第一楽章~新たなる旋律~
急に開けた視界に飛び込んできた景色に、三人は戸惑った。
三人はその場から動かなかった。
規則的に繰り返される少女のメロディーは、止めどなく流れていく風のようだった。
やがて演奏を終えた少女が三人の存在に気づき、こちらを向いた。
「誰?」
「この世界の人?」
ほんの少しの沈黙を破るように、若菜が小さく呟いた。
「驚かせてごめんなさい。俺たち、この森で迷子になってて」
「変わった服装だね。どこか遠いところから来たの?」
「俺たち、突然この森に飛ばされて……」
「……もしかして、異世界の人?」
「!? 異世界のこと分かるんですか?」
夏樹の問いに、少女は三人をじっと見つめた。
心地よい風が、水辺を吹き抜けている。
もしかしたら、この少女が何かを知っているかもしれない。
三人は少女との距離を、ほんの少しだけ縮めた。
「あ、私たちの言葉分かるの?」
アイシャが尋ねた。
「うん。魔法のおかげで、話す言葉は通じるよ」
「魔法……本当に異世界だったんだ」
「魔法! すごーい!!」
「私は結城若菜。こっちは日向夏樹。この子はアイシャ・アキノ・ロサリオ。
あなたは?」
「僕はライム。ライム・シャルトリューズ。あなたたち、異世界の人なんだね」
「どうやらそうみたいね。二週間くらい前かしら。突然、建物ごと森に移動したの」
「ねえ、街とかこのあたりにあるの?」
「ルタという村がこの先にあるよ」
「本当? ねえ、ライムさん……」
「ライムでいいよ」
「ライム、私たち、もう少し大勢でここにいるの。よかったら私たちのところまで来てくれない?」
「異世界の建物か……。分かった、行く」
部室棟へ戻る道すがら、三人はライムからこの世界についていろいろと話を聞いた。
ここはアルベトニア王国。
森の名はシトラスウッド。
そして、この先にあるのがルタ村。
大昔には、異世界から人が転移してきたという記録も残っているらしい。
ただ、その後どうなったのかまでは、ライムも知らなかった。
そして三人を驚かせたのは、ライム自身のことだった。
彼女はエルフだった。
ルタ村とこの森で、すでに百年ほど暮らしているという。
「着いたわ。ここよ」
先頭を歩いていた若菜が振り返った。
「建物も変わっているんだね。神殿みたい」
「ここは学校なんだ」
三人はライムを連れて視聴覚室へ向かった。
まだ大地たちは戻っていなかったが、フルートパートのパートリーダーが先に戻っていた。
「あら、若菜。その子は?」
「こっちの世界の人よ」
「え!! って、その子が持ってるの、楽器? フルートみたいね。少し変わってるけど、何の金属? 銀かな……?」
「これはミスリルだよ」
「ミ、ミスリル?? どんな音がするのかしら」
「異世界にも楽器があるの?」
「あるよ。見てみる?」
みんなで楽器庫へ向かった。
そういえば、ずいぶん久しぶりに楽器を見る気がする。
「ここだよ。俺の楽器はこれ」
「王都にも似た楽器がある。大きいから、低い音が鳴りそうだね」
「そう。これはユーフォニアムっていって、低音楽器なんだ」
「私のはこれよ。トランペット」
「私のはこれ。クラリネット」
「金属と木の楽器なんだね。こっちの世界と同じだ」
「ねえねえ、演奏してもらえる? どんな音がするか聞きたいな」
一呼吸して、ライムは持っていた楽器を構えた。
静かに、息を吹き込む。
瞬間、温かな風が部屋を駆け抜けた。




