第二楽章~動き出した音~
翌朝、村人を集めて話し合いが行われた。
ルタ村――
アルベトニア王国の南西に位置する、小さな村。
比較的温暖なこの地方では農業が盛んで、王都にも近い。そのため、村の規模のわりには商業も盛んで、人や物の行き来も多かった。
村での話し合いも終わり、今日は村を見て回ろうということになった。
金物屋に差しかかったあたりで、声をかけられた。
「ライム、それが噂の転移者か」
「そう。これから村で仕事をするから、案内してるんだ」
「そうか。うちの店もちょうど人が欲しかったんだ。ん、お前どうだ? 鍛えてそうだな」
「え? 俺?」
「そうだ。俺はトールだ。見ての通りドワーフだ。金物屋をやっている。少しばかり力仕事だが、面白いぞ」
「俺は黒木大地です。一生懸命頑張るので、よろしくお願いします」
「おう、よろしくな。そうだな、細かい作業や道具の手入れなんかは、そっちの器用そうな嬢ちゃんたちはどうだ?」
トールはアイシャと小春を指さして笑った。
「わ、私は……」
戸惑う小春の隣で、アイシャがぱっと声を上げた。
「面白そうー! 私やるー。ね、小春先輩も一緒にやりましょうよ!」
「わかりました。よろしくお願いします」
トールに別れを告げ、一行は引き続きライムに村を案内してもらった。
「おかみさん、こんにちは」
「あら、ライムちゃん。あ、異世界の方たちね。ここは宿屋の三日月亭。隣では食堂と飲み屋もやってるわ」
ここでは、若菜と奏、それにほか数名が働くこととなった。
その後も村を一通り見て回り、夏樹をはじめ、多くの部員は農作業に従事することとなった。
畑や果樹園で採れる作物は、この村の特産品でもある。
夕方、宿屋のおかみさんが皆を食事に誘ってくれた。
「あなたたち、今日はしっかり食べて、明日から頑張ってね」
「はい。こんなにも温かく迎え入れてくださって、ありがとうございます」
若菜が皆を代表して、おかみさんに礼を告げた。
差し出された木皿から、白い湯気が立ちのぼっていた。
煮込み料理の熱が、じんわりと胃の腑にしみわたっていく。
缶詰や乾パンを噛みしめていた二週間が、ようやく過去になった気がした。
村の人たちの優しさに触れ、一行は部室棟への帰路についた。
ルタ村から部室棟までは、徒歩で約五十分。
少し遠いが、なんとか通える距離だ。
自転車でもあれば――なんて思ったが、転移直後の状況から考えれば、今は奇跡に近い状況だった。
「いいか、よく見ておけよ……」
トールが大地に熱心に指導していた。
店先では、小春とアイシャが縄を使った小道具を作っている。
一週間が経ち、三人ともようやく仕事にも慣れてきた。
「そういや、お前たち音楽をやってるんだってな?」
「はい、親方」
「お、親方? まあいいか。どんな楽器を使ってるんだ?」
「今度、店に持ってきますよ」
「おう、楽しみにしてるよ」
「おやかたー、かご出来たよー!」
「トールさん、私も出来ました」
「お、嬢ちゃんたち早いな。やっぱり俺の目に狂いはなかったな」
「夏樹、今日はもう仕事終わったの?」
「ライムか。ああ、今日はもう終わったよ」
「先輩ー!」
遠くからアイシャの声が聞こえた。大地と小春も一緒だった。
「夏樹、これから三日月亭行くけど、行かないか?」
「俺もちょうど行こうかなと思ってました。ライムも行くか?」
「行く」
「若菜ちゃん、奏ちゃん。今日はもういいわよ」
「おかみさん、まだ片付けが……」
「いいわよ。暗くなる前に帰りなさい」
「はい。それじゃ、お先に失礼します」
宿を出たところで、夏樹たちが目に入った。
「あら、みんな早いのね。これから帰り?」
「先輩、ここでご飯食べて帰ろうかと。一緒にどうですか?」
「そうね。私たちもそうしようかしら」
久しぶりにそろっての夕食だった。
それぞれの仕事の話をしながら、近況を話し合った。
「そういえば、トールさんが一度、俺たちの楽器を見てみたいんだって」
「楽器……」
奏が短く呟いた。そして、
「そろそろ、みんなで練習してみない?」
「いいですね! ね、先輩。やりましょうよ!」
「そうね。こっちの生活にも慣れてきたし、こっちの世界でも部活するのも悪くないわね」
「よし。帰ったらみんなにも聞いてみるか」
「ねえ、その【ぶかつ】っていうの、僕も入っていい? この間みたいに、みんなで吹くんだよね?」
「そうよ。じゃあ、ライムも参加ね。パートリーダーが喜ぶわね」
若菜がそう言って笑った。
つられて、みんなも笑っていた。




