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迷宮11)冒険者はいっぱい来るけれど?

「不思議なダンジョンだよねー」

「部屋が増えてるらしいよねー」


 今日わたしの迷宮を訪れたのは、双子の冒険者だった。

 ルーくんと同い年ぐらいの、可愛い女の子二人組みだ。


「そっちはさっき行ったよー、こっちじゃなーい?」

「そうかなぁ、こっちの気がするんだよねー」


 二人はいい感じに迷ってくれてる。

 やっぱり、二十一部屋もあると、それなりに迷うよね。

 前世のわたしだったら、一生出られない自信があるよ。


「うーん、魔物がいるわけでもないのにねー」

「結構いい薬草が手に入るらしいし、がんばろー」


 ポニーテールの子がおねぇちゃんなのかな。

 双子だけれど、なんだかそんな感じがする。

 こう、自分がしっかりしなくちゃ的な。


『こびっ☆』

『コビットさん、今日は二人分だから、増やさなくても大丈夫ですよ』

『こびこび☆』


 実は最近、迷宮に来る冒険者が増えているのです。

 コビットさんが育ててくれている薬草が、かなり高級品になったみたいで、それを求めて来てくれるの。

 でもその分、宝箱に薬草を入れる機会も増えたから、最近は一束ずつにしているのです。

 そしたら、この間、冒険者達が喧嘩になってしまったのですよ。

 なのでそれ以来、冒険者の人数分薬草を入れることにしている。

 やっぱり、喧嘩とかして欲しくないからね。


「おっ、宝箱発見!」

「やったね、おねーちゃん」


 薬草はちゃんと二束あるからね。

 二人で分けてね。

 双子の冒険者は、嬉しそうに宝箱から薬草を貰って去ってゆく。

 高値で売れそうって話してるから、また来てくれるかな。

 

 ちなみにこの世界の通貨の価格を、わたしはまだ知らない。

 冒険者が財布を取り出したときにコインとお札が見えたから、金貨だけ、銀貨だけ、というわけじゃないんだなって事ぐらい。

 知ったとしても、迷宮たるわたしに使い道もないしね。


 ただ、コビットさんの薬草は、ちょっと遠出しても欲しいぐらいに良い薬草に育っているみたい。

 わたしの迷宮にだけ来る理由にはまだ足りないけれど、王都に帰る途中によるとか、そんな迷宮になりつつある。


 おかげで迷宮パワーがまたしても溜まりまくっているのだけれど……。


『こびー……』

『うん、ルーくんだよね。もう来てくれないのかもね……』


 コビットさんがしょんぼりと肩を落とす。

 わたしもしょんぼりだ。


 ルーくんが来なくなって、もう二ヶ月になる。

 病気らしきフェアリアちゃんの事も気になるけれど、やっぱり、ルーくんのことが一番気になってる。

 初めて人として言葉を交わせた相手だしね。


『ぷーにぷに、ぷに』

『うんうん、スライムさんは壁をより一層綺麗に磨くから元気を出して、って? うん、ありがとう』


 スライムさんのお掃除は、本当に気持ちがいいのです。

 迷宮中の壁をぷにぷにっと進まれると、体中が解れる気がするの。

 最近スライムさんは分裂してお掃除してくれるから、気持ちよさも広範囲。

 迷宮だから疲れたりはしないんだけど、気持ちが楽になるの。


『こびっ!!!!』

『えっ、コビットさん、ルーくんが?!』


 慌てて意識を迷宮の上のほうに持っていく。

 以前よりもぐぐっと村に近づいたわたしは、ルーくんの姿をすぐに見つけることが出来た。

 ルーくんはなにやらものすっごく焦っているみたいで、村から全力でわたしの元に走ってくる。


 わたしは、ルーくんが迷わないようにぐぐーっとレンガを移動して誘導する。

 レンガの動きに合わせて難なく最奥の女神像に辿りついたルーくんは、随分疲れた顔をしていた。


 服装も、所々破けたりしていて汚れも結構酷い。

 いつもよりも装備が多くて、革の鎧と背中には木の盾、それに腰にはショートソードとロングソードを下げている。

 もしかして、どこかに冒険に行っていて、そのままここに来たのかな。


「迷宮さん!!」

『ルーくん、随分久しぶりだね。心配してたんだよ~?』

「お願いっ、スライムさんを貸して!」

『えっ?』

「フェアリアが、死にそうなんだ……っ」

『まってまって、落ち着いて欲しいの。フェアリアちゃんが、どうして? 具合が悪かったって言っていたのは覚えているけれど……』


 ルーくんは必死な様相だけれど、スライムさんとの繋がりがまったくわからない。


「フェアリアは、ただの病気じゃなかったんだ。魔族になんかされたんだ!」

『魔族……』


 そういえば、スライムさんを邪悪にした魔族もいたよね。

 わたしはまだ見たことがないのだけれど、この世界の魔族って、邪悪な存在なのかな。

 冒険者達の噂に聞く魔族は、大体人間にとって敵な感じだけれど。

 

『ルーくん、順番に話してくれる? ここ二ヶ月の事を』

「フェアリアの事を迷宮さんから聞いて、僕は急いで彼女の家に行ったんだ。迷宮さんがいつもくれる薬草を使ってもらいたかったし。

 そうしたら、丁度、カジンとノーチェがいてさ。

 二人に謝られたんだよ、嘘つき呼ばわりしてごめんって。

 それで僕は、薬草をカジンに渡したんだ。

 フェアリアの為に使って欲しくて」


 あの二人、ちゃんとルーくんに謝ったのね。

 事情はあったとしても、そこはずっと気になっていたから、ちょっとすっきり。


『フェアリアちゃんには、薬草から作る薬が効かなかったのかな』

「良い薬草から作った薬でも、フェアリアにとっては現状維持程度にしかならないって。

 だからカジンとノーチェは王都の有名な薬剤師を尋ねる事にしたんだ。

 そこに僕もついて行ったんだけど……お金が、足りなくなったんだ。

 迷宮さんから貰った薬草を売っても、まだ足りなくて。

 だからカジンとノーチェと僕の三人で、王都のギルドから依頼を受けてお金を稼いでた」


 なるほど。

 だからずっと、姿が見えなかったのね。

 こんなに長い間留守にするつもりもなかったでしょうから、行く前に連絡がなかったのも仕方がないよね。

 王都からはご両親には連絡が取れても、迷宮のわたしとの連絡手段なんてないもの。


『戻ってきたって事は、お薬は買えたんだよね?』

「うん。何とかお金を作って薬は買えたんだけれど、駄目だったんだ……」

『王都の薬剤師の薬でも、フェアリアちゃんは治らなかったの?』

「そう」


 王都の薬で治らないってことは、フェアリアちゃん、治らない病気なのかな。

 

「でもこの話には続きがあるんだ。

 王都の薬剤師は、僕達が買った薬とは別の薬もくれたんだ。

 紫色した小さな粒の薬で、魔族に関わっているかどうかわかる薬だって。

 もしも僕達が買った薬で病状が回復しなかったら、飲ませてみなさいって。

 魔族が関わっていたら、手の甲に、魔族の紋章が現れるからって……」

『……フェアリアちゃんに、その紋章が出てしまったって事?』

「うん……」


 うーん……。

 魔族はフェアリアちゃんに何をしたんだろう。

 スライムさんは邪悪になってしまったけれど、フェアリアちゃんは命を奪われかけているんだよね。


 でも、女の子の命を奪うだけなら、魔族には簡単な事じゃなかったのかな。

 人間にだって、簡単に出来てしまう事だと思う。

 なのにわざわざ病気みたいな状態にして、徐々に弱らせていくなんて。

 目的がまったくわからない。

 わからない、といえば……。

 

「だから、迷宮さん、スライムさんを僕に貸して!」


 うん、スライムさんがどう繋がるのか。

 お話を全部聞いていても判らなかったのです。


『スライムさんを、どうしてかな?』

「スライムさんは、治癒できるでしょう? 僕の顔の傷を治してくれたよね」


 初めて言葉を交わしたとき、殴られたルーくんの顔の傷をスライムさんは治してくれたね。

 でも、魔族が与えた病気を治す事って、可能なのかな。


『ぷにぷに……』

『うーん……』

「迷宮さん、スライムさんはなんて?」

『側に行ってみないと、治せるかわからないって』

「じゃあ、今すぐフェアリアのところに一緒に来て!」

『それは出来ないですよ』

「なぜ?!」

『ルーくん、初めてスライムさんをみた時のこと、覚えてる?』

「覚えてるよ、だからお願いに来たんだ」

『治した事じゃないの。ルーくん、スライムさんを剣で切ろうとしたよね』

「そ、それはっ。スライムさんが良いスライムさんだってわからなかったから……あっ」


 ルーくん、気がついてくれたね。

 スライムさんは、人間から見たら魔物で、バケモノだ。

 なのに村に連れて行ったりしたら、退治されちゃう。

 スライムさんを失うなんて、絶対に嫌です。


『もしもルーくんにわたしの声が聞こえていなかったら、ルーくんはあの時スライムさんと戦っていたよね。村の人たちも、そうだと思うの』

「僕が説明するよ! 悪いスライムじゃないって……」

『説明よりも早く、スライムさんは退治されちゃうと思う』


 人にとって、魔物は怖いから。

 もっとはっきり言ってしまうと、スライムを連れたルーくんも、罪に問われかねないんだよ?

 冒険者達が沢山来るようになって、色々この世界の雰囲気がわたしにも判って来ている。

 魔物は切り捨てるべき敵扱いです。


「でも、そんな、だってフェアリアが……」


 ルーくんの金色の瞳から、ぽろぽろと涙が零れて、わたしの胸も痛んだ。

 ごめんね?

 でもスライムさんを失うわけにはいかないの。


 しばらく泣いていたルーくんが、ふっと、顔を上げた。

 泣きはらした瞳が、女神像を見つめる。


「迷宮さん、ごめんっ!」

『えっ』


 ルーくん、言うが早いかスライムさんを抱きかかえて全力で走ってゆく。

 最奥の間を飛び出して、村へ戻ろうと走るけれど……。


 あの、その。

 ルーくん、それは無謀よ?


「ここから、出して! フェアリアがまっているんだっ。迷宮さんお願い……」


 ルーくん、数分もしないうちに迷いに迷って再び泣き出しちゃったよ……。

 でもわたし、何もしてない。

 ルーくんは方向音痴だから、わたしが誘導しないと出られないだけ。

 閉じ込めたりしないでって泣くけれど、わたしは本当に何もしていないのよ。

 わたしは女神像から、ルーくんの側の壁に意識を移動する。


『ルーくん、スライムさんを離してあげて?』

「迷宮さん……」


 それでも、スライムさんを離さないのね。

 フェアリアちゃんをここに連れてきてもらう事って、出来ないよね、きっと。

 病気で臥せっているんだものね。

 

 ぎゅうう……。

 

 涙目のルーくんが、無意識にスライムさんを抱きしめる腕に力をこめる。

 その瞬間、スライムさんがぷにっと二つに分裂した。


 そうだっ!


『ルーくん、スライムさんを連れて行く方法がわかったわ』

「本当?!」

『うんうん。スライムさんに、小さく分裂してもらったら隠せると思うの』


 いつもスライムさん当てゲームをやっていたから、わかる。

 いっぱい小さく分裂してもスライムさんはスライムさんだ。

 一口サイズぐらいまで小さくなってもらったら、他の村人に見つからずにフェアリアちゃんのところに連れて行けるはず。

 

『スライムさん、分裂してもらえるかな?』

『ぷーにぷにっ♪』


 ぷるん♪


 二つに分裂したスライムさんの片方から、一口サイズのスライムさんが飛び出した。

 スライムさん、分裂し続けなくても部分的に小さく分裂する事もできたのね。


「スライムさん、袖口に隠れれるかな」

『ぷにっ♪』


 スライムさんがぴょんと飛んで、ルーくんの袖の中に隠れた。

 うん、外からはぜんぜん見えない。

 完璧。


「迷宮さん、ごめんね。ありがとう」

『ううん、フェアリアちゃん治るといいね?』

「うんっ!」


 出口までレンガを動かして誘導すると、ルーくんは村へ走っていく。

 フェアリアちゃん、無事に治るといいな。

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