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 そして百年後。


 元々持っていた神性がこの世界では存分に発揮されたらしく、私は肉体年齢を当時のまま保っている。やろうと思えば、大人モードにもなれた。それはそれで燃えた。何を言っているんだ私は。


 やがて予言通り、リブラ大陸の正反対に位置する英雄の国から一人の勇者がやってきた。


 もうきらっきらとエフェクトがつきそうなくらいのイケメン。あのモテオーラは神の加護だと言われても信じられるくらい。まあ、ルキフェルには敵わないんだけど。


 予め予定したとおり、最低限の兵士以外は避難させた上で魔王城に誘導した。

 こういうのはお約束通り一人ずつ四天王を出すような狡い方法をとるから失敗するのであって、基本的には最大戦力を最良の状況で弱い時にぶつけてやればいい。


 ルキフェルに教えたら、ミヤは残酷だなあと言われたけれど、私は間違った事は言っていないはずだ。


 魔王の座は既に私たちの子供に譲っている。何かあったときのために天秤の女神アイティトスを抑えるためだ。なにより次代を育てたいという親心もある。


 そして明くる日。勇者は王の間へとやってきたのだった。


「悪逆非道な魔の王よ! 私は神の使徒、勇者マルスなり! 貴様の悪事もここまでだ。断罪の刃をその身に受けるがい……い?」


 私達は天上からその様子を眺めていた。勇者くんの困惑した様子が見て取れる。


「愚かですね神の使徒。妾達はなにもしていないというのに。ですが魔王領の平和を荒らすというのならば覚悟をして下さい」

「き、君は魔王なのか?」


 勇者マルスは驚いていた。そこにいたのは化け物然とした魔物ではなく、純白の二対の翼を宿した、何とも愛らしい少女の姿だったのだから。

「ええ、ルキフェルと宮子の娘、ソフィア。魔王になってから三十年と経っていませんが、使徒如きでは殺せませんよ」


 我ながらしっかりとした娘を産んだものだ。冷静にして怜悧な佇まいはまさに女王と呼ぶに相応しい風格を備えている。

 ぶっちゃけ私よりもしっかり者。でも家族の前ではクーデレだったり。可愛いなあもう。


 おや、勇者くんは何か悩んでいるみたいだ。


「く、ぐぬぬ。そうだ、よし! 決闘だ。そして私が勝ったら君を貰い受ける!」

「……はぁ?」


 ソフィアの氷点下の視線が勇者くんにつきささる。というかこっちもはぁ? 状態なんですけど。ルキフェルの方を見ると、どこか納得した様子で、


「ああ、そういうことか」


 と一人理解していた。


「どういうことなの」

「娘は可愛い。それに尽きる」

「それってつまり……」


 ちらりと下に目をやると、まさに勇者くんが叫ぶところだった。


「ソフィア! 私は君に惚れた! なんの間違いか知らないが魔王の座に着いているということは洗脳でもされたのだろう。私は君をそこから解き放ってみせよう!」

「……殺しても良いのかしら」


 ぼそりと呟く我が娘。おいおい、確かに勘違い野郎はむかつくけれど。夫も――なんかすごい表情で睨んでるんですけど!?


「やってしまえソフィア。俺が許す」

「了解父様。天罰〈punishment〉」

「そ、そんな……! たったの一撃で、う、うわああああ!」


 あちゃー。神級呪文撃っちゃったよ。まあ、子供の頃から異空間で打ち合いしてじゃれてたからなあ。消し炭も残らないだろう。――と、思っていたのだけれど。


「う、うおお、俺は、負け……ない」


 流石勇者と言うべきだろうか。ゾンビのようになりながらもソフィアの元へと向かっていく。


「俺の……俺の君への愛は誰にも負けないっ!」


 愛の勇者だった-! こんな状況で告白ってすごい。いろんな意味で。


「なっ……! そんな言葉で騙されるとでも……!」

「風よ大地よ精霊よ。この私の熱き思い、魔に魅入られし貴女へ届け! 焦熱の恋慕嵐ラヴ・ハート・スコール!」


 極大の熱線がソフィアへ向かって吹き荒れた。この暑っ苦しい熱血ものに出てくる必殺技みたいな攻撃を受けて、娘は悲鳴を上げた。


 うん、判るよ。確かにこれは辛い。いわばこれは好き好き大好き愛してる光線だ。甘ったるくて胸焼けがする。夫もこれはちょっと……みたいな表情してたしな。


 荒ぶる想いの奔流に何とか玉座まで座り込んだ娘は、息も絶え絶えだった。確実にぼろぼろなのは勇者くんなのに、ソフィアの方がダメージを受けているという謎な状況の中、勇者くんは満足げな表情で顔面からばったりと倒れ込んだ。


「ねえ、これどうするの」


 呆れ顔になるのを自覚しつつ、夫に問いかける。


「娘に任せよう。俺たちはまだ動けないからな」


 言われてみればそうだった。一応神達の動向は抑えておかなければならない。勇者くんに力を与えたのはアイティトス以外とは判明しているのだけれど、万が一ということも考えなくてはならないからだ。


 というわけで観察を続行。決して興味本位だからではない。


 娘は悩んだ後、私達にどうすればいいか訊いてきたけれど、夫は口元に人差し指を当て、悪戯っ気にウインクをした。

 いつもの癖である。思ったよりもルキフェルは遊び心があったらしい。ソフィアが小さい頃など自作の玩具で一緒に遊んでいた。


 ソフィアはきょろきょろと辺りを見渡した後、勇者くんの方を見て頬を赤らめながら――まて、赤らめながらだと?――引きずるように肩に腕をかけると医務室へと運んでいった。


 その後は彼が起き上がるまで氷枕を額に乗せたり、兎の形にリンゴをカットしたり……と甲斐甲斐しくお世話をし、目覚めた後は食べさせてあげていたりした。


 うん。あれだ。


 胸焼けがする……っ!


 あー、私達もこんな感じだったんだろうか。新婚後しばらくは皆辟易とした表情でこっちを見ていたっけ。メイドなんか「もうベッドメイキングはしたくない……」とか言っていたし。うわあ今更だけど恥ずかしい。あの頃は若かった。


「なんか大丈夫そうね」

「ああ、きっと問題ない」


 満場一致で可決され、観察は終了。これからは諸悪の根源をぶちのめしに神の世界を飛び回ることになる。


 まあ、大丈夫でしょう。


 そこから五年かかった。諸悪の根源は冥界神オトゥールプ。争乱起こして

もっと冥界に呼び込むつもりだったらしい。はた迷惑な。二人でノックアウトしたあと私達は魔王領へと戻った。


 戻ったのだが。


 そこにはもう魔王領は存在しなかった。


「お帰りなさい、父様、母様」

「おお! お初にお目に掛かります。元勇者にして統合領の王、マルスと言います。よろしくお願いします、お義父様、お義母様」


 聞くところによれば、あれからマルスは娘と共に魔王領の事を勉強。さらに和平を買って出たあと残った火種から戦争が勃発。旧態依然とした王族が排除されて平和路線を貫いた魔王領の民達と合併することになったんだとか。


 しかも女神アイティトスのお墨付き。これは私がやった。どう落とし前付けてくれるんじゃと迫ったらなんかそうなった。どうしてこうなった。


 まあ、平和であることに変わりはない。百年の予言はついに効力をなくし、新たな時代が始まるのだった。




 ――となれば良かったのだけれど。


「ミヤ。メイパ・ロルアから手紙が届いた」


 嫌な予感がする。これは聞きたくない。平和バンザーイ。


「彼の世界から天使の軍団が押し寄せてきた。どうしよう」


 どうしようってしょんぼり顔可愛い。じゃなくて! ええい! なんとかするしかない。本当、飽きる暇無いわ!


 なんだかんだ言っても楽しんでいる自分がいることに、少しだけ嬉しくなってみたり。


 今日も現代では考えられなかった、ルキフェルと私の日常的非日常が始まるのだった。

 どうしてこうなった。

 心の赴くまま書いた。後悔はしていない。


 もろもろ後書き。

 神様の名前はローマ神話から抜き出しました。Wikipedia参照。


 壬生屋宮子

 完璧語呂。成長しました。


 レフィクル・凰麻( reficul ouam)

 逆さ読み。魔王ルシファー。

 六対の羽根はもがれた。生やすことも出来るが、戒めとしてそのままにしている。


 アイティトス

 正義の女神、ローマ神話の女神ユースティティア(Ju-stitia)の逆さ読み抜き出しから。

 基本見守る神様。バランサー。


 てんびん座(天秤座、Libra)

 黄道十二星座の1つ。トレミーの48星座の1つでもある。

 正義、天秤の神様の大陸だから。安直。


 オトゥールプ

 冥界神。プルートー(ラテン語:Pl ūtō)から。

 トラブルメーカー。だから冥界なんて閑職につくんだ。


 ソフィア

 本当はソピアーにしたかった、本来的な意味で。語感を優先。

 箱入り娘が熱烈な告白を受けて大人になりました。見る人が見れば超デレデレ。


 マルス

 オリュンポス十二神相当から。戦と農耕の神。

 直情型。ソフィアの教育を受けて王様に。凄い出世。誰から見てもデレデレ。

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