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競技セブンスカイズ〜負ければ廃棄、勝ち続けて優勝を目指す〜  作者: 元毛玉
第一部 本戦トーナメント

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第十六話 一躍有名人

 エクリプスがウォッチャーを「たった1失点でくだした」とファンやメディア、さらにはスポンサーまでもが大騒ぎになった。

 三回戦も圧勝と言える内容で勝利し、選手含め、エクリプスの躍進をフロックだと言う者はもういない。


 次の試合まで少し空くので、それぞれの余暇を過ごすはずが全員漏れなく多忙を極めている。

 合間を縫って共同ガレージへと足を向けると、珍しく先客がいた。


「熱心だな、キャメル」


 夜が明けきらないうちから整備をしていたキャメルは、車輪付寝板(クリーパー)をスライドさせて起きあがり、ダークオレンジの髪や顔についた油をタオルで拭いだした。


「誰もこないと思って、化粧もしてなくて……」

「化粧なんかなくてもキャメルは綺麗だが?」


 ヒュッと音がするほどに目を丸くしてこちらを見るキャメル。

 聞き取りづらいが「不意打ちはずるい」と聞こえる。

 質問しようとしたら、彼女の普段よりも高い声で遮られた。


「きょ、今日は暑いね」

「まだ夏だからな。ここに向かう途中の向日葵も枯れていたから、秋は近い感じがするな」


 頬を赤らめたキャメルはひたすら手団扇を繰り返す。それを流し、整備の件についてたずねた。最近の話で盛りあがっていく。


「モービルギアのカスタムが雑誌で紹介されて、アタッカーの理想的なお手本だって絶賛されてさ、試して見たら良くなったって言われることも増えたよ」

「実際、手本にすべきセットアップだからな。多くの者は癖がなく扱いやすいと言うだろう」


 キャメルは軍属上がりの割に妙なこだわりがなく、シンプルにFA(フロントアタッカー)で強いカスタマイズをする。だけど彼女は自信がないらしく、少しでも模範になるメンテをしておきたいと話していた。


「とにかく、キャメルはもっと自信を持っていいぞ」

「……ありがとうナックさん。あたい、今日が一番自信になったよ」

「そうか? 良かったな」


 笑顔を交わしてゴーグルを被り、愛機(ランツ)の元へ向かった。



 ───────────────────



 ランチ時間になり、選手宿舎の食堂へやってきたが、混んでいて落ちついて食事できそうにない。

 最近は特に質問を受けることが増えたと思う。


 仕方がないので混雑を避け、共同のリフレッシュルームへと移動した。

 そこでチームの二人に遭遇し、こちらを見つけたチーザが声をあげる。


「あ! 先輩! ここ空いてますよ! どうぞ!」


 ハーベストが隣の席をアルコールシートで拭き、チーザが座席クッションを叩いてアピールするそこへ足を運ぶ。


「二人も食事か?」

「ナックさん、それ食事ですか? 僕の食生活には口出してくるのに……」

「これもプロテイン入りだ」


 手早く済ませようと栄養ゼリーと珈琲しか用意していなかったので、膨れっ面のハーベストから抗議を受ける。

 そこへ笑顔のチーザが、余計な気遣いを持ってきた。


「先輩にもウチとハーちゃんの食事を分けてしんぜよー」


 断る前に「どうぞ」と差し出されてしまう。

 カカオ色とホワイトの二色のチョコレートソースがかかったドーナツ。

 鼻の住所に華やかな甘さは宅配ずみ。

 胸やけを起こすほどのチョコスプレーが大量に盛られ、彩り豊かだ。

 動揺を隠すべく話題を逸らす。


「ところで、お前たちの午後の予定は?」


 聞けば予定は詰まっていて、二人も激務に目を回していた。


「僕、キーパー向けの格闘講座の講師に招かれることが増えたんです」


 正直、他の者にハーベストの真似ができるとは思えないが、新スタイルのパイオニアとして今は引っぱりだこだと聞いている。


「まぁ、ライジングサンの誕生は、キーパーに対する価値観を180度変えたからな」


 高性能なキーパーの格闘が目を惹くのは確か。

 実力が伴うかはさておき、スタイルの人気は伸びると思う。

 先程から目を泳がせていたハーベストが小さく零す。


「それと、死蝶さんからアドレス交換の連絡が来まして……」

「凄いよ! ハーちゃん!」


 最強キーパーからの申し出。ハーベストの表情からは嬉しさや戸惑いなどが読みとれる。

 敢えて気にしていない素振りのチーザが、ハーベストを持て囃していた。

 軽く肩を竦めながらアドバイスを返す。


「それはやめておいた方がいい。勝率がイーブンを超えるまで一騎打ちを申しこまれるぞ」

「あぁ、やっぱり! すでに一騎打ちの申請が毎日来てるんです! どうしましょう!」


 どうやら手遅れだったらしい。ククッと喉を鳴らし、「全て無視しろ」と現実的なアドバイスをつけ加えておいた。

 食べ終えたチーザは、疲れを抜くように背伸びしてから机に突っ伏す。


「ウチも対ルーラーの勉強会にお呼ばれすることが増えましたよー、ウチそういうの得意じゃないのにぃー」

「あ、その話は僕も聞いてます。チーザさんの話が聞きたいって色んな人から紹介を求められてますよ」


 感覚肌のチーザに論理的な説明ができるか疑問だが、ハーベストの言う通り求める声が多いのも事実。


「ウチは、いつもやっている見え方や聞こえ方、感じ方を伝えているだけなんですけど」


 感度が高いチーザのいる頂きは、多くの者にとって未体験ゾーンの筈だ。


「それが凄いんだ、チーザ。お前にしか捉えられない世界が。秘密主義のルーラーだったが、お前が暴いたことにより、逆に第二第三のルーラーが生まれるかも知れないな」


 完全に同じ高みには到達できなくても、各チームの研究が進めば近いところまでは行けるかも知れない。


「ムッツリのルーラーさんの性癖を、チーザさんがオープンにしたんですね」

「ちょっと! ハーちゃんセクハラ! まるでソルティさんだよ!」


 ソルティの感性がここにも侵食していて、笑いがこらえきれずに大笑いをした。

 チーザが驚きの表情で呟く。


「こんな笑顔の先輩初めて見た」


 ハーベストは放心したのか、口に運んでいたドーナツをテーブルに落とし、それを手早く拾っている。


「僕も。この笑顔が引き出せたんならたまには失言もいいですよね」

「それはダメですハーちゃん! ソルティさんの悪影響は消さないと!」



 ───────────────────



 午後に入ると座談会形式のインタビューがあり、ソルティとクロワの三人で参加して今ちょうど終えたところだ。肩が凝ったのかソルティは右肩をしきりに回す。


「しっかし、準決勝まで進んだら、どこもかしこも掌くるっくるで、お前らの腕はドリルなのか? と、言いたくなるよなぁ!」


 ソルティの発言を執拗に拾いあげて炎上させていた頃と違い、今のメディアは煽ててでも談話の場に呼ぼうと躍起になっている。

 クロワが眼鏡を直しながら追加情報をくべてきた。


「ソルティさんは今までの評価が低すぎましたからね。過去の失言も、なぜか肯定的な解釈というか超意訳をされて、辛口ソルティ語録としてまとめサイトもできていました」


 そのサイトは最近目にしたが、壮大なギャグポエムかと思い、腹筋を鍛えるのに重宝したサイトだった。


「しょ~~じき、気持ちわりぃんだよ! 何でもかんでも持ちあげやがって! 俺は凧じゃねぇぞ?」

「似たようなもんだろ」


 先程の座談会でも煽てられて口にしなくて良い内情まで暴露したソルティ。

 その口に凧糸を括りつけたいと何度思ったか分からないほどだ。


「あ? ……って、おいそこのクロワ。なーに、そっぽ向いて肩を震わせてんのかなぁ~?」


 余程ツボに入ったのか、笑うまいとするほどにクロワは隠すことができず、今はソルティから「こめかみグリグリの刑」にかけられていた。

 痛がるクロワに助け舟をだすべく、話題を変えてみる。


「出禁が解除されたことは良かったじゃないか」


 度重なる失言に眉を顰めて出禁にしていた飲食店たちも、最近のソルティ人気にあやかろうと今やどこもウェルカムモードだ。


「うるせーよ。俺はなじみのところで食うって決めてんだ! ブッチャーストライクとかな! 今から食いに行くか?」


 笑顔で振り向いたソルティの提案は、クロワと二人で丁重にお断りしておいた。

 あの店のウェルダンという名の焦げ肉は、食べ過ぎると舌が壊れるからな。


 選手宿舎へ戻る道すがら、悪ふざけも交えつつ明るく談笑を続けていた。

 しばらくすると、気になる話題なのかクロワは表情を落とし、夕立が近い今の空模様と重なって見える。


「私は皆さんのように選手側からは高い評価を得られていません。低い評価ばかりです。観客受けが良いだけで……」


 理由をたずねたら、見当違いの回答が帰ってきた。真意が分からず質問を返す。


「クロワ、何を言っている?」

「あ? そんなデタラメ誰が言ってんだ? 俺が殴ってきてやる!」


 ソルティも即座に反論した。そんな誤情報は誰も信じないと思う。

 しかし、クロワの声色には不安が滲む。


「トップリーグの選手ほぼ全員ですよ。まだまだだとか。穴が多くて狙いやすいだとか。総受けだとか」


 成程。合点がいった。

 恐らく同じ結論に至ったソルティも後頭部の後ろで手を組み、さして気にも止めない感じの口調になる。


「あー、そらしかたねーな」


 素っ気ない返しに「そうですか」と項垂れるクロワ。何やら盛大な勘違いをしているようだ。


「クロワ。勘違いを正しておく。まず、俺が聞く限りではトップリーグの選手たちもお前の技術を絶賛している」

「え? ですが……」


 知る事実と齟齬が大きいのだろう。クロワの顔には当惑の色しか見当たらない。


「わかんねーのか? マウントだよ、マウント。ケンカは始まってんだぞ?」

「そうだ。トップリーグの選手は全員お前を最大の脅威だと認めた。だからそれは言わば威嚇だな。裏では賞賛の嵐だし、実際、俺も認めている」


 褒めてやると、赤面して高速で眼鏡を何度も直しだすクロワ。


「どんな名選手に認められたことよりも、ナックさんに認めて貰ったことが何より嬉しいです」


 可愛いことを言うクロワと、その日は三人で肩を組んで歩いた。



※詳しく知りたい人向けの情報です。読み飛ばしても本編に影響はありません。


───用語説明・補足解説:

・グローブ:整備中に手につけるグローブ。正式名称はメカニックメンテナンスグローブだが、長いので誰もがグローブと呼称する。


・フライトグローブ:モービルギアの操縦の際につけるグローブ。


・コクピット:搭乗部。


・グリップ:コクピットの操縦桿。


・ハーネス:整備中のモービルギアを吊るす物。


・共同ガレージ:複数チームで使っている整備のための格納施設。トップリーグのチームは専用ガレージを利用する。


・ハンガー:競技試合に使うモービルギアを格納。

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i1071624
― 新着の感想 ―
勝ち進んできたことで、周りの反応もだいぶ変わってきたんですね♪ エクリプスに大注目!! もうこれだけ世間に注目されてる状態なら、ナックの廃棄もすでに無しでもいいのにね…… ナックの笑顔も見れて、 ク…
キャメルが可愛い
嬉しい回でした。一人一人が生きています。メンバー間の軽口が絶妙です。キャメルちゃんわかるよ、ナックさんの不意打ちはずるいですw 最近は用語説明を見ながら、ふむふむと読むのが楽しいのです。
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