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バグスキルで成り上がる追放勇者  作者: 菊之花将軍


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2話「フィア」

ヒロイン回



 沈む。


 光すらも遮る暗闇の世界。俺を呼ぶ声が聞こえた。



『――――様。――――様』



 誰かが何か言っているみたいだけどよく聞き取れない。


 俺の名前を呼んでいる?



『――――』


『――――』


『――――』


『―――』


『―――』


『――――』


『――――――』


『――――』



 ――――――閉ざされた闇に光が降り注いだ。



「っ!?!?!?」


「ふぎっ!!?」



 近くで俺を覗き込んでいた女の子を驚かせてしまったみたいで、彼女は尻もちを突いて悲痛な声を上げる。



「あ、ごめん」


「うぃ~……大丈夫!私こう見えても頑丈なので!」



 お尻を撫でながら起き上がると彼女は力こぶを見せるようにポーズを取り、獣耳を感情豊かに動かして溶けるように笑みを浮かべた。



「痛かったら言っていいからな。それと、さっきは危なかったな。怪我とかないか?」


「平気です!あなたは大丈夫ですか?咄嗟に防御術使いましたけどちゃんと間に合ってましたか?」


「お陰で無傷だよ」


「それは良かったです!」



 ふと辺りを気にするとここはまだ森の中みたいだった。


 すっかり日も暮れて辺りは暗い。


 無暗にうろつくのはかえって危険だろうな。



「そう言えば自己紹介まだだったよな。俺はユキヒロ。君は?」


「私はフィアです!よろしくお願いします!」


「フィアか。よろしくな」



 見上げるとどうやら俺は大樹の根本に寝かせられていたらしい。


 そこでふと折れていた枝について思い出した。



「フィアはここで何してたんだ?」


「街を探してました」


「街?」


「はい。お金を稼ごうと思って」


「それでわざわざこんな森の中に?」



 見たところ武器とか荷物も持ってないみたいだし、女の子1人で旅するには危険過ぎる。



「私、ここよりもっと南にある辺境の村の生まれなんです。彷徨ってるうちに森に迷い込んでしまって、気付けばここに辿り着いてました。そしたら大樹があって、この大樹の頂上から見渡せば街を探せそうかなと!」


「それで登って…」


「…えへへ、枝が折れて落ちちゃいました!」



 あの大きな音はそれだったのか。タイミングが悪かったと言うか何と言うか。



「それで怪我しないってのは流石に頑丈過ぎだな」


「獣人の特徴とも言えますね!」



 やっぱり獣人がいるんだな。獣耳や尻尾以外は人間と変わりないが、どことなく犬とかに近い匂いがする。



「…今失礼なこと考えませんでした?」


「…まっさかー」



 流石の嗅覚、鋭いな。あまり余計なことは考えない方がよさそうだ。



「…あ、そう言えばお礼がまだでしたね!さっきは助けてくれてありがとうございました!えっと、何も差し出せるものがないんですけど…!」


「いやいや、気にしなくていいよ」


「いえいえ、気にします!命の恩人ですので!…それに、助けてもらえなかったら私の夢は……」


「…?どうかしたか?」


「ああ、いえ何でも!とにかく、私の気が済まないです!何かお礼を…」



 この様子じゃ何言っても引き下がってはくれないみたいだ。


 俺はうろうろごろごろして考え込むフィアを一瞥し、空を見上げた。


 妙だ。こうやって静かな場所にいると、この世界に来てからずっと聴こえる耳鳴りが妙にうるさくて堪らない。


 木々の隙間から見える満天の星空。


 それを背景に奏でる耳鳴りの音は、耳を塞いでも止むことはなかった。



「そうだ!」



 勢いよく立ち上がったフィアがズイッと俺の顔を覗き込むようにして近付き、目を輝かせて言った。



「私、助けてもらったお礼にユキヒロさんのお手伝いをします!荷物持ちでも、なんなら戦闘も任せてください!」


「悪いよ。そこまでしてもらわなくても大丈夫だ」


「いいえ!これだけは絶対に引きません!」



 目によろしくないたわわに実った果実が胸を張った拍子にぽよんと弾んだ。


 俺は一瞬で脳裏に焼き付けて視線を逸らす。



「…じゃあ約束だ。もし危ない目にあったら荷物とか戦いとかいいから、真っ先に逃げてくれ。これが守れないならこの話は無しだ」


「分かりました!雑用から何まで遠慮せず言っちゃってください!…あ、でもエッチなのはちょっとぉ…」


「…言わないよ」



 俺を何だと思ってるんだ。命の恩人だぞ。


 ふと視線をフィアに戻すと過酷な旅をしてきたのか、薄汚く破けた箇所の目立つ服からは白い素肌が見え隠れしている。


 これから行動を共にするとなると彼女の服の新調も視野に入れなければいけない。


 そうしないと俺が耐えられそうにない。


 フィアと目が合ったから咄嗟に逸らすと同時に、お腹が鳴る音がした。



「ん、そう言えばここに来てから何も食べてないな…」


「それなら!任せてください!」


「どうする気だ?」


「狩りの時間です!」


「もう夜だぞ?危険だからやめ……おーい…」



 月光に照らされて銀に輝く長髪がふわっと舞ったかと思えばフィアは驚異のスピードであっという間に遠い背中を見せつけた。



「あの速さなら心配は要らないか」



 危険なことはするなって言ったばかりなのに無茶をする娘だ。


 溜め息交じりに頭を抱え、再び横になると相当疲れていたのか俺は再び夢の世界に落ちた。



「ユキヒロさん」


「ん…」



 深く寝入っていたのか、呼ばれるまでフィアが戻ったことに気が付かなかった。


 やけに明るく感じると思って見れば、簡易的な焚き火がいつの間にか出来ていた。



「もう戻って来てたのか。悪い、寝てたみたいだ」


「安心してください。食料調達のついでに辺りの偵察もしましたけどしばらく危険は無さそうですので」



 言われて気付く。焚き火には串刺しになった魚がこんがり焼かれている。


 良い匂いがすると思えばこれか。



「口に合うか分かりませんが、川魚の串焼きです。味付けも何もないので美味しくなければ置いといてください」


「ありがとう。いただくよ」


「はい」



 手渡された串焼きを手に取り、かぶりつく。



「…美味しい」



 ふと口に出してしまう。それほど焼き魚を美味しいと感じたのは初めてだった。



「おかわりもあるので、足りなければ食べてくださいね。私は…ふぁ~ぁ…もう、眠いので……」



 フィアは欠伸をすると俺のすぐ側でうずくまって寝てしまう。


 こうやって見ると本当に犬みたいだ。



「んん……」



 危ない危ない。気が付けば頭を撫でてしまっていた。


 バレたら何を言われるか分からない。


 俺は何もなかったように無心で残りの串焼きを全部食べ、フィアに背を向けて寝転んだ。



「…皆、どうしてるかな」



 思い出すのはクラスメイト達。


 今頃王城とかそれなりに良い部屋で寝泊まりしてるんだろうか。ちょっと羨ましいな。


 俺ももっと強くなって皆と肩を並べられたらな。


 そしたら皆で魔王を倒して皆で元の世界に帰るんだ。帰ったらきっと皆も俺のことを思い出してくれるに違いない。


 凛や久良人だって…。


 考えごとをしているうちに俺はそのまま眠りに落ちた。耳鳴りは相変わらず騒々しい。





 朝になった。


 まだ眠りこけているフィアを起こし、焚き火の処理をした後は見覚えのある道を戻って置き忘れていた薬草のカゴを回収した。


 そのまま無事に森を抜けた俺達は西側に遠く見える村へ向けて足を進めた。



「ユキヒロさんはどこから来たんですか?」


「俺は…言っても信じられないと思うけど異世界から来たんだ」


「あ、聞いたことあります!ユキヒロさんはつまり、魔王を倒すために異世界から召喚されるって言う勇者ってことですか!?」


「んー、大勢いる勇者候補の中のはみ出し者ってところかな」


「その他の勇者候補?達は今どちらに?」


「今頃王城で訓練とか受けてるんじゃないかな」



 何をしているのかは俺も気になる。


 でもレベル1で始まって急に実戦なんてことはないはずだ。仮にも勇者候補だし、重宝されて然るべきだ。


 俺みたいな無能とは違ってな。



「それじゃあ今はユキヒロさんは独りなんですね…」


「そんな暗い顔しないでくれ。今はフィアがいるから2人だ。何も寂しくない」


「ユキヒロさん…!そうですね、私達は仲間です!」


「そう言うフィアはどこから来たんだ?南からって言ってたけど。まだこの世界のこと詳しくなくてさ」


「私は…」



 そう言うとフィアは再びしょんぼりと俯いてしまった。



「あ、いや。言いにくいなら言わなくていいぞ!?」


「……私が住んでた村は、獣人の村でした」



 長い沈黙の後、ポツリとフィアが語り出す。



「でも、幼い頃に村が魔物に襲われて私を隠して庇った両親は死に、村も壊滅状態…。辛うじて生き残った皆も散り散りになって行方も分からなくなりました。残ったのは僅か数名で、私は祖母に育てられたんです」



 聞くんじゃなかった。


 あまりにも重く、そして悲しそうなフィアの表情は横顔だけでも痛烈だった。



「…そんな祖母も村にやって来た奴隷商人から私を守って、殺されました…。他の獣人達も若い人は捕らえられ、そうでない人は…容赦なく殺された。命辛々逃げ出した私はなんとか生き延びて、南方の村を転々としながらここまで来たんです」


「…辛かったな」


「……はい。でも、祖母はよく話してくれたんです。”英雄アーセル”の話を」


「英雄、アーセル……」


「世界がどうしようもなく苦しくて悲鳴を上げた時、かの英雄アーセルが現れて世界を救わん……祖母の、口癖でした。英雄アーセルの物語は世界のあちこちで語り継がれていて、私もそのどの逸話も大好きでした」



 フィアが歩みを止めた。



「でも、それはどこまで行っても逸話でしかないんです。祖母が、村の皆が酷い目に遭った時、私気付いたんです。英雄なんてどこにもいない…誰も、助けてはくれないんだって」


「それは…」



 何も言えなかった。


 現実、英雄はフィアを、フィアの村の皆を救ってはくれなかった。


 勇者だってそうだ。召喚されるとは言え、その矛先は常に魔王だろう。誰も彼もがその世界に生きる全てを救えるわけじゃない。


 そもそも魔王ってなんだ?勇者ってなんだ?なんでどいつもこいつも争いでしか解決しようとしない?


 耳鳴りがここぞとばかりにキーキーとうるさい。



「だから私、決めたんです。誰も助けてくれないなら、自分が強くなるしかないって。お金を稼いで強くなって。離れ離れになった獣人達を集めて、安心して暮らせる場所を作る…それが私の目的、夢です!」


「それ、絶対叶えよう。俺もどこまでやれるか分からないけど協力するよ」


「本当ですか!?ユキヒロさんに手伝ってもらえるなら、絶対出来ます!だって…」


「だって?」


「や、やっぱり何でもないです!」


「えぇ…ここまで来て隠し事するか?」


「何でもないったらないんです!ほら、ユキヒロさん!村が見えてきましたよ!」



 なんだか上手いことはぐらかされた気もするけど、まあ今を前向きに生きていられるならそれでいいか。


 俺は前を走るフィアが転けないか心配しながら足早に後を追い掛けた。



「……だって、私の英雄に会えたから」


「なんか言ったか?」


「わー!!何も言ってないですぅ!!」


「しょげたりはしゃいだり忙しい奴だな…って、前見て走んないと転けるぞ―――遅かったか…」


「う、うえぇ…!!」


「怪我1つしてない…!」



 恐るべき防御力。今度ステータス見せてもらおう。絶対カンストしてる。


 これから賑やかになりそうな予感を感じながら、俺は座り込むフィアに手を差し伸べた。

1話の半分の文字量ですって奥さん!

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