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6 星喰いの廃墟(アストラル・イーター)

 学園の地下深く。

 そこは、陽光の届く地上とは切り離された、冷徹な魔力が支配する異界だった。


 かつて王家が封印したとされる遺跡の壁面には、血管のように脈打つ紫色の回路が走り、先日クロヴィスから吸収した雷魔力によって、不気味な鼓動を刻んでいる。封じられた力を完全に解放するには至っていないことだけが、唯一の救いだった。


 何を目的として、これだけのエネルギーを集めていたのかは不明だ。だが、暴発すれば地上の学園ごと消し飛ぶ大惨事が起こる――それだけは、肌を刺す魔圧からひしひしと伝わってきた。


 クロヴィスが王家に伝わる禁書を調べあげた遺跡の構造。それを頼りに道を辿る。


「……空気が重てぇな。不渡りの利息が溜まりに溜まって、今にも弾けそうだぜ」


 リンが光の魔道ペンを抜き、空中に小さな光の球を灯した。


 暗闇が払われた先に現れたのは、幾重にも重なる巨大な歯車と、それらを繋ぐ魔力回路の奔流。


 学園そのものが、この巨大な『回路装置』の一部だったのだと、改めて突きつけられる光景だ。


「ここが……『星喰いの廃墟(アストラル・イーター)。文献でしか知らなかったが、これほどまでとは……」


「見たことねぇ幾何学模様だ。現代の魔法理論が三百年かけても追いつけないほど先に進んでやがるな」


「リン、来るよ」


 ガイの短い警告と同時に、通路の奥から金属質の擦れる音が響いた。


 闇の中から現れたのは、古代の自律防御兵器――銀色の甲冑を纏い、物理法則を無視した動きで迫る「星を護る騎士(アストラル・ナイト)」。


「一体、二体……マジか、素敵な数だね! リン、どうする?」


 ガイは楽しげに、けれど瞳に冷徹な魔力を宿して問いかける。


「決まってんだろ。一掃だ。……殿下、例のパスを。ただし、直接遺跡に当てるんじゃねぇぞ。あの雷が掠っただけで、この不発弾は爆発しやがるからな」


「わかっている! ……行けッ!」


 クロヴィスが右手を突き出す。王家の『紫電』が一条の槍となってガイへ向かう。本来、この地下で放てば壁面の回路を刺激し、破滅を招くはずの禁忌の雷。


 だが、その雷がガイに届く直前、リンの光の魔道ペンが空中に複雑な『変換式』を書き殴った。


「ガイ、一滴も漏らすな! 属性を剥離して『再構築(リビルド)』する!」

「了解!」


 ガイは、リンが空中に叩きつけた複雑怪奇な魔法陣の中心へ、迷わず手を突っ込んだ。

 飛び込んできたクロヴィスの荒々しい雷が、リンの設計図というフィルターを通るたび、その「色」と「性質」を削ぎ落とされていく。


 凶悪な紫色の光は、ガイの膨大な魔力と混ざり合うことで、遺跡の回路を刺激しない「無垢な純白のエネルギー」へと完全に組み替えられた。


「――変換完了。これなら遺跡の防衛システム(こいつ)も、自分に向けられた牙だとは気づかないよ!」


 続いてガイが視認したのは、次にリンが描いた殲滅用の攻撃図案。


 変換されたばかりの無垢で膨大な魔力が、無数の光の剣となって放たれた。それは騎士たちの核を正確に貫くが、壁面の回路を刺激することはない。遺跡の防衛システムを「騙し」ながら、その牙だけを折る。


 ブウン、という音とともに、銀色の騎士たちが一斉に崩れ落ちていった。


「……ふん。悪くねぇ連携だ。不発弾の信管を抜きながら、そいつを燃料にする。……殿下、その調子で遺跡の原動力にも特大のをぶちかますぜ」


「ああ、わかっている。俺の魔力が、これほど静かで力強い光に変わるとはな……」


 クロヴィスは自分の手を見つめ、少しだけ誇らしげに口角を上げた。



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