑下でも皮肉でもない様子で、淡々と答えた。
「そ、そうなんだ……」
普通なら、気付いていても自分からは決して言わないし、言ったとしてもそこには負の感情が伴うものだけど、ルータミナにはそうした雰囲気は微塵もなかった。ただ、事実を正直に告げただけのように感じる。
どうしてだろう……ただの鈍感なのか、それとも開き直っているのか?
「じゃあ、実権は誰が握ってるんだ?」
「五正会のメンバーですね」
疑問に思ったオレの質問にルータミナは屈託なく答える。
「五正会?」
ルータミナの説明によると、『五正会』とは彼女の下にいる五人の正神官で構成される組織で、実質上、神殿内の諸事のほとんどは彼らによって決められていて、ルータミナは機械的に裁可を下すだけなのだそうだ。
どうやら北方大神殿においては、他の神殿ではトップであるべき大神官が名誉職に過ぎず、実際の権限は伝統的に五正会が掌握しているのだという。
どうりで、ルータミナのような若い女性が大神官の要職に就いているわけだ。
「決定権がないのはわかったけど……それじゃ、協力は出来ないってことなの?」
現状を聞いて、改めてルータミナに尋ねる。
「いえ、協力を惜しむつもりは全くありません。ただ、わたくしが五正会に掛け合うよりもクレイ殿が皇女殿下の代理として彼らと直接話し合いを持たれた方がより効果的だと思われます」
確かに、人の良さそうな彼女を間に挟むより、実権を持つ五正会に直接交渉する方が効率が良いだろう。しかも彼らとの橋渡しはルータミナがしてくれるそうだ。
「こちらとしては助かるけど、ルータミナはずいぶんオレ達に好意的なんだね?」
あまりにも便宜を図ってくれるので、かえって裏があるのかと疑ってしまう。
「ここアリスリーゼは皇女直轄領です。本来の主に従うのは当然のことでしょう?」
他の人が言ったら、追従に聞こえただろうけど、ルータミナが言うと紛れもない本心のように聞こえた。
ただ、オレとしてはルータミナの言動にそれだけではない熱い想いが感じられたので、率直に質問する。
「ルータミナ、貴女の好意はそれだけじゃないように感じられるんだけど、何か思惑があるの? それに何故一目見てオレを皇女だとわかったんだ?」
帝都からやって来て、母親がロニーナと言うだけで、そこまで信じ込むのは少し不思議な感じがしたのだ。
「あら、言っていませんでしたか。わたくし幼いころに皇女殿下のお母様に……ロニーナ皇妃殿下に助けられたことがあるんですのよ……」
おかげさまで、インフルには罹りませんでした。
でも、3月・4月はリアルが超忙しいので倒れているわけにはいかないのです(>_<)
と、いうわけで、しばらく不定期になるかもしれません。
もし、そうなったら、ごめんなさい。
なるべく更新できるように頑張りますが、駄目だったらお許しくださいね。




