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競技セブンスカイズ《死神と太陽》 〜7機vs7機! 撃墜を狙い合う人型装甲機兵《モービルギア》たちが翔け抜ける未来への切符〜  作者: 元毛玉
第一部 秘された銀翼を求め灯す炉

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第十五話 死神の帰還

 こちらが敵キーパーへと目標を定めるや否や、ウォッチャーはピタリと落下矯正の連携攻撃(キャリブレーション)を中断し、整然とした動きで素早く守りを展開する。

 同時に、轟音と土煙をあげてクロワが得点サークル外へ墜落した。

 慌てた様子のハーベストの通信も併せて届く。


『すみません! 僕が警戒されてたみたいです!』


 如何にウォッチャーと言えど、ライジングサンが攻めに転じたのをスルー出来なかったのだろう。死蝶にゴールを決めたライジングサンの登場は、選手たちにも衝撃を与えた。ハーベストへ対応する神経質な動きがその証拠。


「上出来だ。切り替えろ」


 普通の練度のチームであれば、スター選手のクロワに対し熱狂を誘うキャリブレーションを中断することは出来ない。冷徹不偏なウォッチャーだけはそれをやる。

 ややあってマイクロミサイルの乱舞が始まり、複数のグレネードが花火を奏で、キャメルとソルティの足を空に縫い付けている。クロワが墜ちて数的不利になったことも否めないが、封殺していたビーム以外の火力兵器が解禁されたことが劣勢を招いていた。

 観客からは怒濤のブーイングが続く。



《試合はロースコアのまま、折り返し地点です!》



 実況のアナウンスで残り時間が半分を切ったことを知る。0ー1のロースコアの流れとなり、クロワの失点した分がじわじわと重くのしかかる。

 そこへキャメルからの通信。


『ナックさん、あたいが活路を開こうか?』


 提案はFA(フロントアタッカー)1機を軸にしたフルアタックのこと。だが、敵を1枚減らせる代わりに、キャメルが墜とされるリスクを伴う。


「いや、問題ない。このままチェイサー主体で攪乱を続行する。いくぞチーザ、ウェハー」

『了解です!』

『あいよ!』


 クロワとハーベストに対しプレッシャーを掛け続けたのだ。敵に休む暇は無かっただろうし、被弾はさせられていなくとも着実に削っている。

 モービルギアたちの険しいレース。ブースターやスラスターからは火花や異音が増え、接近格闘(インファイト)こそ少ないものの、ヒリつく攻防は喉を乾かせる。激しいビームの応酬は、まるでフェンシングの刺し合い。点が動かないほどに息は詰まっていく。


『僕、オーバーヒート気味です!』

「把握済みだ。耐えろ」


 ロースコアということは、チェイスや回避での移動の方が主体の試合展開の証明だ。

 スペックは互角。ハーベストが限界寸前であるのなら、大周りで追い立てていた敵はもっと苦しいと言える。


「各機、ウォッチャーに冷却の暇を与えるな」

『そろそろ覗き魔連中を炎天下に引きずり出し、服を脱がして全裸にしてやろうぜ!』


 ソルティから下品な言葉が発せられたが、意外にも皆の力みは和らぎ、士気も向上した。

 墜落して動けないクロワからも激励が届く。


『皆さん、私のリベンジを決めてください!』


 翼は疾うに千切れかけだが、ここで奮起しない者はチームの中には居ない。

 熱い思いはグリップ越しにモービルギアへ伝え、動きで応えた。

 体が熱い。

 本気を出せ、と内なる声が叫んでいる。鼓動は早くなり、戦場を翔けていたころの激情が血液の濁流となって全身へ行き渡る。

 同時に思う。

 奇異の目で見られることへの不安。なりふり構わず勝ちに行く醜悪な姿を、チームは、世間は、許してくれるのだろうか。


『ナック! 逃げるな! 考えるな! 猛るものがあるのなら、思うままに振ればいい!』


 ソルティから届くいつもの言葉。考えるよりもグリップを激しく動かせ。止めるな。攻め続けろと。

 強化兵士であることを悩んでいるのが馬鹿らしくなる言葉に、常に励まされてきた。


「……皆、俺が自由に動いても良いか?」


 これは問いかけではなく、あくまで独り言。そう思っていたのだが、マイクは音を拾って伝えた。


『勿論、あたいがフォローする』

『先輩! 好きなようにやっちゃって下さい!』

『僕、ナックさんの本気が見たいです!』


 仲間たちが背中を押す。もう一度羽ばたけと。


『フッ。もう午後ですよ? ナックさんはお寝坊さんにも程がありますね』


 皆の思いに返す声が出ない。スピーカーから響くノイズと、フィールドを彩るビームの振動だけを暫く聞いていた。


『ナック! お前の本気を皆が望んでいる! 遠慮はいらねぇ! 背中は俺に任せろ!』


 戦場でも、セブンスカイズでも、常に背中にはソルティがいた。ならば安心して飛べる。


「解放する。ついてこいソルティ」


 負荷を避け、温存していたパワースラスターを起動モードへ移行させる。

 右肩に潜んでいた炉には火が灯り、熱と衝撃波を背に従えながら飛翔していく。ロールスラスターも駆使してツイスト飛行を披露し、エースキラーへと急襲した。

 激しさの中で狂う三半規管が捉えた実況。



《おおっと? これは凄い曲芸が出ました! ロースコアを嫌っての演出をしてくれたのでしょうかー?》



 ジャイロ回転で揚力を稼いだ飛行は、高い推進力を持つ。片翼なのも熱が上昇し過ぎるのを避けるため。しかし、弾丸とモービルギアでは、サイズも、持つ重量も大きく異なる。誰もやらないのではなく、あまりのG負担に耐えられず出来ないのだ。


「ぐっ、キツいな」


 モービルギアでジャイロ回転を続けるのは、如何に強化兵士がタフに設計されているとはいえ、3トントラックサイズの機体だと負担が大きい。



《凄い回転ですが、中の選手は無事なのかー?》



 二度、三度と格闘による攻撃を叩き込む。流石にクリーンヒットはさせて貰えないが、逆に綺麗に回避もさせない。

 エースキラーへのダメージを蓄積させていると、敵チェイサーが体を張って割り込んできた。


「死のダンスに参加したがるとは……奇特なやつだ」


 MC(ミドルチェイサー)は機動力に自信があったのだろう。ショルダーパーツのパワースラスターで以ってその奢りを砕いていく。

 捻りを加えたタックルはジャストミートした。


『キャ、キャリブレ!』

「待て、チーザ」


 勇み足のチーザを止め、冷静に局面を整理する。

 虎視眈々と喉笛へと食らいつく眼光を覗かせる狩人。戦場の監視人(ウォッチャー)

 モービルギアから吹きあがる黒煙(ブロックダウン)を利用して誘われていた。いかなる状況も、時には廃材すら利用する軍人の考えそうなことだ。


「各機、キーパーへのプレスを継続」

『了解!!』


 無数のグレネードランチャーが入り乱れ、終焉の近い花火大会を模して華やかさを増す。白を基調として目立っているキーパーへとプレッシャーをかけ続け、被弾しても回避してもオーバーヒートを狙う状況を維持する。

 そこで、観客席から爆発音に負けない程の歓声があがった。



《あぁ~っと、ここでウォッチャーのMC(ミドルチェイサー)が墜落だー!》



 立て直す余力は無くとも、相手は最少失点で切り抜けた。

 点数はようやくイーブンだ。


「ふぅ……俺は、エースキラーを狩る」


 せり上がる酸っぱいものを喉の奥へと押し込む。

 飲み干した後の鼻には、朝食で摂ったチェダーチーズの香りが蘇っていた。度重なるG負担が体を蝕んでいく。

 強まる耳鳴りとソルティの音声。


『ナック! 無理すんなよ!』


 クロワの献身に応えるには踏ん張りどころであり、震える両手に最後の力を込める。

 赤の無風地帯で待つのは──エースキラー。

 赤サークルの真上はお互いの危険地帯であり、誘っているその虎穴へと敢えて踏み込む。


「さぁ、そろそろ白黒つけようか」


 至近距離での高速スラスター戦。互いにクリーンヒットを避けつつ、拳半個分の繊細な技とスピードの勝負を繰り広げる。BD(バックディフェンダー)にも関わらず、この格闘戦についてくるのがエースキラーと呼ばれる所以かも知れない。

 片翼のパワースラスターを使い、強引な割り込みと遠心力を活かした反撃でダメージを稼ぐ。手癖は研究されているが、初お披露目となったパワースラスターの動きには、エースキラーの反応がやや鈍い。


「赤のベッドに誘ったのはそっちだろう? 逃げるなよ、エースキラー」


 形勢不利と見たエースキラーが死地を脱しようとしたところへ追い付き、パワースラスターの推力でぶん回したラリアットをお見舞いする。


「ここだ、キャリブレ開始」

『了解、任せて』

『あいよ!』


 キャメルとウェハー、ベテラン勢の位置取りが光る。

 エースキラーに勝つことを信じ、キャリブレーションを想定した射線の確保が完了していた。

 光の矢を立て続けに浴びたモービルギアは、一際大きな音を立てて地表へ激しいキスをする。

 実況の声に合わせ、熱を帯び歓声がうねりをあげていく。



《ゴーーール! なんとエースキラーが赤サークルに叩き込まれたーー! これでウォッチャーは立て続けに2機を失いましたー! 立て直せるのかー?》



 興奮の余波は、真下の特等席で観戦していたクロワにも届いていた。


『エースキラー相手に4点とは素晴らしい!』

「終わったように言うな、次」


 スラングを口にして既に観戦モードのクロワは無視し、敵のFA(フロントアタッカー)を次の標的に定める。僅かに動揺した相手の隙を見逃す訳にはいかない。フルブーストでのタックルから連続攻撃へと繋げていった。



《連続ゴールだー! 強すぎる! これが死神ナックの隠された実力なのかーー?》



 不快な異名を連呼する実況の声を、仲間たちが塗り替えてくれる。


『先輩! ウチも負けませんよ!』


 背後のカバーについたソルティからは、プライベート通信が入った。


『おい、飛ばしすぎだろ。少し休め。ったく、後はやるから』

「あぁ、頼む。冷まさないと持ちそうにない」

『なら、終わった後のビール並みにキンキンに冷やしとけ!』


 終わってもいないのに勝ったつもりなのを引き締めた方が良いのか、気持ちを後押しした方が良いのか、体調の悪さもあって口を閉ざす。

 ソルティは有言実行を果たすべく、敵キーパーへ突撃し、試合は最終局面を迎えていった。



※詳しく知りたい人向けの情報です。読み飛ばしても本編に影響はありません。


───機体紹介:

・機体名:ショコラ

・搭乗者:ウェハー

・カラーリング:ダークブラウン

・ポジション:MC(ミドルチェイサー)(ミドルチェイサー)

・異名:なし

・機体名の由来:単にチョコが好きだから。

挿絵(By みてみん)

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i1071624
― 新着の感想 ―
今回もカッコよかった!セブンスカイズ《死神と太陽》のシリーズは、何よりも戦闘(と言っても良いのでしょうか)試合シーンが、かっこいいのです。掛け合いの人間臭さとか、機体の状態とか、あまり読まないジャンル…
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