魔法使いの魂を食べる
俺はビルギット神官から力を奪った後、復讐対象の三人をどうするか考えていた。
三人が一緒に揃っている時に力を使うのは不味い。
魂を奪っている最中は無防備になるので、残りのやつらに見られたら俺が殺される。
とはいえ、こっそり二人で会うことも出来ない。
フィフィーはともかく、ブリックとカイルは俺を公然と嫌っているからね。
なら、フィフィーから手にかけるかとも思ったけど、それじゃあつまらない。
あいつは勇者遠征なんてとっても誇らしい仕事を受け持ったんだ。
そこで名声をあげて幸せな気分になったところで、地の底の底へと叩き落としたい。
そして、絶望に満ちた顔で何をしたか尋ねたら、こう言い返してやるんだ。
惨めなフィフィーの姿を見ていると、安心出来るって。
そうなると、ブリックとカイルをはめるには、パーティで魔物狩りに出かけている間に仕掛けるしかない。
そして、出来れば強い魔物が良い。
そうすれば、俺が囮として使われて、あいつらはバラバラになってどこかに隠れる。
その時を狙うんだ。
そして、その時はすぐにやってきた。
「今日も森へトロールを狩りに行くわ」
どうやらフィフィーたちにとってトロール狩りはかなり美味しいらしい。
クエスト報酬も高いし、もらえる経験値も多いとか。
それが建前。
本音は何より一度獲物を決めたら、どちらかが死ぬまで追いかけるという単純さが良いとか。
ようするに俺を囮にすれば他の三人は安全で楽に経験値稼ぎが出来るって理由だ。
けど、それで良い。
「レイス、今日もヨダレまみれになっても気にするなよ? トロールのヨダレにまみれになっても、ならなくてもお前の臭いは大して変わらないからさ」
ニタニタと笑いながらブリックが嫌味を言う。
俺はその嫌味を聞き流して、いつものように無視をする。
そして、いつものように舌打ちされるが、今日はその舌打ちがむしろ心地良く聞こえた。
あぁ、これがブリックの最後の舌打ちだ。
「それじゃあ、まずはみんなで手分けしてトロールの足跡を探すわよ」
トロールは基本的に一匹で行動する。
だから、まずは住処を探して、そこへ俺を送り込むのがいつものやり方だ。
俺は適当にその場を離れたように見せて、ブリックの後をつける。すると、彼はキョロキョロと辺りを見渡していた。
周りにフィフィーもカイトもいない。
しかも本人は油断している。
やるならこのタイミングしかない。
俺は背後から音を立てずに忍びより、カイトの身体を魂魄喰の腕で貫いた。
「ガハッ!? レイス!?」
「レベルを返して貰うぞ」
「アッ!? ガアアア!?」
ブリックの魂の炎を握り潰すと、ブリックが痛みに苦しむような悲鳴をあげた。
その悲鳴とともに魔法の知識が流れ込んでくる。
神の祝福:魔力消費半減
スキル:ファイアボルト。フレイムワルツ。エクスプロージョン。
ブリックは火の魔法しか覚えていなかった。
この魔法で何度も俺を焼いてきた。
そして、その度に巻き込むのを楽しんでいたらしい。
そうか。なら、俺もお前の楽しみ方を真似てみよう。
あらかたブリックの能力を奪い尽くしたので、俺はブリックの身体から腕を引き抜いた。
魔法に必要な魔力が半分になるという便利な祝福も貰えたし、これから魔法を覚えた時にすごく役立つな。
「レイス……てめえ! ぶっ殺してやる! ファイアボルト!」
俺に魂を抜かれたブリックは、俺を殺そうと杖を構えて詠唱を始める。
けど、ブリックの魔法が発動することはなかった。
「魔法が使えない!? まさか、お前何かしやがった!?」
「記憶封印」
だから、余裕を持ってブリックの記憶を封印する魔法を発動できた。
今のやりとりを封印して、ブリックが能力を奪われたことを忘れさせる。
おかげで、ブリックは無能力者になった自覚なんて一切無い。
その状態で、モンスターの前に放り出されたらどんな顔をするだろう?
さっきみたいに魔法が出ないだけで歪んだ顔が、どれくらい醜く歪んでくれるだろうか。
「うっ……あれ? 俺は一体なにを? って、おいレイス! てめえはてめえの持ち場につけよ!」
「ちょっと道に迷って」
「けっ、これだから無能力者は。あっちだよあっち!」
シッシと手で追い払われた。
「んだよ。いちいちビビってぶるってるんじゃねえよ」
ブリックの言う通り、俺は今すごく震えている。
けれど、ブリックが怖いわけじゃない。笑い出しそうになったのを必死に耐えていただけだ。
その顔がこの後、どう歪むのか、見るのが楽しみだよ。
俺はその場を後にして、誰もいないところに行くと、ブリックから奪って覚えた魔法を試し打ちした。
撃てる。ブリックが使っていた魔法が全て使える上に、ブリックが貯め込んできた経験値のおかげで、俺のレベルも大きく上がっている。
これならカイトの方も正面から喰えるかもしれない。
そう思った瞬間、フィフィーから合図があった。
トロールを見つけた。一旦集合という意味の青い狼煙だ。




