プロローグ:死神の雨
降りしきる雨が、人型装甲機兵の外装を叩く。
しかし、雨音よりも異常な蒸気音と計器類の発する警告ブザーで俺の耳は支配されていた。
「こんな時に……」
スポンサー各社へアピールするためにも最高の試合にしなければならない。そう意気込んで試合直前までカスタマイズをした。
その結果がこれだ。雨の考慮漏れに歯嚙みする。
「ぐっ!」
濃霧を裂いて眼前に迫るビームを紙一重で回避し、姿勢制御機を安定させようとするが、機器の損傷なのか挙動が安定しない。
狭く窮屈なコクピット。
体をシートの中で鋭く動かし、姿勢制御するべく必死に重力へ抗う。
敵は知り得る限りで最強の敵。
共に戦場を翔けた頼もしい親友。
──死神。
その男が目の前に立ち塞がる。
食いしばりすぎて血の味と香りが強くなり、焦る気持ちとは裏腹に体の芯は冷え、唇は震えた。
かつての姿を取り戻しつつあるのかも知れない。
強い恐怖と、同じくらいの安堵を覚えた。
「俺の代わりに生きてくれ……」
俺の愛した女が愛した男。全てを託すことが出来る頼もしい戦友だ。
俺の明日はやって来ないかも知れないが、せめて戦友たちと愛した女には長く生きて欲しい。
それだけを切実に願う。
苦しいながらもビームランチャーを駆使して牽制を続ける。被弾も増え、振動とG負担で体が悲鳴をあげているが、包囲網を突破しようと藻掻く。
愛した女の涙は見たくない。
だが、俺に対しても涙してくれるのだろうか。
一抹の不安と希望。それを抱え、空に浮かぶ薄い桃色の機体を見やる。すると自然に笑みが零れた。
「わりぃなお前ら。雨なんかで遮られちゃってよ。ちょっくら太陽の本気を見せるから、俺を信じて支えてくれるか?」
(俺にだって居るんだよ)
『何言ってるんですか、当然ですよ!』
『任せて下さい!』
(頼れる仲間がな!)
通信越しでも感じる笑顔たちに背を押され、強く操縦桿を握り直す。
仲間たちに応えるためにも、俺の全てを燃やして戦うことを心に誓う。
虎視眈々と俺を仕留めようと狙っている銀色の機体を睨みつけた。
「まだ終わってねぇぜ、ナック!」
俺は、逆転への命がけのベットを始めた。




