秘密
仕事に一段落ついたので管理人に提出する書類をしまい、引き出しの中から少し古びた手帳を取り出した。端には少し、昔に付けてしまった血が掠れて付着している。一ページ目には二枚の写真が挟んである。
一枚はかつて、ルアとソウと共に撮った写真。
まだ僕が前髪を伸ばし始めたばかりの時で、今より幼く、しかし三人で撮影した最後の写真だった。確か、あの六月僕が四天王に決まった時に撮影したものだ。
そして、もう一枚。
これは僕の宝であり、大きな秘密。
幼い僕と、白衣を纏いマスクをする眼鏡をかけたどこか賢い雰囲気を纏う大人。
UNCが関わる大人など、限られている。担当の管理人と医者だけだ。それ以外関りのある大人は精々チームの代表として書類の申請をする際の受付くらいなもので、ここに映る人はそのどれでもない。また僕の担当補佐とかでもないし、親であるわけでもない。ただ、僕にとって大切な人で、今は声は聞けても会える人ではない。
まだルア達にさえ話していないこの人は、これから鬼呪一天がとても世話になるだろう。
手帳をまた一ページめくり、今度はかき込まれた多くのメモ。今はあまり関係のないページを飛ばし、中盤に来ると、今の僕の文字に近い文字になる。そして書き連ねられる鬼波の苗字と名前。
そして、中盤にあるページの一か所にある島々の地図。それを超えてメモにあるのは、僕が調べる謎達。
ソウの話も聞いて、今回あの日の真相が見えてきた気がする。まず、言えるのは真壁、麗奈による僕の追放について。
麗奈のUNC能力は『魅了』。僕はその効力を麗奈からは敵意を持った者にのみ有効だ、と聞いていた。しかし、実際の所は己に好印象を持った人間を三か月~半年程彼女自身に夢中にさせるものだった。
ただ、片想いしている奴には例外で無効でとのこと。また稀に意志が強すぎて効かない人もいて、真壁がそうだった。
ソウとルアには効かなかったらしいが、樹炎にいた面々のほとんどは一度麗奈の能力にやられているんだろう。これは今更問題にすることでもないな。
さて、問題は何故麗奈は僕に嘘をついたか。
まぁこれは単純に麗奈の目的は初めから、僕を消すことだったってことだろう。麗奈の出身は甲布島…兄貴に調べて貰ったリストによれば、甲布島には施設時代、不仲だった奴がいたくらいで、消される覚えはなかった。
他のことも兄貴に聞いたら、僕らUNCの島分けはUNC値によって決まるらしい。正直、未だに何なのかは理解し難いが、僕らUNCの血液中に存在する、赤血球に似た成分のことらしい。
赤血球は酸素を運んで体の隅々を巡るが、僕らのその成分はUN-物質と呼ばれ、赤血球と共に巡っている。その物質を元に、僕らは普通の人間より高い身体能力と治癒力持ち、加えてUNC能力もこの物質が元らしい。まだ解明され切っておらず、これくらいのことしかわかってないが、UNC値は普通の人間でも少し持っているようで、一般的に200を超えるとUNC判定がされるそうだ。
島分けの規定としては、樹炎にはUNC値が過去に能力発現時の平均値である500を上回っている者、守冷にはUNC値がそのUNC値平均よりも低い者、甲布にはUNC値が変動しやすく不安定な数値を出す者、海馬には四次UNCの者が集められる。
UNC値が変動しやすいということは、UNCでなくなる可能性が高いらしい。実際甲布島出身者の多くはこちらに移ることなく、本国のある大陸へ帰ったので麗奈について聞いて回ることはできない。
ただ、甲府の四天王ともなれば、UNC能力を持っていて、値としては十分残れる数値だったと思うのだが、誰一人こちらへ来ていないのは不思議だ。
僕だけが無能力と言われたのだから、間違いなく、彼らは所持していた。なのに、帰国した。UNC能力が発現して消えたという前例は数件しかないから、ここも何かあるかもしれない。
また、真壁に関しても嫌われるようなことをした覚えはないし、当然憎まれるようなこともした覚えはない。それどころか真壁と出会ったのは施設時代に二、三度サバイバルの課題で会っただけで、関わるようになったのは樹炎島に入ってからだった。
真壁は樹炎でルアと仲良くなり、そこから僕やソウと知り合った。真壁のことを調べようにも、何故か真壁のUNCリストには閲覧規制及び、情報の秘匿義務が付けられているらしい。
UNCリストとはUNCの出生時ことから、今に至るまでの能力などを事細かに記した書類である。
基本的に、担当以外のUNCの書類もUNC管理人は申請すれば見ることができるのだが、他に規制がかかっているのは二人あるらしい。僕のと、高坂優菜という人物のものだ。兄貴は僕の担当だから、別に僕のものは見れているのだが、問題は規制がかかっているということ。
その話から考えられるに、生まれた時から僕は真壁と何らかの因縁があるのかもしれない。
もう一人の高坂については最近まで余計にわからなかった。兄貴の昇進を待って教えてもらうしかなさそうだが、真壁と一緒にいたあの少女がおそらく高坂優菜だろう。兄貴に名前と顔、能力のリストを送ってもらい、この島にいるほとんどのUNCについては記憶している。消去法で考えてみると、おおよそ彼女が高坂優菜であることは確定だ。
同時に、確証はないが僕の勘が告げている。
あれは僕の双子の姉だ。鬼波優菜。僕に双子の姉がいることは昔から教えられていた。何があったかは知らないが、離れているにいるうちに、両親に何かあったのだろう。両親についてはまだ何も知らない。兄貴に資料を用意してもらおう。
姉だとするなら、何故、真壁と一緒に?あの人は僕のことをわかっていて真壁といる。
未だ謎が多すぎる。
麗奈が僕を狙った理由も、真壁との因果も、高坂のことも。
ひとまず、親路線から当たってみよう。もしかしたら、真壁の親のことは別ルートで見つかるかもしれない。これも頼んでおこう。
あと一年もすれば、この島の戦いは僕が天下を取れなくても終わるだろう。
それは間違いない。
南も北もかなり勢力が決まってきて、こっちに至っては先日僕が速鬼邪天を破ったから僕が収めたようなもの…まだまだ細かい勢力を固めたわけではないが…
こんな戦場を変えるには、まずは正規ルートで本国にいる王様に会いに行く必要がある。そうすれば、次に目指すは国としての独立。僕が天下を取れば当然そうする。もし、真壁との因縁が生まれた時からのものとするなら、外にも目を向けて調べることが何より重要になってくるだろう。
今更になって調べる理由は、ようやく全貌が見えてきたからだ。兄貴もやっと団長になって上層部から信頼されるようになった。調査にはもってこいだ。
翌日には兄貴からUNC達の親についての資料がたんまり送られてきた。どうやら、やっと僕の頼んだ情報が集まったらしい。
おまけに今の王政の情報まで送ってくれた。期待を込めて、早速目を通していくと驚きが隠せなかった。
「なんだ…そういうことだったのか…」
しばらく資料たちを眺め、考えをまとめた後、無線を繋ぐ。
「兄貴、聞きたいことがあるんだ。」
僕は不機嫌そうに出た兄貴に言う。
「こないだの春前事件の犯人、わかったんじゃない?」
『お前も気づいたか?』
楽しんでいるようなトーンの声だった。
「あぁ。犯人は―」
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俺達は生まれた時からこの戦場に立たされていた。皆理想がある。少なくとも、平和を望む人間は多い。なのに、この戦場が泣き喚かなかった時代はない。
生まれた時からUNC《俺達》は終わらせられてこなかったこの地獄を背負わされている。
何代も続いたこの地獄は、巡り巡って終わらせるために俺達を揃えたんだ。
これは確かにUNC《鬼波零斗》の物語。俺達の紡ぐ、未来への物語。




