気持ちの整理と意思表示
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夜。久典の家に桜子がやってきた。
「先輩。ちょっと気晴らしに行きませんか?」
「良いけど、こんな時間だけど大丈夫か?」
「いいんですよ。親にはちゃんと言ってます」
「ならいいけど、まだ制服姿だから気になって」
「そんなことはどうでもいいんです。噴水のある公園に行きましょ。いつもの公園だと味気ないですから」
「ちょっと遠くないか?」
「何言ってるんですか歩いて十五分ぐらいなもんです。遠くないです」
ちなみに、桜子と蒔菜が争った公園は登校中にも通る道のところにある小さな公園だが、今から行こうとしている公園は逆方向にあるちょっと大きめな公園だった。
「わかった。行くか」
「ありがとうございます」
久典はすぐに用意を済まして、桜子とともに家を出る。
「というか桜子、なんか制服汚れてないか?」
「あぁ、ちょっと転んじゃったんです。壮大に。その時に砂がついちゃったんだと思います」
「おいおい、大丈夫かよ。怪我とかしてないよな?」
「大丈夫です。怪我はしてないですよ、擦りむいたりもしてないです。だから心配しないでください」
会話はそのぐらいだった。
久典自身もまだ明るく接するほど精神は回復してないし、桜子も疲れている。
公園につくと二人は噴水の近くにあるベンチに座った。
「あの人は先輩の良さがわかってないんです。だから気にすることはないですよ。全然わかってない。あんな女のことはすっぱり忘れましょう」
「あぁ、それもそうだな」
久典はそう言ってうつむいた。
「先輩……」
「なんだ?」
「だからといって、私と付き合うってことはないんですよね?」
桜子が問いかける。
「ごめん……」
久典は力のない声で言う。
桜子のことが嫌いというわけではない。だけれど、今この状態で桜子と付き合うということになれば。なんだか逃げたような気がするからだ。
あの人がダメだったから自分を好いてくれる人と付き合うだなんて都合のいいことはしたくなかった。
「そうですか……。じゃあ今はこれだけで十分です――」
桜子はそう言うと、久典の頬を両手で挟み、上を向かせて、唇を重ねた。
「えっ……」
久典は驚いて固まる。
「先輩のファーストキス。頂きました」
桜子は笑顔でそう言った。




