4 天球の灯の「不当請求」と攻略チーム
アンティークショップの地下拠点。そこには、王立学園の廊下よりも張り詰めた、しかしどこかズレた空気が漂っていた。
「――それで? そのポンコツ王太子のせいで、私の可愛いリリアーヌに万が一の危機が迫っているというわけかしら」
上座で長い脚を組み、扇子をパチンと閉じたのは、エレオノーラ・ド・ヴァランシエール。
彼女から放たれる威圧感は、並の騎士なら失神するほどだ。
「地下の遺跡は確実に目を覚ましたからな。お姉さまには些末なことかもしれねぇけど、一応お国の方にも万が一の危機が迫っているぜ」
「ポンコツはポンコツなりに、頑張ろうとしてるんだし応援してあげようよ、お姉さま」
リンとガイがそう報告すると、エレオノーラの瞳が冷たく鋭く光った。
「誰がお姉さまですか。……まぁ、いいでしょう」
再びゆっくりと扇子が開かれる。
そっと口許に当てると、控えているオスカーに目配せをした。
「ポンコツがリリアーヌに指一本触れられないように守った点についての報酬は後で弾んであげます。……オスカー、例の請求書はどうなっているかしら?」
「はい。王太子殿下の過失による精神的苦痛および緊急警備費用、さらに今後の事後処理を含め、王家が傾く程度の額を算出してあります」
ギルドの金庫番を担うオスカーが、眼鏡を光らせて書類を差し出す。
その時、拠点の重い扉が開き、一人の青年が入ってきた。王太子クロヴィスだ。
「……その請求、すべて呑もう。だから、頼む。私をこの度の計画のチームに入れてくれ」
クロヴィスの言葉に、ガイが「頑張れ、ポンコツ~」と小声で応援を送る。
「あら、殊勝な心がけですこと。……勿論ですわ、殿下。」
エレオノーラは薄く冷たく笑った。
「『星喰いの廃墟』の暴走は、通常の封印術では太刀打ちできません」
王家の秘匿情報を当たり前のように検証し終えている。クロヴィスは背筋を震わせる。
「リンの設計図、ガイの魔力、そして――王族特有の高純度な雷魔法『紫電』」
ゆっくりと数を数えるように、積み上げられる条件。
「この三つを完全に融合させ、全回路を一度に焼き切る『強制終了』以外に道はございませんから」
エレオノーラは立ち上がり、リリアーヌの肩を優しく抱き寄せた。
「リリアーヌ、怖かったでしょう? 安心なさい。お姉さまが、この世界のゴミを綺麗に掃除させてあげるから」
「お姉さま、私、怖くはありませんでしたわ。リンとガイが、ずっと守ってくれましたもの」
リリアーヌが天使のような微笑みを浮かべた瞬間、エレオノーラの背後から「絶望」を凝縮したような黒いオーラが立ち昇った。
「……そう。やはりこの二人、私のリリアーヌと仲良くしすぎのようね」
薄暗く目が濁る。
「……リン、ガイ。今の発言一回につき、報酬から一割引かせていただくわね」
「「なんでだよ!!」」
理不尽な不当請求に絶叫する二人の横で、クロヴィスが引きつった顔で囁いた。
「エレオノーラ嬢は、いつもあのような感じなのか?」
「あのような感じだよ。不条理の塊」
「てか、殿下はよくここに来られたね。護衛はどうしたのさ」
「エレオノーラ嬢から、侯爵家の所有の店へ招待を受けたことになっている。表向きは社交だ。彼らは外で待機している」
「あー……。帰りに高額な骨董品を買わされるパターンか。出費がかさむな、殿下」
リンの憐れむような視線に、クロヴィスは自分の財布の未来を察して、そっと天を仰いだ。




